トヨタ ベアゼロの衝撃~逆風下の春闘~

ことしの春闘で、トヨタ自動車が7年ぶりにベースアップを見送りました。トヨタに加え、鉄鋼大手もベアに相当する賃上げを見送るなど、去年を下回る水準の回答が相次ぎました。賃上げの勢いにブレーキがかかる形となったのはなぜなのか、林記者に聞きます。
トヨタは、今年度2兆円を超える最終利益を見込んでいるにもかかわらず、どうしてベアをゼロとする判断をしたんでしょう?

林記者
経営側は、今後の見通しを極めて厳しく見ているからです。自動車業界は、自動運転や電動化への対応など100年に一度の変革期にあり、厳しい競争にさらされています。いま利益が出ているとしても、この先も安泰だと考えている訳では全くない、ということです。
トヨタの河合満副社長は記者会見で、「(次世代の車の開発には)大変な費用がかかる。今、利益が出ているからといって、それだけで決めることはできない。いかに雇用と処遇を守るかという観点で悩んだ結果だ」と、今回の決断に至った背景を説明しました。
ことしの春闘で、トヨタの労働組合は、経営側が強調する“危機感”にも理解を示し、ベースアップも一律に基本給を引き上げるのではなく、人事評価に応じて配分に差をつける新しい方法を提案しました。にもかかわらず、ベアそのものを見送ることになり、組合にとって極めて厳しい結果となりました。
そのほかにも、ベアをゼロにする企業がありましたね。
林記者

自動車業界では、マツダもベアを見送りました。また日本製鉄、JFE、神戸製鋼所の鉄鋼大手3社も、ベースアップに相当する月額賃金の引き上げを再来年度・2021年度までの2年間見送ると回答しました。いずれも、7年ぶりのことです。
その一方で、電機業界では、パナソニックが賃上げと確定拠出年金の拠出額の引き上げを含めて、総額1000円で決着したほか、東芝が1000円の賃上げに加え、語学の習得などに使える社内のポイントを300円相当、上積みすることで妥結するなど、一部で賃上げの動きも見られました。ただ全体としては、経営側は賃上げに慎重で、低い水準にとどまったと言えます。
どうしてでしょうか。
林記者
もともと、アメリカと中国の貿易摩擦の影響などで、世界経済の先行きが不透明になっているところに、新型コロナウイルスの感染が拡大し、労使交渉に影を落としました。特に新型コロナウイルスは、いつ事態が収束するかわからないため、2~3か月先の業績すら見通せない状況になっています。
金融市場も「コロナショック」に見舞われ、12日の東京株式市場で、日経平均株価の終値は、1万8559円63銭となり、終値として2日連続でことしの最安値を更新しました。こうした中で、将来にわたって人件費の上昇につながる賃上げについては、慎重にならざるを得ない、というのが経営側の本音だと思います。
賃上げの流れは終わってしまうのでしょうか。
林記者
かなり厳しい状況になったと言わざるを得ません。

今の第2次安倍政権は、デフレからの脱却を目指して、経済界に対して繰り返し賃上げを要請してきました。こうしたこともあって、2014年以降、ベアに踏み切る企業が増え6年連続で2%を超える賃上げが続いてきました。
ことしの春闘でも、安倍総理大臣は、3月5日に開かれた政府の未来投資会議で、「経済の下押しリスクを乗り越えるためにも、賃上げの流れの継続が重要だ」と述べました。
経団連も「社会的な期待も考慮しつつ、前向きに検討することが基本だ」というスタンスを打ち出してはいましたが、新型コロナウイルスの感染拡大の影響がどこまで続くか、先が見えない中で、賃上げに踏み切るのは非常に難しい判断だったということだと思います。
景気への影響も心配されますね。
林記者
政府は、賃金の引き上げによって消費を拡大し、経済を上向かせる「好循環」の実現を目指しています。しかし、賃金が伸び悩んだままだと、この「好循環」の実現にも冷や水を浴びせることになります。

第一生命経済研究所の熊野英生首席エコノミストは、今回の春闘の結果が景気に与える影響を懸念しています。
「新型コロナウイルスの感染拡大の収束が見えてくると、いま落ち込んでいる消費の盛り返しが期待されているが、ベースアップに乏しい今回の春闘の結果が、消費回復の勢いに悪い影響を与えるのではないか」
政府は2月の月例経済報告で景気の現状について「緩やかに回復している」とする判断を維持しました。しかし、ベアゼロが象徴するような賃上げの抑制が続けば、消費が伸び悩み、景気にも影響を与える可能性があります。今後本格化する中小企業の春闘の行方にも注目して見る必要がありそうです。
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