NEW2020年06月05日

予備費なのに10兆円は多すぎる?

新型コロナウイルスの感染拡大に対応するための第2次補正予算案に計上された10兆円の予備費。野党からは、額が大きすぎる上、使いみちが恣意的(しいてき)になりかねないと批判が相次ぎました。その結果、政府が10兆円のうち5兆円の使途を示すことで決着しました。巨額の予備費をめぐる議論について、財務省で予算取材を担当している坪井宏彰記者に聞きます。

そもそも、予備費ってなんですか?

坪井記者

予備費は、憲法87条で「予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基づいて予備費を設け、内閣の責任で支出することができる」と定められ、国会の承認を得ずに使いみちを決めることができます。毎年度の当初予算や補正予算は国会に提出されて審議されるので、予備費は憲法で明示された例外的な予算と言え、機動的に支出できるメリットがあります。

予備なのに10兆円というのは、やはり巨額ですよね。

坪井記者

政府は新型コロナウイルスの影響が長期に及ぶ事態に臨機応変に対応するためだとして、今年度の第1次補正予算で1兆5000億円の予備費を計上したのに続き、第2次補正予算案でさらに10兆円を積み増しました。平成に入った1989年度以降の当初予算を見てみると、ほとんどの年度で3500億円が計上されてきましたが、近年、大規模な自然災害が相次いでいることを受けて昨年度と今年度は5000億円が計上されました。

こうした通常の予備費とは別枠で、例えばリーマンショックのあとの2009年度と2010年度には経済危機に対応するためとしてそれぞれ1兆円を計上しました。また、東日本大震災を受けて、2011年度の第2次補正予算で8000億円を計上しています。こうした例を見ても、今回の10兆円はかつてない異例の規模だと言えます。

10兆円の予備費をめぐる政府と野党の議論は、結局、どうなったのですか?

坪井記者

政府は当初、予備費の使いみちは感染防止策など緊急を要する経費に限るとしていましたが、今後の感染症の状況や経済への影響の見通しが分からないため、今の段階でそれ以上詳しく説明するのは難しいとしていました。冒頭で説明した憲法の条文をみても分かるように、そもそも予備費は「予見し難い予算の不足」に充てる予算だからです。

これに対して野党各党は、第2次補正予算案の歳出の3分の1近くを予備費が占めるのは容認できず、減額すべきだと主張しました。また、国会の承認が必要ないことから、恣意的な支出になりかねないとして、執行前に使いみちを説明するよう求めていたんです。与野党が協議を続けた結果、5日に、与野党の国対委員長による会談で、政府が10兆円のうち5兆円程度の使途を示すことでようやく決着しました。

具体的には、雇用調整助成金など雇用維持や生活支援に1兆円程度、持続化給付金や家賃支援給付金など事業の継続に2兆円程度、地方向けの医療・介護の交付金など医療提供体制の強化に2兆円程度を充てることを想定するとしています。

使いみちが決まってしまえば、それは「予備費」と言えるのですか?第2次補正予算案の事業費をそれぞれ積み増せばいいのではないでしょうか。

坪井記者

第2次補正予算案には、長期化を見据えて現時点で必要な予算をすべて盛り込んでいるというのが政府の立場です。5兆円の内訳も幅があるもので、第2波や第3波で大幅に状況が悪化した場合に想定される支出であり、そうした状況にならなければ使わないものだとしています。あくまで、予見できない予算の支出に充てるためのものだと説明しています。

野党側が、巨額の予備費の使途を政府に白紙委任することはできないと反発していたことも踏まえて、今回のような形で決着させたものとみられます。

一方で、残りの5兆円の使いみちは決まっていないんですよね。支出の内容をきちんと検証できるんでしょうか?

坪井記者

政府は残る5兆円について「今後の長期戦の中で事態がどのように進展するか予見し難く、万全を期すため確保したい」として、予備費の使用は適切に国会に報告するとしています。

一橋大学 佐藤主光教授

国の財政制度に詳しい一橋大学の佐藤主光教授は「いったん、積まれてしまうと使ってしまおうというインセンティブも働きやすいので、むだの温床にもなりかねない。すべての予算は国民の税金で、なぜそのお金を使うのか、具体的にどんな効果が上がったのかということをきちんとデータに基づいて国民に開示する必要がある」と指摘しています。

本来、必要なくなった予備費は国庫に戻すべきもので、いたずらに使い切ることを前提にした検討は避けるべきだと思います。予備費も私たちが払っている税金です。今後、政府の支出が効果的なものになっているか、しっかりチェックしていく必要があります。