NEW2020年01月21日

和牛流出に刑事罰!なぜ?

いまや世界で舌鼓を打たれるようになった、日本発の食材「和牛」。国は海外流出を防ぐため、受精卵などの遺伝資源の持ち出しに対して、刑事罰を導入する方針を固めました。なぜ、そこまでする必要があるのか?農林水産省担当の岡谷宏基記者、教えて!

そもそも、和牛の「海外への流出防止」って、どういう意味ですか?外国人にも人気で輸出されてもいますけど、それとは違うんですか?

岡谷記者

輸出されているのは、和牛の肉ですよね。流出を防止しようとしているのは、受精卵や精液などの「遺伝資源」なんです。和牛の肉は、確かに海外で人気が高まり、輸出が増えています。2018年には247億円にのぼり、3年間で2倍以上に急増しました。仮に遺伝資源が流出して、和牛の性質を持ったが牛が、日本以外で生産されると、輸出に打撃を受けるおそれがあります。

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和牛の受精卵

いまでも和牛の受精卵や精液を輸出することは、原則として認められていませんが、おととし中国人実業家からの依頼に応じて、日本人の男3人が不正に受精卵などを持ち出そうとしたとして摘発された事件がありました。

人気があるだけに、狙われているということですね。でも、すでに海外で和牛が飼育されているような話も聞いたことがありますけど?

岡谷記者

実はオーストラリアやアメリカで「和牛」を繁殖しています。これは過去に合法的に輸出されたもので、特にオーストラリアでは、和牛と交雑した牛も合わせて推定で40万頭を超える「和牛」が飼育されています。これらの肉は、アルファベットの「Wagyu」として、韓国や香港などのアジアに輸出されていて、日本から輸出する和牛のライバルになると見られているんです。

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オーストラリアで飼育されている「Wagyu」

オーストラリアもアメリカも、牛肉生産の大国ですよね。価格が安いと、外国での人気も「Wagyu」に流れてしまうことが心配です。

岡谷記者

確かに、価格面では米豪が有利な面があります。しかし、「Wagyu」は、日本の和牛と違って、品種改良されていないので、味や食感が違うそうです。

和牛の改良を行う生産者団体によると、和牛の肉はオレイン酸という脂肪酸が多く含まれているため、低い温度で溶け口当たりがよいと言われています。これは、平成3年に牛肉の輸入が自由化されたことをきっかけに、いわゆる「霜降り」にこだわって改良を続けてきた成果です。

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こうした和牛の改良には、優秀な雄牛を作るところから始まり、実際に繁殖して肉として出荷されるまでには、10年以上の長い期間がかかります。長年の試行錯誤の結果生み出されるもので、その遺伝資源を特許などと同じような「知的財産」として位置づけ保護することになりました。逆に、これが流出してしまうと、味や食感などが海外でも簡単にまねされてしまうということです。

なるほど。だからこそ、いま海外流出を防ごうと、罰則を強化するんですね。

岡谷記者

そのとおりです。新しい規制では、契約に反して不正に第三者へ和牛の遺伝資源を渡した場合や、窃盗などで違法に入手した遺伝資源を使用した場合などに、利用を差し止められるようにします。そして、悪質な場合には、刑事罰も科す方針です。刑事罰の内容は今後検討されることになっていますが、生産者団体も「刑事罰を含めた法制度が強い抑止策になることを期待している」と話しています。

現在は病気の流行を防ぐための家畜伝染病予防法の違反として摘発され、3年以下の懲役または100万円以下の罰金が科されますが、農林水産省は犯罪を防止する効果を持たせるためにも、新たな法律ではより厳しい罰則を設けたい考えです。

日本が世界各国・地域と経済連携協定を結び、農産物を互いに低関税で輸出入するようになる中、和牛は日本からの輸出の代表選手と期待されています。長年の品種改良の成果を、知的財産としてしっかりと守っていく必要性が増しています。