伊藤忠とデサント、モメてるって!?

大手商社の「伊藤忠商事」とスポーツ用品大手「デサント」が、モメています。伊藤忠はデサントの筆頭株主ですが、このほどTOB=株式の公開買い付けを行うことを発表。最大で40%まで株式の保有比率を引き上げ、影響力強化を目指しています。対するデサント側は「一方的だ」などと反発。伊藤忠とデサント、その親密な関係は半世紀余りにおよびますが、経営の基本的な方針をめぐって両社が対立していることが表面化しました。

伊藤忠とデサントって、そもそもどういう関係なんですか?

両社の関係は長く、デサントがゴルフウエアブランドの「マンシングウェア」の日本の総発売元として販売を始めた昭和39年(1964年)までさかのぼる。その後、伊藤忠が資本参加して徐々に関係を深め、平成6年(1994年)からは伊藤忠出身者が社長を務めてきた。

平成10年(1998)年に、世界的なスポーツブランド・アディダスとのライセンス契約が終わり、デサントが苦境に陥った時には伊藤忠が支援に乗り出すなど、両社はとても深い関係にあった。

そういう親密な間柄ならば、伊藤忠がデサント株を買い増そうとしたら、普通ならデサントの経営陣と事前に話し合うはずですよね?

そうなんだけど、今回は違う。公開買い付けっていうのは、会社の株式を広く株主から買い集めること。価格や期間などついても、買い手側が明らかにして実施される。それを、伊藤忠はデサントと事前に協議を行わずに、公開買い付けに踏み切ったというわけ。

目指す保有比率は40%で、株主総会で経営の重要事項を否決できる事実上の拒否権を持つことになる。伊藤忠としては、買い増しによってデサントに対する影響力を強化することになる。要は、経営の基本的な方針をめぐって両社の対立があるということ。

なぜ、そこまで対立することになってしまったんですか?

ことの発端と見られるのが、平成25年(2013年)2月。

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取締役会で、デサントの創業家出身の石本雅敏氏の社長昇格が決まったんだけど、このとき伊藤忠から派遣されていた取締役には事前の連絡がなかったんだって。

その後、デサントは商社のネットワークに頼らない路線にかじを切り始める。全体の利益に占める韓国事業の比重が大きく、本拠地である日本や、中国などほかのアジア地域での展開も強化すべきだとする伊藤忠との間で、事業展開についての考え方の違いも広がった。

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また、去年の夏には、デサントが大手下着メーカー「ワコール」と業務提携したんだけど、この際も伊藤忠側への連絡はなかったんだって。

トップ人事や他社との提携などは、いうまでもなく経営にとって極めて重要なテーマ。そうした大切な案件でコミュニケーションがうまく取れていなかったわけで、両社の間の信頼関係にも深刻な影響が出ていたようね。

それで、TOBに踏み切ったのですか。

伊藤忠は、TOBに踏み切ったことには、あるきっかけがあったと説明している。

それは去年11月からデサントが伊藤忠にもちかけていた「株式の非上場化」。デサントの経営陣が「MBO」という手法で一般の株主などから株式を買い取り非上場にするという内容。これは、自社株の買い取りによって多額の借金を抱えることになる。

伊藤忠としては、受け入れられないとして、逆にデサント株を買い増して、より影響力を強めたうえで、経営方針の見直しを求める動きに出たわけ。買い付けにあたって伊藤忠が提示した価格は、直近の株価の1.5倍。どうしても買い付けを成功させたいという強い意志を感じる。

これに対し、デサントは「何の連絡もなく、事前協議の機会もないまま、一方的に行われたもの」だとコメント。株主に対しては慎重に行動してほしいと呼びかけている。

この後の展開は、どうなるのかな?

TOBが成立すれば、伊藤忠はデサント側と経営体制や戦略の見直しついて協議を行いたい考え。取締役の数を減らして意思決定の迅速化なども図りたいとしている。合意できなければ、経営の重要事項について事実上の拒否権があることを背景に、株主総会で取締役の人事案を提案する可能性もあるとしている。

一方、デサントも今後TOBに対する正式な見解を示す方針で、何らかの対抗策を打ち出すのかどうか。そして、ことし3月中旬まで期間が設けられているTOBが成立するかどうかが、当面のポイントになりそう。