NEW2019年07月04日

官民ファンドが大赤字

「92億円の累積赤字」
「役員への退職慰労金の支払いを延期」
国と民間が出資するいわゆる農林水産省系の官民ファンドが多額の損失を出し、その存在意義が問われています。経済部の農林水産省担当の岡谷宏基記者に聞きました。

官民ファンドって、国と民間がお金を出し合って、投資しているところですよね?

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岡谷記者

問題になっているのは、農林水産省が所管する官民ファンド「農林漁業成長産業化支援機構」です。

国が300億円、民間が19億円を出資して、農林水産に関係した新しい事業を始める企業などを支援することが目的で、通称「A-FIVE」と呼ばれています。6年前に設立されましたが、ことし3月までに積み上がった累積赤字が92億円余り。つまり、元本の3割に相当する赤字を出してしまっているということです。

元本の3割相当が赤字って、ひどい運用状況ですよね?

岡谷記者

昨年度までに140件投資しましたが、投資先の企業が損失を出すケースが相次いでいます。例えば、国産の農産物を海外で売り込もうと、香港にレストランの進出を考えていた東京の会社に6億円以上を投資したんですが、出店が1年も遅れたあげく、資金繰りがつかなくなって経営破たんしたケースもありました。

官民ファンドだから、元はと言えば大半が税金ですよね。もっとしっかり運用してほしいです。

岡谷記者

本当にそのとおりだと思います。希望者から資金を集める民間のファンドと違って、税金を元手とする官民ファンドは、より厳しく投資先を見極める必要があるはずです。さらに、この「A-FIVE」は、役員の報酬などでも批判が出ています。

さっき損失の事例として紹介した、香港にレストランを出した会社のケースですが、実はAーFIVEの役員が、社外取締役としても関わっていました。

この役員は先月退任していて、およそ1400万円の退職慰労金をもらうはずになっていました。しかし、多額の損失を出しておきながら、満額の退職慰労金を受け取るのはおかしいという批判が出て、先月の株主総会で支払いの判断が先送りされました。

毎年の役員報酬についても、今はたとえ赤字を出しても、運用実績に関係なくおよそ2000万円となっていたのを、業績に連動させることを検討することになりました。

運用の成績だけでなく、役員報酬の出し方も納得できないですね。それにしても、どうやって赤字を補っていくつもりなんですか?

岡谷記者

ひと言でいうと、「積極投資への転換」です。これまでは1件当たりの投資額が平均3000万円から4000万円の小規模なものが多かったので、今後は1億円を超えるような大型の案件を増やして、投資効果を高めると説明しています。

それにともなって、年間の投資額全体も昨年度の12億円から、今年度は一気に110億円に拡大するとしています。

え!それって大丈夫なんですか?赤字がさらに増えてしまいそうで、心配です。

岡谷記者

そうした懸念の声が出るのも、当然だと思います。これに対して、社長は次のように説明して、今後運用実績を改善させ、2030年度に累積赤字を解消するとしています。

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A-FIVE 光増安弘社長

「農林水産業は投資から結果が出るまでに10年ほどかかる。利益が出てきた出資先もありここからが正念場だ。出資ができる分野が食品の流通事業などにも広がったので、投資計画の実現に向けて社員一丸で頑張りたい」

官民ファンドは、ほかにも経済産業省が所管する「クールジャパン機構」が179億円(ことし3月末時点)の累積赤字を出しています。

民間では負えないリスクを取って成長を支援するというのが官民ファンドの役割ではありますが、税金がむなしく失われることがないよう取り組むべき課題は多くあります。

投資する案件を見極め、投資先の経営をサポートしていく体制を整えるとともに、責任の在り方を明確にすることや監視体制を強化していくことなどが求められています。