NEW2021年04月13日

大転換に?法人税引き下げに“待った”

「世界では30年間も法人税の引き下げ競争が続いてきた」。 4月5日、アメリカのイエレン財務長官が、各国が競い合ってきた法人税の引き下げに“待った”をかけました。工場誘致や投資の呼び込みなど、経済の活性化を期待して各国が行ってきた法人税の引き下げ。イエレン長官の“待った”を機に、大きな転換点を迎える可能性が出てきています。

そもそも法人税率の引き下げ競争というのはどのような状況だったのでしょうか。

企業が拠点や工場を設けるとき、法人税が安い国につくった方が税の負担は減りますよね。そこで、各国は、法人税を下げることで投資を呼び込もうとしてきたんです。

歴史的にみて、引き下げの口火を切ったのはイギリス。イギリスの法人税率は1980年代初めまで50%を超えていましたが、経済立て直しを目指す当時のサッチャー政権が1983年に税率の引き下げに踏み切り、これが各国に広がっていったとされています。最近の状況を見ても、イギリスは2010年時点の28%が現在は19%と、先進国で最も低い水準に。

また、アメリカはトランプ政権時代の2018年に35%から一気に21%まで引き下げました。

日本も、こうした動きに対抗する形で実効税率で2014年度の34.62%から段階的に引き下げ、2018年度からは29.74%となっています。

たしかに引き下げ競争といった様相ですね・・・。

ただ、引き下げ競争が行き過ぎると、各国の財政基盤が弱くなるだけでどの国にとっても得になりません。また、世界的に事業を展開する多国籍企業が税率の低い国の子会社に利益を移すといった手法で税負担を抑えようとする事例も相次ぎ、批判を受けました。そこで、国際的な法人税の改革が検討されてきたんです。

今回、イエレン財務長官は、法人税に世界共通の「最低税率」を設定することを呼びかけました。最低税率をめぐる議論は国際的な枠組みで議論が進められていて、ルール作りで合意できれば、法人税引き下げ競争の歴史が変わる大きな転換点になると言えます。

アメリカが今、各国に懸命に呼びかけるのには理由があるんですか?

バイデン政権の国内事情が関係しています。1月に発足した新政権の経済政策の特徴は、大規模な財政出動。3月に個人への現金給付などを柱とする200兆円規模の「レスキュー・プラン(=救済計画)」を成立させたんですが、すぐさま、国内のインフラ整備に8年間で220兆円を投入する「ジョブズ・プラン(=雇用計画)」も発表しました。

こうした巨額の予算をまかなう財源として、バイデン政権は法人税率の引き上げを表明したんです。新型コロナウイルスの感染拡大でますます深刻化する格差問題への対応のためにも、企業への課税を強化するという手法に乗り出したわけです。

ただ、アメリカだけが法人税率を上げてしまうと、企業が海外へ逃げてしまいかねません。だからこそ、各国にも同調を呼びかけたのだと思います。

アメリカの呼びかけで、議論は進むのでしょうか。

「最低税率」の導入を含む議論は、OECD=経済協力開発機構の加盟国を中心におよそ140の国と地域で作るグループが進めていて、ことし半ばまでの合意を目指しています。世界最大の経済大国・アメリカが議論を主導する姿勢をみせたことで、進展は期待できます。

一方で、具体的に最低税率の水準をどう設定するかについては、今も各国の意見が分かれています。また、国際的な法人税改革は、国境を越えて事業を展開する巨大IT企業などへの「デジタル課税」をめぐる議論とセットで進められていて、こちらの調整も必要なため、すんなりとまとまるかどうかは予断を許しません。

難しい利害調整を乗り越えて歴史的な大転換の実現にこぎつけられるか、今後の議論は注目です。