NEW2020年12月03日

中国の輸出管理法 日本企業への影響は?

中国は安全保障に関わる製品などの輸出規制を強化する「輸出管理法」を今月1日、施行しました。中国企業に対するアメリカ政府からの圧力に対抗するねらいですが、日本企業への影響も懸念されています。

中国はこの法律を施行した目的をどのように説明しているのですか?

「国の安全や利益を守るため」としています。対象となる品目の輸出を許可制にするほか、特定の外国企業などをリスト化して輸出を禁止したり制限したりします。違反した場合には罰金を科すほか刑事責任を追及することもあるとしています。

その対象品目について、中国の商務省などは、一部を今月2日、初めて公表しました。データの暗号化に関連する製品や技術、ソフトウエアなどで、中には中国政府が開発に力を入れている次世代の暗号技術、「量子暗号通信」関連の装置も含まれています。

中国は、日本にとっていちばんの貿易相手国ですよね。日本企業に影響はないのでしょうか。

日本企業の間では電気自動車や家電などの生産に欠かせない希少な資源、レアアースが対象になるかどうかが関心を集めています。日本はレアアース全体のおよそ6割を中国から輸入していて、対象となれば打撃は避けられないからです。

東京の磁石メーカー「マグエバー」はレアアースの一種、ネオジムを中国から輸入してさまざまな磁石の製品をつくっています。

ネオジムを使った磁石製品

法律の施行の影響が直ちに出るとはみていませんが、今後、安定的にネオジムを調達できるか不安だとして、ふだんより20%ほど多く在庫を確保するなどして準備を進めているということです。

中国と対立するアメリカの動向も気がかりですね。

今回の法律は、アメリカ政府が中国の通信機器大手、ファーウェイなどをリスト化して輸出を規制していることに対抗するねらいがあり、米中双方の企業と取り引きをしている日本企業は、2つの国の間で板挟みになるおそれも指摘されています。

大手電機メーカーの三菱電機は昨年度の海外の売上高およそ1兆8000億円のうちアメリカと中国がいずれも4000億円余りでそれぞれ20%ほどを占めるなど両国と密接な関係があります。ことし9月にはアメリカが始めた規制を受けて中国の通信機器大手ファーウェイへの半導体の出荷を停止しました。

今回の中国の輸出管理法もビジネスに影響が及ぶおそれがあり、米中いずれの規制対象にもならないよう「経済安全保障統括室」を新設して最適な対応を模索しています。

企業側の備えも重要になりますね。

法律では、中国から輸出された素材などを使って加工し、その後、ほかの国に製品を輸出する「再輸出」の場合も規制の対象になるとしています。輸出した製品を最終的に使用する企業が問題視された場合、中国からの素材の輸入に影響が出かねないと見られます。

また中国は、輸出管理の対象品目の公表に合わせて、輸入に関して暗号化機能を搭載した電話やスマートフォン、ファックスなどを規制の対象とすると発表しました。

どういった運用になるかは明確ではありませんが、中国が輸出に加えて輸入についても規制を強化する動きを強める中、日本企業はさまざまな観点から対応を迫られそうです。

日本政府はどう対応しようとしているのですか?

経済産業省経済安全保障室の香山弘文室長は、「突然の他国の決定で、企業が使っているサプライチェーンが、すべてその国の規制当局にお伺いを立てなければならないものに変わってしまう可能性があり、明らかな経営リスクだ」と指摘しています。

そのうえで、各国が規制の強化を急ぐ背景にはAI=人工知能などの高度な技術が軍事転用されるなど安全保障上の懸念があるためだとして、「安全保障を切り口に特定の方向性を持った産業政策を進めていくのが世界的なトレンドだ。安全保障の観点から技術を見る視点、そこへの関心をいかに高められるかが日本企業にとって最も求められることの1つだ」としています。

香山室長は、「法律の施行を受けて今後、具体的な運用の方針が対外的に公表されると思うので、中国の政府当局とは密接な協議をしたい」として、日本企業に対し不当な働きかけがあった場合には、国が前面に立って対応するとしています。