NEW2020年01月10日

銀行なのに休んでいいの?

経済活動に欠かせないお金のやり取りを担う銀行。平日は原則、店舗を開けることが法律で求められています。どんな大雨や台風の時であっても営業することは銀行界の常識でした。しかし、その常識が変わり始めています。銀行業界担当の野口恭平記者、何が起きているの?

銀行って災害の時でも休んではいけないんですね。知りませんでした。

野口記者

「災害時も営業する」とはっきり書いてあるわけではないのですが、銀行法では、平日は原則、店を開けなければいけないという規定になっています。

お金の決済は、企業にとっても個人にとっても、重要です。銀行が自分の都合で勝手に休んで、お金を「引き出せない」「送れない」となれば、混乱しますよね。ですからどんな時でも営業するという厳格なルールがあるわけです。

このため多くの銀行は台風の直撃などが予想されるような時には、行員を店舗の近くのホテルに前の日から宿泊させたり、早めに出勤させたりして、朝9時から午後3時まで営業する態勢を整えてきました。

ある銀行幹部は「冗談だと思われるかもしれませんが、店を時間通りに開けられなかった支店長はクビになる、と仲間うちで話していたくらい必死でした」と話していました。

その銀行の常識が変わり始めた、ということですか?

野口記者

そうです。きっかけは、おととしの西日本豪雨です。今回、話を聞いたのは岡山県の中国銀行。豪雨で、5つの支店や出張所が浸水被害を受けたそうです。なかでも倉敷市真備町にある支店は浸水が4メートルに達し、システムや金庫が水につかりました。

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豪雨が支店を襲ったのは夜間だったため、行員やお客さんに被害はありませんでした。しかし「平日はどんな時でも店を開ける」という対応を続けて、もしも日中に浸水が起きたら、どうなっていたか…。そう考えて中国銀行は西日本豪雨のあと、自治体が避難指示を出した場合は臨時休業、避難指示などが出ていない場合でも支店長の判断で休業できる、と防災マニュアルを見直したそうです。

…でも、銀行は勝手に休めないのでは?

野口記者

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銀行法の規則では休業する場合は金融庁に事前に届け出をして、店頭に休業の案内を張り出すなど、決まった手続きが必要でした。ただ、西日本豪雨のあと、お客さんや銀行員の命を守るために金融庁も規則を見直しました。災害時に限って、届け出なしで臨時休業できるようにしたのです。

制度として災害時の休業を認めるようにしたということですね。

野口記者

そうです。規則の改正があったので、全国の銀行はどんな対応をしているのか調べてみました。地方銀行協会に加盟している64の銀行に質問を送ったところ62の銀行が回答してくれました。

すると22%にあたる14の銀行が、すでにマニュアル類を見直した、あるいは見直し中、見直しを検討中と答えました。

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また、50%にあたる31の銀行はマニュアルの改訂などは行わないものの、規則の改正で、柔軟に休業できるようになったと回答しています。

東京大学大学院の廣井悠准教授は「災害時、都市部では、鉄道会社が『計画運休』し、不要な外出を控えることにつながっているが、車社会の地方では同じことはできない。地域経済の中心にいる地銀が率先して営業をやめると、地方の防災意識が高まるのではないか」と指摘していました。

とはいえ、どこもかしこも臨時休業となっては、困る人もいるのでは?

野口記者

そうですね。災害時でも送金しなければいけない企業や現金が必要な人はいます。最近ではネット上で送金できるサービスなどもかなり充実していますが、金融庁は臨時休業する店や営業している店の情報をホームページなどにのせて丁寧に対応するよう求めています。

利便性には配慮しながら、命を守るために、これまで当たり前のように続けてきたサービスや働き方を見直してみる。銀行業界の取り組みがきっかけになって、そうした動きが広がれば、と思います。