『足踏み3年、その末に』

3年にわたってこう着していた石油元売り大手「出光興産」と「昭和シェル石油」の統合協議が、一転して決着することになりました。統合に反対してきた出光の創業家が、一定の条件のもとで賛成に転じたためです。発表にあたっては、出光の経営陣と創業家との間に、仲介役がいたことも明かされました。

企業どうしでいったん合意した経営統合が、3年も足踏みするって異例ですよね。

そうね。原因は、出光興産の大株主である、創業家。
外資系だった昭和シェルとは「企業文化や体質が違う」として反対の立場にたった。

当時、創業家側の持ち株比率は全体の3分の1を超えていたので、株主総会で経営統合を決議するのに必要な3分の2以上の賛成を得ることが難しくなったの。

会社側は去年、公募増資をして全体の株数を増やし、その結果、創業家側の持ち株比率がいったん下がったんだけど、今度は創業家側が株式を買い増すなど、対立が続いていた。

それなのに、ここへ来て一転して決着。何があったんでしょうか。

出光と創業家、それに昭和シェルの3者が、そろって名前を挙げた人物がカギになったようね。

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その人物は、旧通産省の官僚出身で「モノ言う株主」として知られる、投資家の村上世彰氏。去年の秋に、知り合いの財界人を通じて創業家のアドバイスを頼まれ、仲介役を務めることになったと言うわ。本人によると、電話も含めると100回くらいは創業家と経営陣の間に入ってやり取りしたそう。出光の株式を1%程度取得し、株主としての立場で話を進めたとしている。

証券市場で知られた人物が間に入っていたんですね。では、合意にこぎ着けた背景は?

出光と創業家が取り交わした合意書を見てみましょう。
創業家が統合に賛成する条件として、

1 統合後、創業家が取締役2人を推薦できる。
2「出光興産」の商号を維持する。
3 出光が1200万株の自社株買いを行う。

こういったことが記されている。

自社株買い…市場で自分の会社の株を買うわけですよね。

そう。一般的に自社株買いは、市場で流通する株が減って株価が上がりやすくなる。株主還元策の1つね。

つまり創業家は、統合後も経営に人を送り込み、社名を守り、株主価値の向上も図るという確約を得たことになるわね。

創業家が何にこだわったかが見えてきますね。
でも本来は国内市場が縮小する中で規模を拡大しようとして統合を決めたわけですよね。その目的は果たせることになるのかな。

そこが、まさにこれから問われてくる本質ね。
国内の少子化などを背景にしたガソリン需要の縮小や、再生可能エネルギーの普及など、世界的に進む脱石油の流れ。こうした環境変化にいち早く対応しなければいけないのに、統合を実現させるためのプロセスに3年という時間を費やしてしまったのだから。

出光の月岡隆会長が「今後は前だけ向いて進んでいく」と表明したのが象徴しているけど、両社の経営陣と大株主の創業家が、同じゴールに向かって会社を良くしていけるかが試されそうね。