日銀の懐事情って? 新型コロナの緊急事態に

日銀が27日、昨年度の“決算”を発表しました。お札を発行している日銀の決算。いったいどんなものなのでしょう?民間企業の決算は、どれだけ売り上げたか、どれだけもうけたか、景気の影響がどこに現れたのか、数字をみると分かります。実は日銀の決算も似たところがあります。新型コロナウイルスで景気が落ち込む中、対応を続ける日銀の姿を、金融担当の野口恭平記者が決算からみてみます。
日銀が決算?ちょっと想像ができません。
野口記者
たしかに決算をつくって公表しているのは企業ですよね。日銀は企業ではありません。法律にもとづいてつくられた認可法人です。ただ、企業と似ている面もあって、株式のような「証券」も発行して、東京証券取引所で売り買いされています。
その日銀の仕事は、お札の発行だけではありません。世の中に出回るお金の量を増やしたり、減らしたりして、日本の景気が安定するよう政策を行っています。金融政策といいます。
そして景気が悪いときには、みんなにお金が行き渡るようお金の量を増やします。銀行などが持っている国債を買いとるのです。
民間の銀行にお金を貸すこともあります。国債を買ったり、お金を貸したりすると、日銀には利息の収入が入ってきます。つまり企業のように収入があるんです。
人件費などを払ってお金が残れば利益も出ます。収入や利益があるので企業と同じように決算をつくっているのです。
決算は、どんな内容だったんですか?
野口記者
昨年度の決算をざっとみてみますと、
経常収益…2兆2407億円(前年比ー1526億円)
経常利益…1兆6375億円(前年比ー3633億円)
『経常収益』がいわゆる収入です。売り上げ2兆円というと、ユニクロのファーストリテイリングやJT(日本たばこ産業)とほぼ同じ規模です。
日銀の収入の大部分は、銀行などから買った国債から得られる利息収入、銀行にお金を貸して得られる利息収入です。前の年より1500億円減ったので、昨年度はいわゆる「減収」でした。
前の年より、さえない業績だったということですか?
野口記者
数字をみればそうですね。日銀は景気をよくするために「金融緩和」をしていると聞いたことがありませんか。コロナショックで「さらに大規模な緩和に踏み切った」という話も知っているかと思います。
実は、それが減収の理由なんですよ。
え、どういうことでしょう。
野口記者
日銀は国債を大量に買って、その代金としてお金を世の中にどんどん出してきました。その結果、金利が下がりました。お金がじゃぶじゃぶにあるので、お金を貸したい銀行は金利をよそより安くしないと借りてもらえなくなるからです。それが金融緩和をするねらいでもあります。
しかし、日銀が買った国債から得る利息収入も、金利が低くなったぶん減ることになりました。これが減収の要因です。
新型コロナウイルスで日本の景気はとても厳しい状況に落ち込んでいます。景気をささえるために日銀は4月に「国債を上限なく買う」「中小企業にお金が届くよう民間の銀行に数十兆円の資金を出す」という新たな方針を打ち出しました。

これで金利が低い状況が続けば、この先もなかなか「増収」にはなりにくいと思います。
景気を上向かせるためにやっているのだから、増収にならなくてもいいのでは?
野口記者
そのとおりです。ただ、決算で別の数字をみると、気がかりなところもあります。
ETF(上場投資信託・時価)…31兆2203億円(前年比+2兆3067億円)
日銀の主な仕事として、さきほど『国債を大量に買うこと』を挙げました。これ以外にも日銀は、たくさんの株式を集めてつくった金融商品=ETFを大量に買っているんです。株式市場が不安定にならないように、お金を投じている形です。
新型コロナウイルスの感染拡大で株式市場は一時大混乱となりましたが、このとき日銀はETFを買う量をさらに増やしてなんとか市場を安定させようとしました。
しかし、株価は値上がりするときもあれば値下がりもします。決算は3月末の時価なので、日銀の持っているETFの価値は大きく目減りしました。1年半前に日銀が持っていたETFは、買ったときよりも7兆円余りも値上がりしていましたが、それが一気に3000億円までしぼみました。
いまは株価が持ち直していますが、再び株価が急落するような事態になれば、日銀が損失を抱え込むリスクもあるんです。
日銀が多くの損失を出すと、私たちになにか影響があるの?
野口記者
たちまち私たちの暮らしに何かが起きるというわけではありません。ただ、お札を発行している日銀が大赤字ともなると、お札が信用されなくなり、日本そのものが信用されなくなるおそれもあります。
そうなると信用できない日本のお金は持ちたくない、と外国人の投資家などが日本円を売り、極端な円安がおきて、経済が混乱するという事態にもなりかねません。日銀が収入をあげてしっかり利益を出す、というのは実は大事なことなんです。

“日銀ウオッチャー”といわれる専門家、東短リサーチ・加藤出チーフエコノミストは「日銀は日本経済を良くするために大規模な金融緩和を続けていますが。じゃぶじゃぶにしたお金をどうするのか、買ったETFをどうするのか、『出口』が見えなくなっています。リスクがどんどん蓄積されています」と警鐘を鳴らします。
コロナショックの緊急事態に「なんでもする」。これがいまの日銀の姿勢ですが、将来、どうやって危機対応を終えるのか、知恵を絞っていってほしいと思います。
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