NEW2020年01月31日

“日本型雇用”の行方は?

ことしの春闘では、賃金の交渉に加え、経団連は日本型雇用システムの見直しも労使間の議論のテーマとするよう呼びかけています。これに対して連合は、格差の拡大といった問題の解決にはつながらないのではないかと疑問を投げかけています。この「日本型雇用システム」について、経済部の林麻里代記者に聞きます!

まず、日本型の雇用システムって、どういうことなんですか?

林記者

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「新卒一括採用」、「年功序列型の賃金」、「終身雇用」の3つが特徴です。「新卒一括採用」は、卒業予定の学生を特定の時期にまとめて採用することです。企業にとっては毎年、計画的に採用できるというメリットがあります。「年功序列型の賃金」は、年齢や勤続年数が上がるごとに給料も上がる仕組みで、企業が定年まで働く場所を提供して雇用を保障する「終身雇用」とともに、戦後の復興期から高度経済成長期に形づくられたと言われています。

社員が職を失う心配をせず、定年まで働けるというのは、働く側にとって安心ですが、経団連はなぜいま見直しを打ち出したの?

林記者

グローバル化やデジタル化が進んで、国際的な人材獲得競争が激しくなっている中、今の雇用制度のままでは、意欲があって優秀な若い人や高度なデジタル技術を持っている人材の獲得が困難になっているという危機感があります。また、採用活動では新卒が重視される一方、中途が抑制されるので、雇用環境の厳しい時期に採用されなかった人の再チャレンジを阻んでいるのではないかなど、働く人たちにとってもデメリットがあると指摘されています。このため、経団連の中西会長は、このシステムを一度見直してみてはどうかと問題提起したわけです。

経団連としては、どう変えようとしているんでしょう?

林記者

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採用方法については、これまでの新卒一括だけでなく、中途採用や通年採用を組み合わせて多様化すべきだとしています。また、賃金制度については、年齢だけでなく、業績や能力の評価をより重視した制度にすることが望ましい、と考えています。ただ、経団連は直ちに雇用制度を見直そうといっているわけではありません。労使交渉でしっかり議論してはどうかと提案した、というのが経営側のスタンスです。

でも組合側は、見直しに慎重なんですよね?

林記者

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連合は、日本型雇用システムの見直しは、20年間置き去りにされてきた格差の拡大という問題の解決につながらない可能性があるとして慎重な姿勢です。連合の神津会長は、「日本では、これまで人に力点を置いてきた。それが日本の雇用の強みでもあるので、見直すといっても、そうしたことを念頭に置いたうえで、考えていくべきだ」と指摘しています。制度の拙速な見直しは、雇用が不安定になるおそれもあるため、働く人たちのセーフティーネットをしっかり整えるべきだとくぎを刺したのです。

では日本型雇用は、この先どうなっていくのでしょうか?

林記者

日本型雇用の見直しは、実はこれまでも議論されてきたテーマでもあります。日本では2000年代の初めに、成果主義的な賃金制度を導入する企業が相次ぎました。しかし、短期的に成果に結び付く仕事に人気が集中したり、成果が出たようにうまく見せる人が評価されたりしてうまくいかず、多くの企業で定着しませんでした。日本企業が、高度成長期に高い品質の商品を生み出し競争力を保つことができたのは、一部の「優秀」な社員の力だけでなく、目立たないところで汗をかいている「普通の人たち」の献身的な働きとチームワークがあったことも忘れてはなりません。

雇用の仕組みを変えるということは、働く人たちとその家族の生活に直結します。それだけに、これから本格化する労使交渉では、新しい時代にふさわしい雇用の仕組みはどうあるべきなのか、そしてそれが働く人やその家族の幸せに本当につながるものなのか、真剣に議論してほしいと思います。