作業現場の熱中症対策 進化するウエアラブル

異例の早さで梅雨が明けたあと、記録的な暑さとなった6月、熱中症で病院に運ばれた人の数は統計を取り始めた2010年以降最も多くなりました。
建設現場や工場など厳しい暑さのなか働く人たちにとって、欠かせない熱中症対策。
いま、こうした現場に対応するための、さまざまな技術やサービスの開発が進んでいます。
一体どのようなものなのでしょうか?経済部の背戸柚花記者教えて!

厳しい暑さが続く夏、建設現場や工場などでは熱中症対策が欠かせません。

どのような対策があるのでしょうか?

最近注目されているのは、ウエアラブル端末を活用した体調管理です。

私が取材したのはこちら、耳にかけるヘッドセット型の端末です。

大手電子部品メーカーが開発したもので、現在一部の建設現場に導入され、実証実験が進められています。

背戸記者
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どうやって体調管理に役立てるんですか?

クリップを耳たぶに挟んで、心拍数や血中酸素濃度などの生体情報を測定し、スマートフォンの画面にリアルタイムに表示するんです。

異常な数値が検知された場合は赤い文字で画面に表示され、体調の異変が一目でわかります。

それにこの端末、左右のこめかみの部分にあたるようにマイクとスピーカーがついています。

骨を振動させて音を伝える「骨伝導」の技術が使われていて、騒音の大きな場所でも快適に通話できる仕組みになっていることも、実は大きなポイントなんです。

背戸記者
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騒音の中で通話しやすいと、どんなメリットがあるのでしょうか?

騒音が大きな場所だと、音に邪魔されて、相手とコミュニケーションがとりづらいですよね。

自分が体調の異変を伝えたい時に、相手に正確に伝えられないとか、上司の指示が部下にうまく伝わらず危険を知らせることができない、といった事態を防ぐことが期待されているんです。

背戸記者
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なるほど。骨伝導技術の活用は、作業現場ならではですね。

私も現場の騒音を再現した部屋で、この端末を装着して通話を体験してみましたが、騒音に邪魔されることなく相手の声がはっきりと聞こえました。

端末を開発した「京セラ」の開発リーダー、大和田靖彦さんは、「体調の変化を察知して『大丈夫か』と連絡するなど、危険なときにちゃんと相手に伝えられる環境を整えたい」と話していました。

見落とされがちですが、コミュニケーションを円滑にとれるようにすることも体調管理の大事なポイントです。

背戸記者
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腕時計型のウエアラブル端末も利用が広がっていますよね。

そうですね。このうち、都内のIT企業は、腕時計型の端末に対応した体調管理のサービスに、去年からAIが熱中症のリスクを判断する新たな機能を設けました。

熱中症の前ぶれがある場合は端末が振動し、画面が黄色く光って、休憩を促すメッセージが表示されます。

また、休憩後の数値の変化も分析して、適切な復帰のタイミングを教えてくれるんです。

前ぶれを検知するにあたっては、直近2週間の個人の体調の変化をAIが学習していて、温度や湿度などの条件に応じ、1人1人に合わせた基準を設定しているそうです。

そして、その基準を超えて一定時間が経過すると、熱中症のリスクがあると判断され、アラートが出る仕組みになっているということです。

背戸記者
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このような客観的な指標があると、休憩の声かけもしやすくなりますね。

そうですね。熱中症の前ぶれを知らせるアラートが出ると、管理者の画面では該当する作業員の欄に赤い顔のアイコンが表示されるほか、ショートメッセージやブザーで知らせる機能もあります。

また、異変に気づいた管理者は、画面から作業員の位置情報を調べることもできるようになっています。

このサービスを利用している埼玉県のリサイクル工場で、作業員の管理をしている男性は、「今までは本人の判断基準に頼るしかなく、実際に体調に異変があるかわからなかったが、この端末を使えば全員のデータを一目で見ることができ、管理しやすくなった」と話していました。

開発した「ユビテック」の大内雅雄社長は、「自覚症状が出ないケースや言いだしにくいこともあるので、データを見える化することで休憩を取りやすくしたい」と話していました。

実際にこのサービスを導入したことをきっかけに、休憩の取得をルール化した企業もあるそうです。

背戸記者
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当面は、熱中症のリスクの高まる時期が続きます。

屋外だけでなく、屋内でも、細心の注意が必要ですね。

厚生労働省の調べでは2021年までの5年間の熱中症の死傷者数のうち、約4割が建設業と製造業で発生しています。

炎天下での作業はもちろん、屋内であっても空調設備の整っていない工場などでの作業は、やはり熱中症のリスクが高いといえます。

しかし、熱中症は自覚症状がないまま急激に悪化するケースもあり、自分1人ではなかなか判断がしづらいものです。

また、ちょっと体に違和感を感じていても、自分から「休みたい」と言い出せずに我慢してしまうケースもあり、熱中症対策は一筋縄にはいきません。

最新の技術を活用して熱中症を防ぎ、作業員も管理者もより安心して働ける環境がつくられるといいですね。

背戸記者
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