輸入小麦の価格据え置きでどうなる?

エネルギーや食料価格の値上がりが続いていますが、政府は輸入小麦の売り渡し価格を当面、据え置くための具体策を早急に検討するよう、農林水産省に指示しました。価格の抑制策をとるのは14年ぶりになるとのことですが、小麦の価格はいったいどうなるの?経済部の中島記者、教えて!

そもそも小麦の価格、なぜ政府が決めているのですか。
国内で消費される小麦のうちおよそ9割は輸入です。
政府は製粉会社などが求める小麦の銘柄を商社を通じてアメリカやカナダ、オーストラリアなどからまとめて輸入しています。
このように政府が国内の企業のためにまとめて輸入する仕組みを「国家貿易制度」といいます。

政府が一括して大量に買い付けることで品質を確保しながら安定的に調達するねらいがあります。
一方、政府は商社から引き渡された外国産の小麦を買い入れて製粉会社などへ売り渡します。
そして、その際の販売価格を半年ごとに見直しています。


政府が製粉会社などに売り渡す価格はどのように決まるのですか。
直近の半年間の輸入価格の平均値に港湾諸経費を加え、マークアップと呼ばれる政府管理経費や国内産小麦の生産振興のために割り当てる経費を上乗せして算出されます。
輸入小麦の価格には、アメリカのシカゴ商品取引所などで取り引きされる国際的な小麦相場の動向も影響を及ぼします。
また、外国為替市場の動きも輸入小麦の価格に影響します。
円安が進むと輸入価格は高くなります。
このように政府が決定する小麦の価格には、小麦の国際価格、為替相場、船の海上運賃などさまざまな要素が影響を及ぼします。
ことし3月に発表された4月から9月までの半年間の売り渡し価格は主な5つの銘柄の平均で1トンあたり7万2530円と前の半年間と比べて17.3%引き上げられました。
今の制度になってから2008年10月期に次いで、過去2番目に高い水準となっています。

価格引き上げの理由についてはアメリカやカナダなど主な産地での不作のほかウクライナ情勢の緊迫化で国際価格が押し上げられたこともあげられています。
前回の17%余りの引き上げでどのくらいの影響があるのかというと、農林水産省は食パンなら1斤あたり3円程度、家庭用薄力粉なら1キロあたり12円程度の値上がりにつながると試算しています。


10月以降の小麦価格、当面据え置くための具体策を検討するとのことでしたが、このままだと価格の上昇も予想されるわけですね。
政府が15日に開いた「物価・賃金・生活総合対策本部」の会合で岸田総理大臣は、輸入する小麦について、このままだと、10月以降、国際価格の高騰を反映して、2割程度の価格上昇が見込まれると述べていました。
先ほどご説明した小麦の輸入価格の決定要因、最近の状況に即して見てみましょう。
まず、小麦の国際価格ですが、シカゴ商品取引所で先物価格はロシアの軍事侵攻の直後に急上昇しました。
3月には1ブッシェル、13.635ドルと過去最高値をつけました。
ただ、その後は下落傾向が続き、8月に入ってからは8ドル前後で取り引きされています。
一方、外国為替市場で円相場はこの春以降、急ピッチで値下がりしています。
輸入小麦の価格はこうした状況をふまえて決定されますが、小麦粉を材料に使うパンや麺、菓子など食品関連の事業者は、さらに価格が引き上げられるのではないかと懸念を強めていました。
政府は今月12日、物価高騰の現状を把握するため食品会社やスーパーの経営者などからヒアリングを行いましたが、会合に出席したパンメーカー最大手の山崎製パンの飯島延浩社長は「売り渡し価格が今回また20%ぐらい上がると3回目の価格改定をせざるを得ないので、何とかそれを回避できないかとお願いさせていただいた」と述べていました。


それでは売り渡し価格の据え置き、具体的にはどのように行うでしょうか?
具体策の検討はこれからで、農林水産省は9月上旬をメドにどのような対応をとるかを決めることにしています。
実は2008年に小麦価格が高騰した際に農林水産省は総合的な経済対策の一環として売り渡し価格の引き上げ幅を特例的に圧縮する措置をとっています。
このときには本来、売り渡し価格の引き上げ率は23%と見込まれていましたが、農林水産省は値上げの幅を10%にとどめる対応をとりました。
その際差額を国が負担しましたが今回も同じように財政的な負担が発生する可能性があります。
こうした場合、その規模や財源をどう考えるのかが焦点となります。

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