住宅ローンの金利が上がる?
長期固定型の住宅ローン「フラット35」の金利(最長35年ローンの最低金利)が今月、2年3か月ぶりの水準まで引き上げられました。これまで低い水準が続き、家計にとっては「超低金利時代」の数少ない恩恵とも言える住宅ローン金利、なぜ上がったのでしょうか。金融担当の宮本雄太郎記者が解説します。
マイホーム購入を考えているので、とても気になっています。預金の金利は低いままで、スズメの涙ほどの利息しかつかないのに、なぜ住宅ローンの金利が上がっているんですか?
宮本記者
固定型の住宅ローン金利を決める指標となっている長期金利が上昇しているからです。
最近、この長期金利を決める債券市場が投資家から注目されています。
そもそも債券市場って何ですか?
宮本記者
債券市場は、国や地方自治体、企業などが投資家から資金を借り入れた際に発行される債券(一種の借用書のようなもの)を取り引きする市場のことです。
その中で圧倒的に取引規模が大きいのが国債で、長期金利は満期までの期間(償還期間)が1年以上の国債の1年当たりの利回りを指します。 その代表的な指標が「新発10年物国債」という償還期間が10年で新しく発行した国債の利回りですが、これが先月末に一時、0.175%まで上昇したんです。5年1か月ぶりの水準でした。
なぜ上がったのですか?
宮本記者
きっかけはアメリカの長期金利の急上昇です。
バイデン政権の発足後、アメリカでは大型の景気対策として2兆ドル規模の財政出動が協議されています。
巨額の財政出動には国債の発行が伴いますが、国債の発行が増えると、需要と供給のバランスから価格は下がります。
ちょっとややこしいんですが、国債は価格が下がると金利が上がる関係にあります。金利が上がらないと買い手がつかないからです。
アメリカでは、新型コロナワクチンの接種も徐々に進んできたことから、投資家の景気回復への期待が先行したことも重なって、年明けに1%未満だった長期金利が、一時的に1.6%超まで上昇しました。
日本と比べても高いですね。
宮本記者
アメリカの長期金利は、コロナ拡大前には2%近辺で推移していたので、歴史的にみて決して高い水準ではないんです。
ただ、このところの金利の上昇、つまり国債の値下がりがあまりに急だったために、投資家の不安を招き、現金や他の金融商品に資産を移そうという心理が働いて、日本の債券市場にも国債の「売り」が波及したのです。
債券が売られて価格が下がったので、金利が上がったということですか。
宮本記者
そのとおり。
これに敏感に反応したのが、住宅ローン金利でした。
「フラット35」など、長い期間金利が変動しない固定タイプの金利は、長期金利の水準で金利が決まります。
同じように長期の定期預金の金利も、もしかしたら上がってくるかもしれません。
その一方、普通預金の金利は、日銀のマイナス金利政策で低く抑えられている短期金利と連動しているため、金利は低いままというわけです。
長期金利はこれから上がり続けるんですか?ローンはいつ組めば…。
宮本記者
難しい質問です。
コロナ対策として各国の中央銀行、日銀やアメリカのFRB=連邦準備制度理事会は、現在の大規模な金融緩和策を当面は続ける見通しを示しています。
なので、国債の価格が突然大きく下がる、つまり金利が一方的に上昇する展開は想定しにくいというのが、多くの市場関係者の見方です。
ただ「金利の安定が唯一の売りだった債券市場の変動が激しくなり、投資家が手を出しにくくなっている」という声も聞かれます。
一般的に長期金利は、景気が回復するときに上がり、冷え込むと下がる「景気の体温計」という表現もされてきました。
しかし、急激な上昇は株価の下落や投資の減速などを招くといった副作用も指摘されます。
市場はいま、コロナ後の経済の正常化に向けた方向感を見極めようとしている状態と言えるのかもしれません。
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