NEW2021年09月17日

中国がTPPに?

中国政府は16日夜遅く、TPP=環太平洋パートナーシップ協定への加入を正式に申請したと発表しました。モノやサービスを自由に行き来させることを高いレベルで目指すTPPに中国はどんな意図で入りたいと思っているの?日本はどんなスタンスなの?
経済部で通商政策を担当する豊永デスク、教えて!

夜遅くに驚きの発表でしたが、TPPってすっかり忘れてしまっていました。トランプ前大統領が離脱の書類にサインするのは覚えているけど。

豊永デスク

あのシーンは何度も放送されたから記憶に残っている方、多いかもしれませんね。

そもそもですが、TPPは11か国からなる自由貿易の枠組みです。
日本、ベトナム、シンガポール、マレーシア、ブルネイ、オーストラリア、ニュージーランド、カナダ、メキシコ、ペルー、チリです。

もともとアメリカは交渉の主要国だったのですが、2017年1月、当時のトランプ政権が「通商交渉は2国間でやるべし!」と離脱を決断し、現在、TPPにアメリカは参加していない状況なんです。

中国の狙いは何なのでしょうか?

豊永デスク

正確なところはよく分かりません。ただ、ひとつヒントになるのが、別の自由貿易協定RCEP=地域的な包括的経済連携の存在です。

この枠組みは日本のほか、中国、韓国、ASEAN諸国など15か国が参加しています。
ポイントはもともと中国が参加していて、アメリカがいないこと。

へぇーアメリカが加わっていないんだ。

豊永デスク

そうなんです。このRCEPは9月15日までに来年1月初旬までの発効を目指すことで合意したばかりなんです。
このタイミングでの中国のTPP加入申請。
どちらの自由貿易協定ともアメリカはいない。
アメリカが加わっていると、激しい米中対立になるおそれがありますが、アメリカがいない今ならアジア・太平洋地域の貿易面で中国が主導権を握れる、こう考えたのではないかという説です。

中国がTPPに加入すれば日本にはどんな影響があるんでしょうか?

豊永デスク

あくまで仮定です。
仮に中国がTPPに加入すると、例えば日本から中国に輸出される半導体や自動車関連部品などにかけられている関税が引き下げられ、日本からの輸出が拡大することが考えられます。

また、現在、中国は福島県など10の県や都の農産物や水産物について、東京電力福島第一原子力発電所の事故を理由に輸入停止を続けています。
TPPでは科学的でない輸入規制はできなくなるので、こうした農産物や水産物の中国向けの輸出が再開できる可能性も考えられます。

しかし、ハードルは相当高いと、日本の政府関係者は異口同音に言います。

なぜハードルは高いのですか?

豊永デスク

TPPの貿易や投資などのルールが厳しく、自由化の水準が高いからなんです。
中国はこの高い水準に対応できるのかというと、日本の政府関係者の間では懐疑的な人が多数です。

どれぐらいハードルが高いかというと、日本が輸入する農業品や工業品などのうち品目数ベースでおよそ95%、輸出品では100%近くで関税が即時、または段階的に撤廃されることになっています。

これは日本がこれまで結んだ自由貿易協定の中で最も高い水準です。
野球に例えれば大リーグのようなもので、厳しい水準をクリアした国だけが入れる枠組みということになります。

中国は自由貿易では大リーグ選手にはなれない?

豊永デスク

中国にはTPPルールに適合しない部分がいくつもあると指摘されています。

例えば、国有企業への優遇措置を行っている、ネット上のデータ移転の自由が認められていない、知的財産の保護の徹底が図られていないなどです。

こうしたことを中国が修正する覚悟があるのかというと、多くの日本政府関係者は首をかしげるわけなんです。

日米同盟とかよく言うから、アメリカにも配慮しなければならなそうですね。

豊永デスク

そのとおりです。
いくらTPPにアメリカがいないといっても、いつかはアメリカが戻ってきてくれるかもしれない。

その前に中国と貿易自由化で手を組んでいいのか、安全保障の面からよくないのではないかと心配する政府関係者もいます。

いずれにせよ、今回の中国の発表で、アジアにおける米中の覇権争いは、貿易の点でもいっそう激しくなることが予想されます。

また、日本を含む各国の水面下の駆け引きも活発になることが予想されます。