NEW2020年10月20日

量子暗号通信って、なに?

毎日インターネットなどで、さまざまなデータが暗号化されてやり取りされていますが、コンピューターの性能が上がるにつれて、不正に暗号を解読されて情報を抜き取られてしまう危険性も高まっています。そうした被害を防ぐ技術として、東芝が「量子暗号通信」と呼ばれる“絶対に解読されない”次世代の暗号技術を来年度、日本や欧米で事業化すると発表しました。どのような技術なのか?経済部で電機業界を担当する猪俣記者に聞きました。

量子暗号通信って、聞き慣れないですけど、どんなものなんですか?

猪俣記者

量子暗号というのは、光の最小単位である光の粒=「光子」のような極小の物質の動きやふるまいを示す物理学の「量子力学」を応用した技術です。

量子暗号通信は、暗号化してやり取りする情報とは別に、その暗号を解くために必要な「鍵」となる情報=暗号鍵を、分割して「光子」一つ一つにのせて送るというものです。

なぜ、暗号が“絶対に破られない”と言えるのですか?

猪俣記者

「光子」は観測されると、その状態が変わるという性質があります。この性質を利用すれば、サイバー攻撃の主体など誰かが暗号鍵の情報を盗み見た瞬間に「光子」の状態が変化するので、盗み見られたことに気付くことができます。

この技術では、盗み見られたことを察知した時点で、その暗号鍵を自動的に無効にして、盗み取られていない情報で、自動的に新しい鍵を作り直す仕組みになっています。

つまり、暗号化された情報を解くのに使うことができる「鍵」は、盗み見られていないものしかありえないということになり、“絶対に解読できない”とされているのです。

どうして量子暗号通信が必要になるのですか?今の暗号では、問題があると。

猪俣記者

いま一般的に使われている暗号は「素数」と呼ばれる数の組み合わせで作られていて、暗号を解くための計算量を多くし、いわば解読するための計算に膨大な時間がかかるようにすることで、安全性を担保しているとされてきました。

しかし、スーパーコンピューターをはるかに超える計算能力を持つ量子コンピューターが実用化されると簡単に暗号が破られてしまうおそれがあるのです。

そのため、理論上どんなコンピューターを使っても解読できない、量子暗号通信の需要が世界的に高まっているのです。

日本や欧米では、どのようにして利用が始まるのですか?

猪俣記者

日本では、政府の通信ネットワークのセキュリティー対策として、来年度から実証事業が始まり、国内での事業化はこれが初めてとなります。特に機密性の高い情報を扱う防衛や警察の分野で、情報を守るために使われるとみられます。

また海外では、東芝はイギリスの「ブリティッシュテレコム」と、アメリカの「ベライゾン・コミュニケーションズ」と提携して事業化に取り組みます。

それぞれの国の通信大手と組むことで、すでにある通信ネットワークを活用することができるメリットがあるということです。

日本では、東芝やNECが開発を進めています。このうち東芝は、この分野で保有する特許の数が世界1位で、特に通信の速度と安定して通信できる距離では世界トップの水準にあるとしています。

そのため海外の政府機関などからも引き合いがあるということで、国内外でいち早く事業展開を進めて、世界のトップシェアを握りたいねらいがあります。

これから欠かせない技術だとすると、ライバルも多いのでは?

猪俣記者

社会での実装という面では、中国が先行しています。金融や司法の分野ですでに実用化し、2025年までに量子暗号通信のネットワークを中国全土に広げようと力を入れています。

また、韓国も現地の通信大手が量子暗号通信の技術を持つスイスの企業を買収して事業化し、新たな通信規格5Gにも適用させる動きも出ています。

このほか、アジアやヨーロッパの国々でも導入を目指す動きが活発になってきています。

東芝では2035年に世界の市場規模が2兆円を超えると見込んでいて、このうち25%を獲得することを目指しています。