NEW2021年03月23日

有機農業どう増やす?

農林水産省は、持続可能な農業の実現に向けて、2050年までに有機農業を農地全体の25%に拡大するという目標を盛り込んだ新たな戦略案をまとめました。この目標は達成できるの? 農林水産省担当の川瀬直子記者教えて!

そもそも「有機農業」って、どういうものなの?

川瀬記者

簡単に言えば「自然の営みを生かした農業」のことです。
日本では法律で

▽化学的に合成された肥料や農薬を使わない
▽遺伝子組み替え技術を使わない
▽環境への負荷をできるかぎり低減する

という条件を満たした農業と定義されています。

国際的な基準では、これに加えて、

▽種や苗を植える前の2年間も化学肥料や農薬を使わない
▽他の畑から化学肥料や農薬が入ってくることを防ぐ

といったことも求められています。

有機農業は、どのくらい普及しているの?

川瀬記者

国内の有機農業の面積は、日本の基準を満たしたもので、2018年の時点で2万3700ヘクタールと、農地面積のうち、わずか0.5%にとどまっています。
この中で、国際基準を満たしているものは、さらに少ないと見られます。

一方、農林水産省の新たな目標では、国際基準を満たす有機農業を2050年までに農地全体の25%、100万ヘクタールにまで増やすとしています。実に40倍以上に拡大する計算です。

今、スーパーの棚を見ても、有機野菜のコーナーはごくわずかだと思いますが、今回の目標が達成できれば、種類によってはほとんどが有機農業の野菜になるかもしれません。
また、有機農業に移行することが難しい農家についても農薬や化学肥料の削減に取り組んでもらい、農業全体での農薬の使用を50%、化学肥料を30%削減するとしています。

なぜ有機農業の拡大を目指すのですか?

川瀬記者

国連が定めた持続可能な開発目標=「SDGs」の実現を目指す世界的な動きが背景にあります。さらに日本政府も2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする方針を掲げ、経済界をあげて動き始めています。

特に農業分野は地球環境にさまざまな影響を与えていることがわかっています。
例えば農薬は、生態系への影響が懸念されています。また、化学肥料は、石油や天然ガスなどの化石燃料を使って生産している上、大量に使用することが水質汚染や地球温暖化につながるとも指摘されています。

去年、EUが2030年とわずか10年で有機農業の面積を25%にするなどの目標を打ち出し、関係者の間で衝撃が走りました。ことしは秋に「国連食料システムサミット」が予定され、環境と農業の両立などについて各国の考えを示す方針となっています。こうした場で日本の立場を示すためにも、野心的な目標を掲げた形です。

この目標は達成できるのでしょうか?

川瀬記者

簡単ではありません。課題となるのが、生産性の向上です。温暖で湿潤な気候の日本では、病気や害虫の被害や雑草が発生しやすく、化学肥料や農薬を使わない場合、通常よりも手間やコストがかかり、生産量が減ってしまうのが現状です。
このため、農林水産省では、補助金などを活用して

▽病気や害虫に強い品種の開発や
▽農地を整備して自動の草刈りロボットの普及を進めるなど

「次世代の有機農業」を確立するとしています。

生産者だけでなく、消費者の意識を変えることも重要です。野菜や果物を買う時、見た目や形がきれいなものをつい選びたくなりませんか?
農林水産省によりますと、農薬の中には味や栄養には影響がないものの、「見た目」をよくするためだけに使われているものもあるということです。

有機農業の拡大には、私たちの行動も含め、さまざまな課題を乗り越えていく必要がありそうです。