NEW2022年05月26日

電気料金も左右する? G7エネルギー・環境相会合

すっかり春になって暖かくなり、暖房も使わなくなったのに電気料金が高いのにぎょっとする方、少なくないと思います。これは発電所を動かすための燃料費が原油価格の高騰にともない、上がっているためです。そんな電気料金をも左右しかねない重要な会議が5月26日からドイツ・ベルリン近郊で開かれました。G7気候・エネルギー・環境相会合。G7各国の関係閣僚や政府関係者が一堂に会し、気候変動対策を議論する会議です。どんな会議になりそうなのでしょうか。経済部でエネルギーを担当する西園興起記者、教えて!

サンプル

どうして私たちが支払っている電気料金と国際会議が関係あるの?

国際会議と聞くと、抽象的なことばが多く、難しくて意味が分からない、そんな風に受け止めがちですよね。

西園記者
西園記者

はい、そう思っていました。

そうですか…

でもそういう会議ばかりじゃないんです。

具体的な数字で政府の動きを決める会議もあってそれは私たちの暮らしにも影響します。

その1つが26日からドイツで開かれるG7気候・エネルギー・環境相会合なんです。

西園記者
西園記者

どんな会議なんですか?

5月26日(ドイツ)

日本やアメリカ、ドイツなどG7・主要7か国の関係閣僚が集まり、今後、どういう方針で気候変動対策を進めていくかを話し合う会議です。

会議の最後に共同声明を発表するのですが、そこに書き込まれた内容は各国が守る約束事になり、G20やCOPなど世界の今後の脱炭素の議論にも大きな影響を及ぼすことになります。

さらに、ことしの会議はいつもと少し様子が違っています。

西園記者
西園記者

ロシアによるウクライナ侵攻ですか。

そのとおりです。

冒頭お伝えしましたが、もともとこの会合は主に気候変動対策、いわゆる“脱炭素”の進め方について話し合う会議です。

しかし、今回の会議では、脱炭素に加え、“脱ロシア”についても話し合う必要性が出てきました。

特に焦点のひとつとなりそうなのは、ロシア産天然ガスについていかに対応するかです。

G7は、石炭について、ロシアからの石炭の輸入の禁止または段階的な縮小、石油についても輸入を段階的、もしくは即時禁止することで一致しています。

そして、その次は、天然ガスについて厳しい措置に踏み込むのではないか、というわけです。

西園記者
西園記者

仮に輸入を控える動きが加速すれば、どういった影響が出ますか。

天然ガスパイプライン(ドイツ)

その影響は、石炭や石油に比べても大きいものとなるのは確実です。ヨーロッパのロシアへの依存度が高く、代替調達できる先も限られているからです。

ヨーロッパは天然ガスを主にパイプラインでロシアから輸入していて、ドイツでは輸入のうち43%、イタリアでも31%をロシアから輸入しています。

また、日本も他人事ではありません。

LNG=液化天然ガスの輸入量全体の8.8%をロシアから輸入していて、決して少ない量ではないんです。

ヨーロッパも日本も代替の調達先の確保を急ぐことになれば当然、天然ガスの価格が上がって、さらなる電気料金の高騰につながる可能性が高まります。

西園記者
西園記者

いまでも高いのに、これ以上の値上がりはさすがに困りますよ。

LNGタンカー

そうですよね。

特に、争奪戦になりそうだとみられているのが日本が輸入しているLNGです。

ヨーロッパが、ロシア産ガスを原則禁輸すれば、パイプラインのかわりにLNGの調達を増やすことになります。実際にドイツが世界有数のLNG輸出国・中東カタールとの間で、ガスの輸入を含めた協力関係の強化に動き始めました。

いわば、LNG調達の大競争時代と言える状況になり、日本も苦しくなります。

逆に、制裁措置に参加しない国は、ロシア産のガスを安く購入できるようになる可能性もあります。

西園記者
西園記者

ロシアへの制裁を強めると、ヨーロッパも日本も厳しい立場に追い込まれ、ロシアと関係の深い国が得をすることもあるということですね。とても複雑な気持ちになりますね。

ほかのエネルギー源で代替はできないんですか?

火力でいうと石炭がありますが、すでにG7は、ロシア産の石炭について原則禁輸に踏み切っているうえ、LNGと比べ、たくさんの二酸化炭素を排出するため、石炭の輸入を増やすのは難しいのが現状です。

去年、イギリスで開かれたCOP26では、主要経済国は可能な限り2030年代に石炭火力から移行するため、取り組みを進めるとしています。

今回のG7ではこれよりさらに踏み込んだ形で、石炭火力の廃止が議論されるかどうかが注目点です。

西園記者
西園記者

日本はまだ石炭結構使っていますよね。

石炭火力発電所(島根)

日本は2020年度のデータで石炭火力による発電が全体の31%を占め、2030年度も発電の19%を石炭火力でまかなう見通しとなっています。

石炭は比較的、いろんなところで採れるので石油のように中東に頼り切りということにならないこと、また、LNGのように常温で気化するようなこともないので、保管も容易であること、など優れた特徴があります。

このため、政府は現状は安定供給に優れた重要なエネルギー源だという立場を取っています。

日本国内では鉄鋼や化学など幅広い産業の製造過程でも、石炭が使われていて、石炭という選択肢を残しておきたい日本は難しい立場に立たされそうです。

西園記者
西園記者

脱ロシアと脱炭素。資源のない日本にとっては、かなり険しい道ですね。

そうですよね。

望みがあるとすれば、これまでの国際会議で廃止の対象になっていない“排出削減対策を取っている石炭火力”です。

西園記者
西園記者

どういうことでしょうか。

これまで廃止の対象となっているのは、二酸化炭素の排出削減対策を取っていない、石炭火力です。

逆にいえば、石炭火力の排出量を減らす対策を取っていれば、これからも石炭を使っていけることです。

碧南火力発電所(愛知)

この技術では、日本は一日の長があります。

たとえば、石炭に燃焼時に二酸化炭素を出さないアンモニアを混ぜて燃やす技術はすでに愛知県にあるJERAの碧南火力発電で実証事業が行われています。

また、広島県では、電源開発と中国電力が共同出資する会社が、石炭火力発電に二酸化炭素の回収技術などを組み合わせることで、二酸化炭素の排出を通常と比べ、9割以上削減できることを確認しています。

こうした発電設備は“クリーンな”石炭火力と見なすことができるかもしれません。

西園記者
西園記者

なるほど。

今回の議論は日本がこれまで投資してきた、こうした技術を将来に向けて残していけるかということなんですね。

脱炭素は待ったなしです。

ただ、そこに脱ロシアという要素が加わり、問題が複雑化しています。

私たちの電気料金の負担を抑えるためにどのような議論になるのか。

G7気候・エネルギー・環境相会合の結果に注目です。

西園記者
西園記者