男性の育休、とれていますか?
今回のテーマは男性の育児休業。今月から「育児・介護休業法」が改正され、従業員への制度の周知などが企業に義務付けられるようになりました。厚生労働省の調査で、取得率が12%程度にとどまっているという日本の男性育休。その促進のカギは?佐々木悠介記者、教えて!
男性育休の取得率わずか12%。法律の改正で男性育休のハードルは下がるのでしょうか?
佐々木記者
そうなってくれればと期待したいのですが、気になるデータもあります。
民間の調査で、企業の役員や部長級などのマネジメント層400人を対象に、男性育休取得への取り組みについて尋ねたところ「男性育休取得を促進している」と答えた割合は、従業員1000人以上の企業で59%だった一方、300人未満の企業では42%、30人未満では23%にとどまりました。
企業の規模が小さい中小企業ほど、割合が低い結果になっています。
企業の規模によっては、まだまだハードルが高いんですね。
佐々木記者
回答した経営者の声からは
「取り引き先の理解がないとできるわけがない」
「中小企業は体力がなく代替要員もいないので無理」
「育休中だけほかの人を雇うことも実際のところ難しい」などの「本音」ともとれる意見もあり、企業にとっては不安が大きいようです。
確かに社員が少ないとカバーする体制も考えないといけない。何かよい方法はないのでしょうか?
佐々木記者
そのヒントを探ろうと、従業員300人規模の都内のITベンチャーを取材してきました。
この企業ではネット通販のサイトを開設するサービスなどを行っています。
取材した事業開発を行う部署では、所属する3人のうち2人が相次いで育休を取得することになりました。
残ったのは47歳の男性マネージャー1人のみ。
ほかに担当部員もいなかったため、この会社では、これまで全く違う分野でキャリアを積んできた営業部の社員を異動させることを決めました。
畑違いの部から異動で、業務は回るのですか?
佐々木記者
会社では、上司と部下のマンツーマンのコミュニケーションを徹底しています。
注目するのは、その「徹底ぶり」です。
どのくらい徹底するんですか?気になります。
佐々木記者
これまで週1回だった業務報告を、異動してきた部下とは毎日行います。
1日30分間、仕事の進捗状況だけでなく、部下の悩みを上司がきめ細かく把握します。
時には、新たな業務でなじみがない専門用語も解説します。
ポイントは「毎日必ず」だそうです。
対面が難しいときはリモートで、業務の相談がない日は雑談だけでもかまわないといいます。
毎日会話を重ねることが、短期間での信頼関係作りにつながり、部下のスキルアップと効率的な業務運営につながるといいます。
きめ細かいコミュニケーションが、代わりを担う人材の育成につながるというのですね。
佐々木記者
私が取材した時には、上司と部下があだ名で呼び合う場面があり、垣根のない雰囲気を新鮮に感じました。
マネージャーに、不安はないかと尋ねましたが「仮に人数が減っても何らかのカバー対応をしてくれる組織だと信頼していた。育休を取得した社員には『おめでとう』という感情しかわかなかった」という答えが返ってきたのが印象的でした。
部下と上司の関係の近さという、規模の小さい企業ならではの環境を生かすことで、育休の促進につなげていると感じました。
でも、2人育休でカバーが1人となると、1人あたりの業務負担は増えますよね?
佐々木記者
そこは、仕事に明確な優先順位をつけたそうです。
例えば自分が抱える仕事のうちその日に処理するのは全体の9割までで、残りの1割は無理に残業せず、先送りすることもあるといいます。
その決断には、上司が直接、経営層との合意も得ています。
ほかにも、育休を取りやすくする企業の工夫はありますか?
佐々木記者
カバーによる業務量の増加を前向きにとらえてもらおうと、仕掛け作りをする会社も出てきました。
社員120人ほどの不動産仲介会社が今年から導入したのは、「社内副業制度」です。
たとえば不動産の買い付けを担当する社員が育休を取得した場合、その社員が担当していた仕事の内容を「物件探し」「買い付け交渉」「必要な書類の準備」「契約業務」などに切り分けます。
このうち、不動産の専門知識が必要な「契約」などは同じ部署の社員がカバーし、それ以外の業務は、別の部署の社員に発注して任せます。
別の部署の社員にとっては、本来業務以外の仕事が「副業」にあたるわけですね。
佐々木記者
そうなんです。ユニークなのは、別の部署の社員が仕事を請け負う場合、会社と新たに雇用契約を結び、普段の給料とは別に仕事の難易度に応じた報酬が手に入るのです。
この制度を統括する専務は「ただ『やってほしい』というだけでは、カバーする社員が仕事をやらされている気持ちになって良くないし、新たな仕事への対価なので報酬は払って当然。実際に導入してみると、スキルや業務の幅を広げるために副業してみたいという社員がたくさんいたのは発見だった」と話していました。
それにしても、男性の育休を進めない企業には、何か不都合が起こるのでしょうか。
佐々木記者
男性の育休をとりにくい企業には、今後人材が集まりにくくなる可能性があるという指摘があります。
先に紹介した民間の調査では、就活生の73.8%が「男性の育休に力を入れる企業を選びたい」と回答していました。
ワークライフバランスの問題に詳しい立命館大学の筒井淳也教授は、背景には共働き世帯の増加があると指摘します。
学生の意識が変化し、今は共働きをしないと余裕のある暮らしができないと考える学生が増えていて、福利厚生を充実させた企業が選ばれやすい傾向が強まってきているというのです。
立命館大学 筒井教授
「アメリカでは利益率が高い企業は、優秀な人材を採用するために福利厚生を充実させる傾向がある。短期的には業績にマイナスだと感じても、男性社員の育休を充実させた方が長い目で見れば企業の成長につながる」
人口減少の日本で、出産や育児のための女性の離職を防ぎ有能な担い手を確保するだけでなく、企業の成長戦略にもつながるという男性の育休取得。
当たり前に取れる環境をどう整えていけばよいか、法律の改正をきっかけに、企業も働く人たちもみんなで考えていく必要がありそうです。
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