急転直下の白紙撤回~ルノー・FCA・日産の事情

自動車業界の「ビッグ・ディール」が、突然の白紙撤回です。FCA=フィアット・クライスラーは、5日、フランスのルノーに対する経営統合の提案を取り下げました。

5月27日の統合提案からわずか10日ほどでの白紙撤回ですか。とても唐突な印象です。

そうね。ルノーとフィアット・クライスラーの経営統合が実現すれば、販売台数870万台余りの世界3位のグループが。そして、ルノーと連合を組む日産自動車、三菱自動車工業も合流すれば、1500万台以上と、世界トップに躍り出る可能性があった。自動車業界の世界地図を塗り替えるインパクトを持った提案だっただけに、突然の撤回に驚く関係者は多かったと思う。

ルノーの筆頭株主であるフランス政府の関係者が「なぜ、このような突然のやり方で取り下げたのか理解に苦しむ」と不信感をあらわにしたのが象徴的ね。

なぜ撤回となったのでしょう。

まさにそのフランス政府の対応に原因があったのではという見方が出ているの。

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フィアット・クライスラーの声明では、「関係するすべての企業に持続的な利益をもたらすようバランスの取れた提案をしたが、フランスの政治状況が統合を円滑に進める状態になかった」と記されている。

今回の提案では、統合後の新会社の本拠をオランダに置くことなどが盛り込まれていたんだけど、提案内容に不満だったフランス政府は、新会社に影響力を持とうと取締役ポストを求めるなどしていた。介入姿勢を強めるフランス政府の姿勢に、フィアット・クライスラー側が懸念を強めたのでは、というわけ。

ルノーと提携する日産自動車にとっても、他人事ではない統合案でしたよね。

そう。日産は、表だって反対はしなかったけれど、メリットとデメリットの両方が想定されるから、本当に自分たちのプラスになるかどうか、慎重に見極める姿勢を取っていた。

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メリットとしては、グループの規模が大きくなることで、部品の調達コストを削減したり、自動運転などの多額の投資負担を分け合ったり出来ること。

一方で、デメリットとしては、ルノーがフィアット・クライスラーを後ろ盾に発言力を強めることへの警戒感や、日産が主力とする北米市場でフィアット・クライスラーと競合してしまうことがあった。

今後、日産とルノーの関係はどうなるんでしょうか。

経営統合案がひとまず白紙になったことで、日産にとっては、ぎくしゃくしていたルノーとの関係をどうするのか、焦点がそこに戻ることになるわね。

ルノーは4月に日産に対して、経営統合を求めたけど、日産は、経営の自主性が失われるとして、提案の受け入れを拒否している。

ルノーは今後も強く経営統合を求めてくる可能性があるし、フランス政府がそれを強く後押ししてくることも予想される。ルノーのこのあとの出方にもよるけど、20年にわたる提携関係をどうしていくか、世界の自動車業界が電動化や自動化などで激変している今だからこそ、きちんと答えを出していかなければいけないわね。