NEW2021年10月15日

TSMCの半導体工場日本に 何がすごいの?

半導体の受託生産で世界最大手の台湾のTSMCが14日、日本に半導体の新しい工場を建設する方針を明らかにしました。日本政府も大規模な資金支援をする方向という異例の対応。一体何がすごいの?どんな意味があるの?経済部の豊永デスク、教えて!

台湾の会社が日本に半導体の工場を建設するというのはどのような意味があるのですか?日本メーカーも国内に多くの半導体工場を持っていますよね?

豊永デスク

まず、このTSMCという会社が普通の半導体メーカーではない、ひと言でいうとスゴい会社だということです。

受託生産で世界最大手。いろんなメーカーの依頼を受けて代わりに製造している会社なんです。

その技術力は世界トップクラスとも言われています。

そんなにすごいんですか?私のパソコンにはアメリカの半導体メーカーのインテルのシールが貼ってあります。

豊永デスク

そのインテルも最先端の製品はTSMCに頼っているんです。受託生産で世界最大手というのはそういう意味です。

そのTSMCが日本に半導体工場をつくるわけです。

来年(2022年)に着工し、2024年に稼働を開始するというスケジュールです。

建設予定地とされている熊本県菊陽町

具体的な建設場所は14日の記者会見では明らかになりませんでしたが、関係者によりますと、工場は熊本県菊陽町にあるソニーグループの工場に隣接する場所にソニーと共同で出資して建設する方向で協議を進めているということです。

どんな半導体をつくるんですか?世界トップクラスのメーカーならトップクラスの半導体?

豊永デスク

これは14日の記者会見で説明がありました。

つくるのは実は性能がトップクラスの半導体ではありません。回路線幅が22ナノメートルから28ナノメートルという汎用性(はんようせい)の高い製品だと説明しています。

回路線幅って何ですか?

豊永デスク

難しいことばですが、数字が小さくなればなるほど、微細になる、それだけ高性能な半導体をつくることができるという意味になります。

今、TSMCは台湾で5ナノという高性能な半導体を生産していて、それに比べるとだいぶ数字は大きいですが、それでも日本メーカーがつくっているもっとも線幅が微細なもので40ナノですから、トップクラスではないけど、十分性能が高いとは言えそうです。

どんなニーズがあるのでしょうか?

豊永デスク

汎用性が高いと言いました。このクラスの半導体は自動車に使われたり、産業用の機械に使われたり、また、スマホのカメラなどの画像センサーの信号処理に使われたりします。用途が広いのです。

日本の自動車メーカー、機械メーカーなど幅広い顧客が手に入れたい半導体です。今、半導体不足ですからね。

ですからTSMCとしては工場をつくっても十分、売り先はある、利益を出せると考えているのではないでしょうか。

進出のねらいは分かりました。日本メーカーにメリットがありそうだというのも分かります。でもなぜ日本政府が1つの企業に資金支援する調整を進めているのでしょうか?

豊永デスク

これは世界各国の半導体をめぐる国家戦略との闘いという側面があります。

各国は半導体を重要な製品だと位置づけて、自国に製造拠点を誘致しようと多額の補助金を投じて、誘致合戦のような状況になっているのです。

やはり中国ですよね。

豊永デスク

はい。中国は基金を通じて、半導体関連の技術へ5兆円を超える投資を行う計画です。

一方、アメリカも日本円で5兆7000億円の半導体関連の投資を含む「アメリカ・イノベーション競争法」の審議を進めています。

すごい金額ですね。

豊永デスク

半導体はAI=人工知能や5G、データセンターや自動運転技術など成長が期待される分野に不可欠な部品だから、各国とも必死なんですね。

ここにおもしろいデータがあります。

ボストンコンサルティングとアメリカ半導体工業会の調査によりますと2019年の日本の半導体製造能力は世界の17%を占めていて第3位です。台湾の20%、韓国の19%には及びませんがアメリカの13%や中国の16%を上回っています。

製造能力では日本は頑張っているんですね。

豊永デスク

ところが、アメリカ、中国が巨額の政府補助で設備の増強をはかっていけば、日本のこの17%の製造能力は米中に抜かれて小さくなっていき、やがては自国で半導体がつくれなくなるおそれがあるのではないかと日本政府や産業界は懸念しているのです。

だから政府も最先端の半導体メーカーであるTSMCを誘致したいんですね。

豊永デスク

そういうことです。本当は日本のメーカーだけで対抗できればよかったのですが、今はそんなことを言っていられないので、これからの成長分野の半導体をきちんと国内でつくれる体制を築こうということで、資金支援をしようと調整を進めているのです。

どれぐらいの資金を出すのですか?

豊永デスク

まだ、協議中で固まっていません。ただ、今年度の補正予算で国内への優先供給などを前提に新たな基金をつくって資金支援する方向です。

補助の割合は半分程度で、対象範囲をどうするか経済産業省と財務省が協議しています。

政府の支援で日本の産業競争力が強くなるのか、これからが正念場だと思います。