NEW2022年09月08日

IPEFって何?ねらいは?

8日から2日間、アメリカのロサンゼルスでIPEF=インド太平洋経済枠組みの初めての対面での閣僚級会合が開かれます。影響力を強める中国を念頭にアメリカのバイデン政権が提唱した枠組みですが、この地域の貿易や投資の仕組みをどう変えようとしているのか。そもそもIPEFってなに?いったい何を議論するの?経済部の中島圭介記者、教えて!

IPEFって聞いたことはあるけどまだよくわかりません。そもそもどういったものですか?

「IPEF=インド太平洋経済枠組み」とは、「Indo-Pacific Economic Framework」の頭文字をつなげたものです。

アメリカのバイデン大統領がことし5月に訪日した際にIPEFの立ち上げに向けて協議を開始すると表明しました。

IPEFに参加しているのは日本とアメリカに加え、上記の図に示した14か国です。

TPP=環太平洋パートナーシップ協定に参加しておらず、経済規模が大きいインドのほか、東南アジアの7つの国が参加しているのが特徴です。

中島記者
中島記者

なぜバイデン政権はこの枠組みを提唱したのですか?

ひとことで言うと、中国への対抗心です。アメリカはトランプ政権のときにTPPから離脱しましたが、それからというもの、この地域での経済的な枠組みから距離を置いてきました。

これに対して中国は近年、巨大経済圏構想「一帯一路」のもと、インフラへの巨額の融資などインド太平洋地域での影響力を増大させていて、去年9月にはTPPへの加入も申請しました。

アメリカには、新たな枠組みを用意し、その議論をみずから主導することでこの地域への影響力を強めるねらいがあるんです。

中島記者
中島記者

それでIPEFでは何を交渉するのですか?

以下の4つの分野を交渉する方針です。

1「貿易」
2「サプライチェーン」
3「クリーン経済」
4「公平な経済」

まず「貿易」では、税関手続きの電子化といったデジタル技術を活用した貿易の円滑化などがテーマとなる見通しです。

次に「サプライチェーン」ですが、ロシアのウクライナ侵攻や新型コロナの感染拡大で有事の際の食料や資源などの供給網のぜい弱性が明らかになりましたよね。

部品の輸入が滞って、自動車などの生産に影響が出たのは記憶に新しいと思います。

そこでIPEFでは、半導体や資源、食料など重要な物資の供給が途絶える事態に備え、各国の政府内に調整役のポストを設け、どの国でどの物資が不足しているかなどの情報を共有し、影響を最小限にするための体制づくりを進める方向で検討しているということです。

中島記者
中島記者

まさに今、世界経済が直面する課題への対策を話し合うわけですね。

はい、このほか「クリーン経済」では、ロシアによるウクライナ侵攻でガスなどの安定供給が脅かされる中、エネルギー安全保障の強化や、脱炭素化に向けた協力の在り方について議論することにしています。

また「公平な経済」では、グローバル企業への二重課税の問題や、汚職を防ぐための取り組みなどについて交渉する方針です。

中島記者
中島記者

日本はIPEFの交渉にどう臨むのでしょうか?

日本も影響力を強める中国を念頭に、貿易や投資の新たな枠組みづくりを主導するという点でアメリカと思惑が一致しています。

ただIPEFは、これまでの経済連携と異なり、関税の撤廃や引き下げを交渉の対象としていません。

このため日本としては、IPEFの交渉を進める一方、アメリカに対して関税の撤廃や引き下げに限らない幅広い自由化を実現するTPPに復帰するよう、引き続き働きかけていくことにしています。

中島記者
中島記者

初めての対面での閣僚級会合ということですが、どういう成果が期待されているのでしょうか?

各国は先ほど説明した4つの分野でそれぞれ閣僚声明をまとめ、交渉開始の宣言を目指すことにしています。

注目すべきは、どれだけ多くの国がすべての交渉分野に参加するかです。というのもIPEFではすべての分野の交渉に参加する必要がなく、国ごとに参加する分野を選択できるんです。

言いかえれば自国に不利になりそうな分野の交渉には参加しないという選択肢もあるわけです。

中島記者
中島記者

なんか緩い枠組みですね。

IPEFを提唱したアメリカとしては、早期の交渉妥結にこぎつけるためあえて柔軟な枠組みにしたんだと思います。新たな経済連携の枠組みを実現すれば、中国との差を埋めることもできます。

ただ、ルールというものはなんでもそうですが、多くのメンバーが参加したほうが実効性は上がりますよね。

ですので日本としては、すべての交渉に参加する方針ですし、ほかの国にも、できるだけ4つの分野の交渉に参加するよう、働きかけを強めることにしています。

世界で分断が進み、グローバル経済が脅かされるなか、世界経済の課題に対応した新たな枠組みを作ることができるのか、注目したいと思います。

中島記者
中島記者