NEW2022年02月16日

企業再生のADRって、なに?

世界で有数規模の自動車部品大手のマレリホールディングス(旧カルソニックカンセイ)。厳しい経営環境に陥っていることから、取引銀行に金融支援を求める方向で調整に入ったことが明らかになりました。そこで、検討されているのが「事業再生ADR」。聞き慣れないことばですが、いったい何なの?古市記者、樽野記者、教えて!

「ADR」ってあまり聞いたことがないことばです。何ですか?

古市記者

ADRは“裁判外紛争解決手続”のことで、裁判をせずに法的なトラブルを解決することです。

このうち「事業再生ADR」は、企業再生の手法の1つです。

企業の立て直しには、借金の棒引きや返済の猶予などが必要になりますが、それには借り手側の企業と貸し手側の銀行などとの調整が不可欠です。

「会社更生法」とか「民事再生法」を利用する際には、その調整のため裁判所が関与することになります。こうしたケースは法的整理とも言います。

これに対して「事業再生ADR」は、第三者機関が選んだ弁護士や公認会計士が、企業と、銀行・取引先などの債権者との間の調整を行います。裁判所が関与しない、私的整理の1つとなります。

借金減免の調整って、いろいろ大変ですよね。法的整理の方が、調整がしやすいのでは?ADRを利用するメリットって?

古市記者

企業側にとっていちばん大きなメリットは、事業を継続しながら経営再建を目指すことができる点です。

ADRでは、基本的に金融機関の債権=借金が、整理の対象となり、原材料や製品のやり取り=商取引の債権は含まれません。

申請が受理されると、同時に債権の回収や担保の設定は停止され、法的整理の申し立てもできなくなります。当面の事業に必要な資金の融資を受けることができるので、とりあえずは安心して事業を継続できるんですよ。

マレリの場合は、さまざまな部品を多くの自動車メーカーに納めていますから、ADRによって事業を継続することは、自動車のサプライチェーンに影響が出るのを防ぐことができるということになります。

いいことづくめのように思いますが、デメリットはないんですか?

古市記者

1つ、大きなハードルがあります。ADRの場合は、債権放棄などの金融支援については、すべての債権者=金融機関が同意することが、成立の条件となっているんです。

マレリは、債権者の金融機関が海外を含めて20以上にのぼると見られ、このすべてで同意を得る必要があります。1つでも債権者が反対すれば、法的整理に移行することになります。

過去にも、ほかの企業では、いったんADRを申請しても、成立せず法的整理をすることになったケースもありました。

そもそもマレリってどんな会社なんですか?

樽野記者

空調システムやラジエーターなどの電子部品、それにエンジン回りの部品やマフラーといった、幅広い部品を手がける自動車部品メーカーです。

前身は、日産自動車の子会社「カルソニックカンセイ」で、以前の社名のほうがなじみがあるという人も多いかもしれません。自動車レースの最高峰・F1のチームを支えるなど、モータースポーツに力を入れています。

2017年にアメリカの投資ファンド・KKRの傘下に入り、その後、フィアット・クライスラーの部品部門だった「マニエッティ・マレリ」と経営統合し、社名をマレリに変更していました。2020年12月期の売り上げはグループ全体で1兆2000億円余り、規模では世界有数です。

そもそもどうしてADRの申請を検討するまでに至ったの?

樽野記者

経営統合で規模は拡大したものの、部品メーカーどうしの競争やEVシフトの流れなどもあり、3年連続で赤字が続いていたとみられます。

厳しさに拍車をかけたのが、新型コロナの感染拡大や半導体不足で、この影響で自動車メーカー各社からの受注が減少しました。この結果、2021年12月末の負債の総額は1兆円規模とみられています。

この間、本社を売却したり、生産拠点を統合したりするなどコスト削減を進めていましたが、再建を図るには金融支援が必要になったと判断したものとみられます。

経営の立て直しに向けては、どんな課題が?

樽野記者

まずはADR成立のために、金融支援について、すべての債権者=金融機関の同意を得ることがポイントになります。

また、歴史的に関係が深い日産自動車が、マレリの再建にどう関わってくるのかも注目が集まっています。

さらに、急速に進むEVシフトなど自動車業界全体が大きな変化を迫られているだけに、今後の成長戦略をどう描くかも重要です。

海外拠点を含めた事業体制の見直しも必要になってくる見通しです。

また、事業面や資金面でバックアップしてもらう、いわゆるスポンサー探しもポイントになります。