NEW2020年04月17日

備えてますか? 職場で感染が起きたら

新型コロナウイルスの感染拡大で、「緊急事態宣言」の対象は、全国に拡大されました。日本に住む誰もが、いつ、どこで感染するかもしれない状況です。大企業だけではなく、中小企業の間でも、従業員が感染した場合でも事業を続けられるよう、感染症を想定した危機対応の計画作りを急ぐ動きが出ています。取材班の橋本剛記者に聞きます。

「危機対応の計画」とは、どんなものなんですか?

橋本記者

ひと言で言えば、企業が自主的に作る、「危機管理マニュアル」です。専門用語では、BCP(Business Continuity Plan)=事業継続計画と呼ばれています。災害などの危機的な状況でも、企業がダメージを最小限にとどめて、事業を素早く復旧できるようにするマニュアルで、東日本大震災や西日本豪雨などでも重要性が指摘されてきました。

ただ、今回のような感染症を想定していた企業は少ないのではないでしょうか?

橋本記者

そうだと思います。内閣府のおととしの調査では、全国の企業のほぼ半数が、危機対応の計画がすでにあるか、策定中だとしていましたが、その中身は、主に地震を想定していて、規模の小さい中小企業ほど、感染症を想定した計画は作っていませんでした。

地震や風水害と違い、感染症は、建物や設備への被害がないかわりに、人どうしの接触を減らす必要があります。また、行政の休業要請の有無にもよりますが、事業を続けるのに必要な要員や運転資金の確保などを事前に決めておくことも重要になります。

今回の事態を受けて、中小企業の対応が変わってきたんですか?

橋本記者

はい。私が取材した青果市場のケースをご紹介します。埼玉県上尾市の「埼玉県中央青果」は従業員はおよそ70人。地域の食の流通の要となる中小企業です。

地震や台風などを想定した危機対応の計画はありましたが、感染症は想定外でした。急きょ3月下旬から計画作りを始め、4月14日から新たな計画に基づく態勢をスタートさせました。

どんな態勢にしたんですか?

橋本記者

最大のポイントは事務所の密集を避ける勤務態勢です。生産者への問い合わせや仲卸業者からの受注を、出勤せずに自宅で電話で行う班と、事務所で伝票入力する班に分け出勤者を半分にしました。

今回の感染拡大は、世界中が走りながら、なんとか対応しているような状況だと思いますが、この会社も、態勢を変えるのは大変だったんじゃないですか?

橋本記者

農家と、スーパーなどの小売りの間を仲介しているこの会社では、通常、市場の野菜や果物が余ったり不足したりしないよう、取引先と頻繁に連絡をとりあい流通量を調整しています。取引先との関係もあり、品目ごとに担当者を置いて受注から伝票入力までを1人で行うようにしていました。

しかし複数で分担できるよう1週間かけて情報共有を行い、ようやく新たな態勢に移行したそうです。ただ急ごしらえの計画のため、従業員に感染者が出た場合、消毒のため市場を一時閉鎖するのかや、出入りする業者に感染者が出た場合の対応など、検討中の課題もあり、今後も見直していくそうです。

「緊急事態宣言」の対象が、全国に拡大された今、こうした対応は、どこの企業でも待ったなしのように感じますね。

橋本記者

コロナ危機を乗り切るために、どんな備えが必要なのか。企業の危機管理に詳しい2人の専門家に聞きました。

東京海上日動リスクコンサルティングの主幹研究員、指田朝久さんが挙げたのが、「人繰り」です。
指田朝久さん
「人を確保し続けるには業務を複数で分担したり、勤務の2交代、3交代制をとったりするほかない。そうなると事業の稼働率を下げざるを得ず経済的な損失も出るが今から準備しておかないと社内で感染が広がったとき、もっと大変なことになる」

ニュートン・コンサルティング社長の副島一也さんが挙げたのが、「資金繰り」です。
副島一也さん
「資金繰りをすぐに変えるのは難しいが、収入が一時止まっても、ある程度やっていけるだけの財務状況にしておくことが重要だ。少しずつでも改善を進める経営者の強い意志が必要だ」

そして2人に共通していたのが、“最悪”に備えることの重要性です。今の状況が1年先、2年先まで続いたら?病院だけでなく医薬品やマスクの供給まで崩壊したら?感染拡大と巨大地震が同時に起きたら…?

こうした警鐘は、企業の経営者だけでなく、私たち一人一人にも向けられているように感じました。