NEW2021年06月11日

なぜ職場でワクチン接種?

新型コロナウイルスの収束の「切り札」とされるワクチン接種。6月21日から、企業などでの集団接種、いわゆる「職域接種」が始まる予定です。自治体などが主体になって行われている現在のワクチン接種とどう違うのでしょうか。そして働いている人なら誰でも受けられるのでしょうか?経済部の池川陽介記者が解説します。(6月11日時点の情報に基づいています)

企業でのワクチン接種が毎日のようにニュースになっていますね。いったいどんなものですか?

池川記者

職場などでのワクチン接種「職域接種」について、国は一部を除いて6月21日から始める方向で準備を進めています。

対象になるのは全国の企業や大学などです。ただ、どの企業でもすぐに接種が始められるわけではありません。

職域接種を行う企業や大学は、会場や接種予定回数、開始予定日などの計画を立てたうえで、事前に国と都道府県に申請を出す必要があります。申請が承認されれば、必要な数のワクチンが国から企業や大学に届けられる仕組みです。

自治体での接種では現在、ファイザー製のワクチンが使われていますが、職場などでの接種ではモデルナ製のワクチンが使われる予定です。

なぜ職場でのワクチン接種が進められるのでしょうか?

池川記者

65歳以上の高齢者を対象にしたワクチン接種は、国の調査で、全国の自治体の99%で7月末までに終了する見通しになりました。

その後は一般の人を対象にしたワクチン接種が本格化する見通しですが、対象となる人数が多いため、自治体の負担が大きいことも予想されます。

職場などでの接種を進めることで、自治体の負担を軽くするとともに、平日の日中に働く人でも接種を受けやすくして、日本全体のワクチン接種を加速させたいという国のねらいがあるようです。

ほとんどの企業や大学にとって接種は初めての経験だと思いますが、課題も多いのではないでしょうか?

池川記者

そうですね。接種の担い手となる医療関係者や、接種会場となる場所をどう確保するかは大きな課題です。

実際にワクチンの接種を担う医師や看護師は企業などが確保する必要があります。

従業員50人以上の企業は、もともと、従業員の健康管理などを担う医師を「産業医」として選任することが法律で義務づけられていて、国は産業医にワクチン接種の担い手としての役割を期待しています。

ただ、多くの産業医は嘱託で、ふだんはほかの医療機関に勤めているなど、企業に常駐しているわけではありません。企業によっては、産業医がワクチン接種の担い手の役割を果たせないこともありそうです。

また、接種会場や会場運営のスタッフなども企業や大学がみずから確保する必要があり、大きな負担になると指摘されています。

企業の動きは、実際にどうなっていますか?

池川記者

職場などでのワクチン接種の申請の受け付けは6月8日に始まりました。

初日の午後5時の時点で400を超える会場の設置申請があり、大企業を中心に関心の高さがうかがえました。

海外とのビジネスを行う総合商社の伊藤忠商事は、正社員やグループ会社の社員に加えて、警備や清掃を行う委託先の社員、事業所内保育所の保育士など、合わせて7500人を対象に21日からの接種の開始に向けて準備を進めています。

宮城県に本社があるアイリスオーヤマは、国内の生産拠点や事業所で、従業員やその家族を対象に接種を始める予定です。従業員などの接種が終わり次第、近隣の住民向けに会場の施設を無償で提供することも検討しています。

中小企業など規模の小さい企業や団体での実施は難しいのでしょうか?

池川記者

国は効率的に接種を進めるため、まずは1000人以上の規模がある企業などから接種を始める方針です。

今後、中小企業などが職域接種を実施するには、さまざまな工夫が必要になってきそうです。

自治体にワクチン接種のコンサルティングを行っている犬飼健一朗さん(PwCコンサルティング)に聞いたところ、大企業以外での職域接種の実施に向けて、以下の2点をポイントにあげています。

(犬飼さん)
「今回のワクチン接種では健康保険組合が中心になって行うケースが多いようです。工業団地など、近い場所にある企業どうしは健保組合のつながりがもともとあり、まとまって接種を実施できないか検討しているところもあります。

また、一から接種の会場などを立ち上げるのは負担が大きいので、定期健康診断など既存の仕組みを活用することも接種をスムーズに進めるためのカギになります」

企業どうしの連携の例として、東京の投資会社「コーラル・キャピタル」のケースがあります。この会社は、投資先の医療関連会社や別の投資会社と協力して、ベンチャー企業を中心に1000を超える会社の従業員と家族、合わせて2万人規模での接種に向けた準備を進めています。

自治体や企業、大学などがそれぞれ知恵を出しあい、希望者がスムーズに接種を受けられる仕組みづくりが必要になりそうです。