NEW2022年04月01日

100均はどうなるの?値上げラッシュの春

4月1日、あれもこれも値上げのニュースを耳にします。
こんなとき頼りになるのが100均こと、100円ショップです。
でも、原材料高騰に円安、そしてロシアによるウクライナへの軍事侵攻。こんな状況で消費者の味方、「100均」はどうなっちゃうの?
サタデーウオッチ9の長野幸代キャスター、経済部・中野陽介記者、教えて!

100円ショップ、よくあの価格で売れるなあといつも感心していますが、この原材料高、どうなるんでしょうか?

長野記者

厳しい逆風ですよね。

100円ショップにはプラスチック製品が多いですよね。

原料となる原油は、ロシアのウクライナへの軍事侵攻後、高値が続いています。

全国で100円ショップを展開する「ワッツ」(本社・大阪)を取材してきました。

「ワッツ」が展開する100円ショップ

どんな対応をとっているのですか?

長野記者

商品のラインナップを決める会議では、ステンレス製のボウルが議題にあがっていました。

原材料のステンレスが高騰しているため、100円のボウルはサイズによっては原価が80円を超えているそうなのですが、これでは利益を出すのは厳しい。

100円ショップとしては取り扱いをやめるか、品質の高い300円の商品に切り替えるか、選択を迫られていたのです。

確かに私は100円の商品をよく買うけれど、300円とか500円とか、よく見かけますよね。

長野記者

この100円の商品と、300円など「ちょっと高め」の商品をどう組み合わせるのか、その技が100円ショップの経営のカギとなっているんです。

確かに何でもかんでも値上げしてしまっては100円ショップにならないですよね。

長野記者

そうなんです。

100円ショップですから会社も100円商品にはすごくこだわっています。

ただ、それだけでは経営が厳しくなってしまうので、100円ショップのなかには「ちょっと高め」の商品の割合を引き上げようとするところが出てきています。

ワッツの場合、これまで、高め商品の割合を10%を限度としていたのですが、今の原材料高を受けて、この割合を15%程度に引き上げることを検討しています。

このバランスが経営のうえでは大事なんです。

100円と「ちょっと高め」商品のバランスが大事ってどういうこと?

長野記者

この価格帯の商品は数は少ないですが、利幅が比較的大きくとれます。

一方、100円の商品は原価率が高く、大きな利益がだしにくいものが多いんです。

原価率の比較

「ちょっと高め」商品で稼いだ利益で、利益の少ない100円商品を支えている、こういう構図なんです。

ここを各社とも吟味に吟味を重ねてヒットする商品を出せると100円ショップとして事業がうまく回っていくということになります。

そういう仕組みなんですね。

具体的にはどんな商品があるんですか?

長野記者

ワッツで実際、店頭で販売されているもののひとつに手書きでメモや絵がかける電子メモパッドがあります。

電子メモパッド

大手メーカーのものだと1万円を超えるものもあります。

商品を企画するにあたって、液晶の材質を落とした低価格帯の試作モデルがつくられました。

しかし、会社内で議論した結果、消費者はもう少し使い勝手のいいものを求めているはずで、その方が売れるという結論になりました。

そして、小さい子どもがさわっても消えず、カバンに入れても持ち運べるようにとロック機能をつけたんだそうです。

確かにカバンに入れられるのは便利かも。

長野記者

そしてつけられた価格は500円。

100円ショップとしてはかなり高い部類に入る価格です。

こうした商品は月に2000個売れればいいところなんだそうですが、月6000個も売れ、大ヒットになったそうです。

少し付加価値をつける戦略が功を奏したということですね。

高付加価値品であればいいというわけではないですよね。

中野記者

そのとおりです。

ここからは中野も解説に加わります。

100円ショップのいちばんの売りは、これが100円!?という「驚き」にあります。

それを応用して、1つ上の価格帯でも「こんないいものがこんなに安いんだ!」という驚きを提供する。

それが100円ショップの重要な戦略になってきているんです。

なるほど、驚きが大事なんですね。

ところで、最近業績が右肩上がりだって言っていましたけど、100円ショップはいつごろからあるんですか?

中野記者

実は昭和初期にも、今の100円ショップの先駆けといえる店がありました。

「10銭ストア」と呼ばれていました。

10銭ストア

アメリカの10セントストアにならって「テンセンストア」と読みます。

不況でものが売れない中、せっけんやタオルといった生活必需品からおもちゃまでさまざまな商品が10銭、20銭、50銭と均一で販売されていました。

運営していたのは大手デパートの高島屋です。

多いときには全国で100店舗以上に広がりました。

でも太平洋戦争が激しさを増すにつれて商品の仕入れが厳しくなり、ほとんどの店舗が閉鎖に追い込まれてしまったんだそうです。

戦前は「10銭ストア」、今は100均、おもしろいですね。

しかし、この原材料高騰で100均は大丈夫なんでしょうか。

中野記者

確かにデフレの時代を背景に伸びてきた業界だけに、今の原材料高の局面で厳しいことは確かです。

でも、今の100円ショップはこの状況をある程度、先読みして準備をしてきたといいます。

なぜ先読みができたのか。

キーワードは「円安」です。

円安は新型コロナや今の急激な円安が進むはるか前、2013年ごろから進んできました。

100円ショップは十分検討する時間があり、「ちょっと高め」商品の戦略を練ってきたと専門家はいいます。

まだまだ成長する余力はあるといえそうです。

実際、ダイソーを展開する最大手の大創産業は300円を中心とした新たな業態の店舗「Standard Products」を去年3月に開業しました。

統一された内装の店舗は若い世代などに人気となっているようです。

そして、「脱100円」となることによってこれまでにない新たな付加価値がうまれる可能性を専門家は指摘しています。

流通アナリスト 中井彰人さん

「100円ショップは極限までコストを削って驚きの安さを実現し、長いデフレの時代を生き抜いてきたノウハウが蓄積している。
100円というかせが外れることで、このノウハウを活用してこれまで以上に驚くような商品を生み出してくれることも期待できる」

これから価格はちょっと上がるかもしれないけど、「この値段でこの機能」ならお得というものが増えるということでしょうか。

長野記者

そうですね。

大手の中には、あくまで100円を追求するお店もあり、会社の戦略によってタイプが分かれていきそうです。

今の新型コロナによる物流混乱や原材料高騰、それにロシアによるウクライナ侵攻。

100円ショップの前には壁が幾重にもたちはだかっていますが、逆にそれが100均の新戦略を加速させ、お財布に優しく、おもしろい商品を生み出すことになればいいなと思っています。

※(価格はすべて税抜き)