NEW2022年09月20日

日銀の金融政策決定会合 注目点は?

9月21日と22日に日銀は金融政策を決める会合を開きます。インフレを抑え込むためアメリカをはじめ世界の中央銀行が相次いで利上げに踏み切る一方、日銀は大規模な金融緩和を続ける姿勢を変えていません。こうした金融政策の方向性の違いを背景に外国為替市場では24年ぶりの水準まで円安が加速し、これが物価上昇にもつながる形となっています。日銀は今回の会合で何を決め、黒田総裁は何を語るのか。経済部で日銀を担当する古市啓一朗記者に聞きます。

円安の背景には日本とアメリカの金融政策の違いがあるということですが、今回の会合で、日銀はどう動くのでしょうか。

市場関係者の多くが、日銀はいまの大規模な金融緩和を維持するとみています。

日銀は、賃金の上昇を伴う形で物価安定の目標を実現する姿を目指していますが、7月の会合では物価の上昇に賃金の上昇が追いついていないという認識を示していました。

今月20日に発表された8月の消費者物価指数は、生鮮食品を除いた指数が去年の同じ月を2.8%上回り、5か月連続で日銀が目標としている2%を超えました。

しかし、賃金の上昇を伴う好循環を生み出しているとは言えない状況で、市場では、日銀が引き続き金融緩和を続けるという見方が大勢です。

古市記者
古市記者

急速な円安に手だてはないの?

日銀の黒田総裁は、7月の会合のあとの会見で、「金利を少し上げるだけで円安が止まるとは到底考えられない」と言い切っています。

さらに「金利を引き上げるつもりは全くない。長期金利のプラスマイナス0.25%のレンジを変更するつもりも全くない」と述べ、金融引き締めに転換することに否定的な考えを示しています。

古市記者
古市記者

金融政策で円安を是正するのは難しいということですね。ただ、このまま放置するわけにはいかないのでは?

そうですね。

円安が加速する中で政府・日銀の警戒レベルは上がっています。

そこで注目されるのが円安に歯止めをかけるために“市場介入”を行う可能性があるのかという点です。

これについて鈴木財務大臣は、9月14日、「為替介入も含めてあらゆる手段に対応する」とした上で、「やるときには間髪入れずに瞬時にやる」と発言。

“口先介入”のレベルをさらに高めました。

同じ14日には、日銀が銀行などに為替相場の水準を尋ねる「レートチェック」を行ったことが明らかになりました。

「レートチェック」は市場介入を視野に入れた準備の動きとしてとらえられ、これを受けて円を買い戻す動きもみられました。

ただ、円安に歯止めをかけるため、実際に円買いドル売りの市場介入に踏み切ることは難しいと考えられています。

記録的なインフレに苦しむアメリカがさらなる物価高につながりかねないドル安を簡単に容認するとは考えにくいからです。

古市記者
古市記者

日銀の会合の前にはアメリカのFRB=連邦準備制度理事会が利上げを行うという見方が広がっていますね。

日銀の会合の結果が発表されるのは22日の昼ごろ。

FRBが金融政策を決める公開市場委員会の結果発表はこれより前の日本時間の22日未明です。

FRBは物価の高止まりをふまえて大幅な利上げを決める可能性も指摘されています。

結果次第では日米の金利差が一段と意識され、円安がさらに進む可能性もあります。

また、22日は、日本とアメリカのほかにスイスとイギリスの中央銀行も金融政策を決める会合を開きます。

古市記者
古市記者

4つの中央銀行の金融政策を決める会合が同じ日に重なるというのも珍しいですね。

そうですね。

しかも4中銀それぞれの決定に市場は注目しています。

このうちスイスの中央銀行「スイス国立銀行」は日本時間の22日夕方に会合の結果を発表しますが、多くの市場関係者はマイナス金利政策を終える可能性があるとみています。

マイナス金利政策はデフレ脱却や経済の活性化を目的に異例の政策として一部の中央銀行で採用されましたが、ことし7月にはECB=ヨーロッパ中央銀行がこの政策を終了。

2012年に世界で初めてマイナス金利政策を導入したデンマークの中央銀行も今月8日、マイナス金利政策を解除しました。

この結果、もしスイスが利上げに踏み切ってマイナス圏から脱却し、日銀が金融緩和を継続すれば、OECDに加盟する38か国の中でマイナス金利政策を採用する国は日本だけとなってしまいます。

古市記者
古市記者

そうなると円相場にも影響が出そうですか?

その可能性もあります。

円が“マイナス金利通貨”として意識されると、金利が低い円で資金を借り入れ、より金利が高いドルなどの通貨で運用して利ざやを稼ぐ“円キャリートレード”が活発になり、円が売られやすくなるという指摘も出ています。

また、イギリスのイングランド銀行の金融政策を決める会合はエリザベス女王の死去を受けて1週間延期され、日本時間の22日夜に結果が発表されます。

市場ではインフレを抑制するために利上げを実施するとみています。

このように日本時間の22日は日銀のほかにアメリカ、スイス、イギリスと主要な中央銀行が相次いで金融政策を決める会合を開く予定ですが、日銀だけが「現状維持」となれば「動かない」という政策判断が際立ち円安が進む可能性もあります。

古市記者
古市記者

円安がさらに加速することにならないか心配ですね。会合後に黒田総裁の記者会見も予定されていますが、注目点はどこになりますか?

この日の市場の動きをふまえて黒田総裁がどのような発言をするかという点です。

黒田総裁は、円安が進んだ9月に入って「1日に2円も3円も動くのは急激な変化だ」と円安をけん制する発言をしたこともあります。

もう1つは金融政策の修正を示唆するような発言がないかという点です。

円安が進み、さらなる物価の上昇を招くということになれば、家計が圧迫され、個人消費にも影響が出ることにもなりかねません。

こうした状況でも日銀は、金融緩和が賃金上昇をもたらすまで我慢を続けるのか、黒田総裁の発言や発表文から何らかの変化が出てくるかどうかに注目です。

古市記者
古市記者

最近のマーケットは、経済指標や当局者の発言を材料にそのつど大きく動いているような印象があります。

そうですね。

最近の金融市場は、中央銀行の政策判断に影響しそうなニュースには敏感に反応します。

記憶に新しいのは今月13日のアメリカの消費者物価指数。

市場の予想を上回ったことで大幅な利上げが続くという見方が広がり、発表直後、円相場は瞬間的に2円50銭もの大幅な値下がりとなりました。

またダウ平均株価は終値で1200ドルを超える急落となりました。

このため日本時間の22日に4つの中央銀行が公表する結果やそれぞれの当局者の発言次第で円相場などが大きく動く可能性があります。

もう1つ、今回の会合では、新型コロナの影響を受けた中小企業向けの資金繰り支援策(コロナオペ)について、予定通り9月末で終了するかということも焦点になります。

日銀の中からは、「資金繰りの環境は緩和されており、コロナオペは役割を終えた」といった意見も出ていますが、会合でこの問題をどう判断するのかも注目されます。

古市記者
古市記者