NEW2020年06月03日

「在宅勤務を標準に」ってどういうこと?

緊急事態宣言の間は在宅のテレワークだったのに、解除されたら以前のように出勤することになっちゃった。在宅でも仕事はできるのに…。そんな風に思っている方も多いのでは?こうした中、日立製作所が「在宅勤務を標準とした新しい働き方に転換する」という方針を打ち出して話題になっています。スタートアップ企業などと違って、大企業がこうした方針転換をするのは難しいようにも思えますが、実際、どんな取り組みなんでしょうか。経済部で電機業界を担当している早川俊太郎記者、教えてください!

“コロナ禍”で在宅勤務などのテレワークが定着するという声もありますが、実際、どうなんでしょうか?

早川記者

大手企業の間では、緊急事態宣言の解除後も、感染拡大を防ぐために当面は在宅勤務などについて「推奨」を続けるところが目立っています。ただ実際には解除後、オフィスに出勤するようになった人も多いのかもしれません。通勤電車の混雑も目立ってきていますよね。

そんな中で注目されたのが日立製作所。5月26日、感染拡大が収束したあとも、在宅勤務を「標準化」していくという方針を発表しました。

日立の社員は国内でおよそ3万3000人。このうち、生産現場で働く人などを除いて週に2~3日を在宅勤務にすることで、出社人数を約半分に抑えるというもの。この新たな働き方を来年4月に始めたいとしています。

これと合わせて、こんな施策を取り入れます。

▽6月から、在宅勤務に伴う光熱費や、出社する際のマスクの費用などとして、1人当たり毎月3000円支給
▽感染のリスクが高いとみられる環境で働く従業員に、1日当たり500円から1000円の手当を4月にさかのぼって支給

なぜ在宅勤務を標準化するんですか?

早川記者

方針転換を発表した記者会見で、日立の中畑英信専務は「新型コロナウイルスで半ば強制的に在宅勤務の活用が始まったが、これを機に新たな働き方に大きくかじを切りたい」と話していました。

つまり、半ば強制的に始めたけど、実際にやって見たら問題なくできることが分かってきたということだと思います。

在宅勤務を経験した社員からは「通勤時間を有効活用できる」、「時間の裁量の幅が広がって仕事がしやすくなった」、「会議が効率的になった」などといったメリットをあげる声が出たそうです。
会社としても、在宅勤務でそれぞれの社員にあった働き方を実現することで、生産性の向上につながるとしています。

大手企業の間では、リコーやガラスメーカーのAGCなども、在宅勤務を標準にする方針を明らかにしています。リコーの担当者も日立と同じように、在宅勤務を取り入れることで通勤時間の削減や業務の効率化につながっていると話していました。

メリットは多いようですが、課題はないのでしょうか?

早川記者

在宅勤務によって、「社員の働く姿が見えにくくなる」という課題が指摘されていますよね。「従業員の評価を適正にできるかどうか」が重要になってきます。

この課題に対して日立は「ジョブ型」と呼ばれる新たな人事制度で課題の解決を図る考えです。ジョブ型は、ポジションごとに職務内容や給料が決まる仕組みで、欧米では一般的です。労働時間で評価するのではなく、与えられた職務に対する結果を評価することで、在宅勤務でも適正に評価していこうとしているんです。どれだけ成果を出したかで評価されるという意味では、スポーツ選手のような働き方と言えるかもしれません。

人事制度まで大きく変わろうとしているんですね。ただ、在宅勤務だと人とほとんど会わないため孤独を感じたり、逆に家族がいて仕事に集中できないという社員がいたりと、まだまだ課題もあるような気がします。

早川記者

そうですね。記者の私も在宅勤務での取材を経験してみましたが、ときどき不安に思うこともありました。企業側もその点は認識しています。日立はすべての社員にアンケートをとって、在宅勤務の課題を調べています。リコーも、感染拡大の収束後は、在宅に限らず、会社が用意したサテライトオフィスなど、好きな場所で働けるようにしたい考えで、同じく社員にアンケートを取って、精神面や健康面のフォローも検討していくそうです。

大手企業のケースがよくわかりました。こうした在宅勤務などテレワークの推進は中小企業でも広がるでしょうか?

早川記者

東京商工会議所が中小企業を対象に3月に実施したアンケートでは、テレワークを導入できていると回答したのは26%でした。特に従業員50人未満の企業ではわずか14%で、規模が小さいほど難しい現状があります。費用面の課題のほか、離れて仕事をする社員の労務管理や人事評価の適切な方法が分からず、導入に二の足を踏む企業が多いといいます。中小企業が、直ちに在宅勤務を定着させていくのは、確かに難しいかもしれません。人材や設備、制度などを工夫して、規模の小さい企業でも在宅勤務のメリットを生かしていけるようになればいいですね。