新型コロナウイルス キャッシュレスでお店は大変?

新型コロナウイルスの感染拡大で、紙幣や硬貨を直接、手で受け渡しすることに抵抗感があり、「○○ペイ」や、交通系の電子マネー、クレジットカードなどで支払いを済ませている人も多いのではないでしょうか。欧米や中国と比べて遅れていると指摘されてきた日本のキャッシュレス決済は、ここにきて急速に存在感を増しています。でもキャッシュレス化は、飲食店などにとっては負担となる側面も。キャッシュレスの課題について、経済部の新井俊毅記者、教えてください!

キャッシュレス化が進んで、私も買い物がより便利になった気がします。ただ店側からすると、カード会社からお金が振り込まれるのに少し時間がかかるという話も聞きましたが、新型コロナウイルスの感染拡大で、影響は出ていないのでしょうか?

新井記者

新型コロナウイルスの感染防止のため営業時間を短縮するなどして、売り上げが減少している飲食店などが多くあります。特に、小規模の店舗の場合、日々の現金の売り上げを人件費や食材の仕入れ費用などの支払いに回しているのが実情です。

私は最近、小規模な店を利用するときには「カードで払っても大丈夫ですか?」と聞くようにしています。というのも、キャッシュレス決済だと、利用客が支払った代金が店側に支払われるまでにタイムラグがあったり、決済事業者によって振り込みのタイミングが違うという問題があるからです。

例えばクレジットカードでは、カード会社が契約店に売上金を月2回、支払う契約を結んでいるところが多いといいます。

一般的な契約パターンはこちら。
(1)15日締めで、支払いは月末
(2)月末締めで、支払いは翌月15日

私が4月20日にカードで支払った代金は、(2)の月末締めになり、店がそれを受け取るのは5月15日前後。1か月弱のタイムラグが生じます。

賃料などの支払いもあるでしょうから、経営者としては少しでも多くの現金を手元においておきたいですよね。

新井記者

そうですね。今のように経済が危機的な状況にある時には、「キャッシュ・イズ・キング」と呼ばれるほど、現金が手元にあることは企業にとって大きな利点ですが、中小企業は必ずしも現金を手元にたくさん持っているわけではありません。

新型コロナウイルスの感染が拡大する前のことし1月に、決済事業者などでつくるキャッシュレス推進協議会が公表したアンケートでは、キャッシュレス決済の導入に伴う入金サイクルの変化で「資金繰りに困ることがある」と答えた企業が全体の19.3%、「常に困っている」と答えた企業も2.8%ありました。

感染の拡大で売り上げが減少し、ただでさえ現金が以前ほど入りにくくなっている中で、入ってくるタイミングの遅れも重なって、足もとでは、この割合が高まっている可能性もありそうです。

何か対策があるのでしょうか?

新井記者

企業の資金繰りを支えようと、いくつかの決済事業者が動き出しています。

「LINE Pay」は、通常は月末締めで、加盟店への振り込みは翌月末になりますが、6月末まで、早ければその日のうちに無料で振り込む対応を取っています。もともとこの対応は店から1回当たり250円の手数料をとっていましたが、支援策として無料化に踏み切りました。

この対応を開始した直後には、店からの振り込みの依頼が通常の5倍にのぼり、足もとでも通常の1.5倍の利用があるそうです。中小企業の苦しい資金繰りの一端が見えるようですね。

三菱UFJニコスや、イオンフィナンシャルサービスなど一部のカード会社では、契約店から要望があれば、個別の事情に応じて対応を検討するとしています。

まだ課題があるキャッシュレス決済、これからどうなっていくのでしょうか。

新井記者

感染が拡大する中で、不特定多数が触れる紙幣や硬貨を使わずに支払いを済ませたいという人も増えているようで、キャッシュレス決済のニーズは高いと思います。また、キャッシュレス決済が広がるきっかけとなった大規模な還元など、現金の支払いにはないメリットも多くあります。

一方で、店側への負担は増しているという声もあります。私がよく行くそば屋の店主はこう話しています。

「ポイント還元が始まる前と比べて、今はキャッシュレス決済の利用者が2倍以上に増えている。加盟店が支払う手数料の負担も重いうえ、現金が手元に届くまで時間がかかり、経営には重荷になっている」

こうした声を受けて業界では、契約の段階から、店側の負担を軽減するための取り組みを進めるところも出てきています。

例えば、スマホ決済の「PayPay」は、売り上げが1万円を超えれば、翌々営業日には店側に売上金を振り込むプランを用意していています。また、三井住友カードは、中小の店舗向けに最短で翌営業日に売上金を振り込める端末を無料で配布しており、利用を呼びかけています。

今回のコロナ危機を乗り越えて、さらにキャッシュレス化を進めていくためには、利用者と店側がより「共存」できる環境が重要になってきそうです。