NEW2021年05月21日

ワクチン休暇、なぜ必要?

新型コロナウイルスのワクチン接種をめぐって、企業の間では「ワクチン休暇」を導入する動きが広がっています。このワクチン休暇って、有給休暇とはどう違うのでしょうか。そしてなぜ必要なのでしょうか?経済部の池川陽介記者に聞きます。

ワクチン休暇って、最近よく聞きますが、どんな休暇ですか?

池川記者

ことし2月に医療従事者などから始まった新型コロナのワクチン接種は、現在、高齢者にも対象を拡大し全国の自治体で本格化していて、一般の人の接種も順次始まる見通しです。

企業の間では従業員のワクチンの接種がスムーズに進むよう、「特別有給休暇」を設けるところが出ています。

この休暇には統一したルールがあるわけではなく、どんな制度にするかは個々の企業が判断していますが、こうした休暇を総称して「ワクチン休暇」と呼んでいます。

なぜワクチン接種のために休暇が必要になるのでしょうか?

池川記者

すでに導入を決めている企業に取材してみたところ、理由は大きく2点あげられました。

(1)従業員がスムーズに接種できるようにするため
企業の従業員は平日の日中に接種を受けることが難しく、週末や仕事が終わった後などに集中する可能性があります。そうなると会場が混雑したり、接種を終えるのに時間がかかったりして、接種がスムーズに進まないおそれがあります。ワクチン休暇があれば、平日の日中に接種を受ける人も増え、混雑を避けられると考えられています。

(2)安心して接種できるようにするため
新型コロナのワクチンは、接種当日や翌日などに副反応として痛みが出たり、体調が悪くなったりするおそれがあると言われています。こうした副反応が出た場合でも、従業員が安心して休みを取れるよう、仕組みを整えておく必要があるというのです。

ワクチン休暇は、通常の有給休暇とは何か違うのでしょうか?

池川記者

「年次有給休暇」は労働基準法で決められた労働者の権利です。企業で働いた期間に応じて、1年間に一定の日数を会社から付与され、原則、従業員が好きなときに取得できます。

せっかく得た権利である有給休暇をワクチン接種のために使ってしまうことには抵抗がある従業員もいるかもしれません。このため、接種を円滑に進めようと通常の有給休暇とは別に設ける「特別有給休暇」がワクチン休暇だといえます。

また勤務時間中にワクチンを接種しても欠勤にせず、勤務扱いにすることで対応しようという企業もあります。

一方、ワクチンを受けたくない人との公平性や、すでに多くの休暇を設けていることなどから、ワクチン接種に限った休暇の導入を見送る方向で検討している企業もあります。

ワクチン休暇は、どんな企業が導入しているのでしょうか?

池川記者

大手を中心に広がり始めています。その一例を下記にあげてみましたが、企業によって内容は少しずつ違っています。

▼SMBC日興証券
およそ9700人の正社員と契約社員を対象に、本人が接種する当日と副反応が出た翌日にワクチン休暇が取得できる。

▼アフラック生命
正社員およそ5000人を対象に接種日や副反応が出た時、合わせて最長で12日間の休暇を認める。1日単位だけではなく、時間単位での取得も認める。

▼ソフトバンク、メルカリ
勤務時間中のワクチン接種を認め、副反応が出たり、家族の接種の付き添いが必要になったりした場合には特別休暇を取得できる。

▼三菱電機
正社員・契約社員・嘱託社員・パートタイマーなどのすべての直接雇用の従業員は、ワクチン接種を希望する場合は、従来の有給休暇とは別に平日に1日や半日の休暇を取得できる。

中小企業でも導入できるのでしょうか?

池川記者

労働問題に詳しい特定社会保険労務士の佐藤広一さんによりますと、ワクチン休暇は中小企業でも十分、導入できるということです。

佐藤さんのもとには、3月ごろから大手企業を中心にワクチン休暇の相談が寄せられていますが、今後は中小企業にも広がると予想しています。

そのうえで佐藤さんは「中小企業でも年次有給休暇以外にさまざまな休暇制度を用意している企業もある。既存の制度で対応できるならば、必ずしも新たな仕組みを用意する必要はない。中小企業の経営者や人事などの担当者は、まずは自社の就業規則を確認してみてほしい」と話しています。

一般の人への接種が本格的に始まる前に、従業員も、まずは自分の勤め先がどう対応しようとしているのか確認してみるのがいいかもしれません。