NEW2021年07月12日

知りたい!国際課税ルール

「100年ぶりくらいの歴史的な変化だ」
G20=主要20か国の財務相・中央銀行総裁会議後の記者会見で、麻生副総理兼財務大臣は新たな国際課税のルールをめぐって合意できたことに胸を張りました。いったい何が歴史的なの?
合意の背景と課題について、経済部 楠谷記者が解説します。

そもそも新たな“国際課税のルール”って何ですか?

楠谷記者

GAFA(グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン)に代表される巨大グローバル企業から、各国が適正に法人税を徴収できるようにしようというルールのことです。OECD=経済協力開発機構の加盟国を中心に、2012年から交渉が続いています。

ポイントは以下の2つです。

  1. 巨大グローバル企業の誘致を目的とした法人税の引き下げ競争に歯止めをかけるため最低税率を15%以上とする
  2. 国境を越えて音楽や動画のネット配信などのサービスを展開している巨大グローバル企業のビジネスモデルに即して各国が課税できるようにする

何がそんなに「歴史的」なんですか?

楠谷記者

今の国際課税ルールは、およそ100年前にできました。

製造業中心の考え方に基づいていて、その国に工場やオフィスなどを持つ企業が課税の対象となります。物理的な拠点が無ければ法人税の徴収が難しかったわけですが、新ルールは、この原則を抜本的に見直すものです。

G20財務相・中央銀行総裁会議(イタリア ベネチア 7月10日)

今月9~10日にイタリアで開かれたG20の会議では、これまでにOECDの加盟国など132の国と地域が大枠合意した内容を閣僚レベルで「承認」し、G20としても「歴史的な合意を成し遂げた」と成果を強調しました。ことし10月までの「最終合意」を目指します。

ここに来て大枠合意に至った背景には何があるんですか?

楠谷記者

ひと言で言えば、「巨大グローバル企業に富が偏っているという問題意識が、新型コロナウイルスの感染拡大によって強まったから」だと思います。

各国は、感染拡大で打撃を受けた経済を支えるため、巨額の財政出動を行ってきました。一定の効果は上がりましたが、財政が悪化した分、今度は税収を増やす必要があります。このため、今の国際課税のルールを見直して、コロナ禍でも利益を上げている巨大グローバル企業からもしっかり徴税できるようにしようという機運が高まりました。

それともう1つ、アメリカの政権交代も大きかったとされます。

どういうことですか?

楠谷記者

前のトランプ政権は、アメリカの巨大グローバル企業のビジネスに悪影響が出かねないとして、課税強化に慎重な立場を崩しませんでした。

アメリカ バイデン大統領

しかし、バイデン政権になると、一転して「最低税率15%以上」という具体的な数字まで持ち出し、交渉の主導役を担いました。

アメリカがいわば「国際社会に戻ってきた」という姿勢をアピールしたいねらいもあったとみられます。こうして、多くの国がまとまることとなり、大枠合意が実現したわけです。

国家の主権にも関わる「税の在り方」を巡って各国が一致したことは、大きな意義を持つと言えるのではないでしょうか。

10月までの最終合意を目指すということですが、今後の課題は?

楠谷記者

低い税率でグローバル企業を呼び込んできた国も含め、国際社会全体で合意できるかどうかです。

交渉参加国・地域のうち、法人税を低くしているアイルランドやハンガリーなど7か国は合意に加わっていません。こうした国を説得し、139の国と地域すべてで合意できなければ、ルールを整備しても実効性は高まりません。

今の課税ルールが時代にそぐわないとして、真っ先に声を上げたのは日本とされています。

最終合意に向けて議論を主導し、国際社会の結束を促せるかどうか。今後一段と本格化する交渉では、日本のリーダーシップも問われることになります。