激しく対立するトランプ大統領とSNS 何が起きているのか?

ツイッターは今月20日から全世界を対象に、投稿を転載する際の「リツイート」のしかたを変更しました。利用者にはコメントを書き込む「引用ツイート」の画面が表示され、本当にリツイートするのかを考えるステップが加わりました。ツイートの拡散に、より慎重になってもらうための措置だと言うことですが、実は終盤を迎えたアメリカ大統領選挙と深く関係しています。いったい今、何が起きているのでしょうか?。

目次

    トランプ大統領とツイッターの対立

    ツイッターは、今回の措置は、少なくとも11月上旬のアメリカ大統領選挙の週まで続けるとしていて、背景には、トランプ大統領の、時に誤った情報を含んだツイートが、リツイートによって「拡散」されてきたことがあると見られています。

    両者の対立は、投票日が迫るなか、より激しくなりつつあります。

    蜜月のはずがなぜ対立?

    トランプ大統領のツイッターアカウントには8700万人余りのフォロワーがいます。

    新型コロナウイルスで大規模な集会が思うように開けないなか、ツイッターは支持固めにも大きな役割を果たしているはずですが、なぜ対立するようになったのか?きっかけは、4年前の大統領選挙です。

    トランプ氏とクリントン氏が激しく争ったこの選挙では、SNS上でフェイクニュースが拡散。選挙結果にも少なからぬ影響を与えたと言われています。

    アメリカの情報機関はロシアによる介入があったと断定。フェイスブックなどのSNS各社は、投稿を適切にチェックできなかったとして強い批判を受けました。

    そこに、社会の分断に伴う思想や主張の対立が加わります。

    社会の寛容さが失われるにつれて、意見の異なる人をインターネット上で徹底的に攻撃する風潮が強まり、政治家などによるネット上での広告も対立をあおっているとして、SNS各社に対応を求める意見が高まりました。

    こうした状況を受け、ツイッターは政治的な広告を禁止。

    その後、新型コロナウイルスに関して誤解を招きかねない投稿には警告ラベルを表示する方針を発表しました。

    ツイッターとトランプ大統領の対立が表面化したのは、人種差別への抗議デモが広がっていたことし5月、「どんな困難があってもわれわれはコントロールする。略奪が始まれば、銃撃が始まる」というトランプ大統領の投稿に、「暴力をたたえる内容が含まれる」として、ツイッターが警告ラベルを表示したことでした。

    ツイッターは、その後も、トランプ大統領の誤った情報を含んだ投稿に警告ラベルを表示。

    これに対し、大統領や与党・共和党は、SNSが保守派の意見を検閲していると強く反発。

    ツイッターやフェイスブックなどの法的責任を免除している法律の運用見直しを主張するなどして、会社側に対応を見直すよう要求しています。

    力を増すQアノン

    トランプ大統領は、SNS上で拡大する過激な思想勢力などを増長させているといった批判も受けています。

    その1つが「Qアノン」です。

    3年前、インターネットの掲示板に投稿を始めた「Q」を名乗る匿名の人物が主張する「陰謀論」を信じる人たちを指します。

    その主張は「アメリカの政財界、そしてメディアは、一部のエリートからなるディープ・ステート、闇の政府によって支配されている」というものです。「闇の政府」は、悪魔を崇拝する小児性愛者の集団で、トランプ大統領はこの集団と戦っている。そう信じる市民らが、インターネット上でつながり、時に自発的に集まっているとみられています。

    このQアノンは、バイデン氏に世論調査でリードされているトランプ大統領にとって、頼りになる存在です。

    10月10日、およそ200人が、彼らが「ディープ・ステートの一員だ」と考えるCNNの支局の前でシュプレヒコールをあげました。

    トランプ大統領を支持する旗を掲げる車も集結して、大変な盛り上がりを見せました。

    Qアノンの主張が事件に

    しかし、「Qアノン」の主張を信じることによる事件も相次いでいます。

    去年、ニューヨークでは、Qアノンの支持者が闇の政府の一員だと思い込んだ人物を殺害。一連の事件を受け、FBI=連邦捜査局は「犯罪や暴力行為を誘発する可能性が高い」としてQアノンを監視対象にしました。
    ただ、トランプ大統領はこれまで、Qアノンに理解を示したとも受け取れる発言をしています。

    政界で影響力増すQアノン

    Qアノンの影響力は、すでにアメリカ政治の世界においても無視できなくなっています。

    来月、大統領選挙と同時に行われる上下両院の選挙でQアノンを支持する候補者は少なくとも25人にものぼると言われているのです。

    その1人、ロサンゼルス近郊の選挙区で共和党から下院議員に立候補しているマイク・カーガイル氏はQアノンを公然と支持します。

    マイク・カーガイル氏 「私は『Qアノン』の人身売買に反対という主張を全面的に支持する。『Qアノン』は各国政府や指導者の一部が隠してきた人身売買などを明らかにしようとしている」。

    Qアノンの取材を続けるジャーナリストは、カーガイル氏のような候補者は、ネット戦略にQアノンの存在を利用しようとしていると分析しています。

    ジャーナリスト トラヴィス・ヴューさん 「Qアノンは多くの時間をネットに費やしている。自分たちに注目してくれる政治家のためなら、いわばデジタルの“草の根部隊”として動いてくれ、候補者たちは選挙戦にとってプラスだと考えている」

    SNSとQアノンのいたちごっこ

    ネット上でのQアノンの広がりを受け、SNS各社は、規制に乗り出しています。

    フェイスブックとインスタグラムは10月6日、Qアノンに関するアカウントは削除すると発表。ツイッターやTikTokは、Qアノンの投稿があまり表示されないようにする措置をとりました。

    保守派が集まる人気のアプリ

    いま、大手SNSから閉め出されたり、不当に検閲されていると感じた人たちが集まっているのが、新興のSNSです。

    その1つが「パーラー(Parler)」。

    検閲をしないことを掲げ、「憲法で保障されている言論の自由を保障する唯一のアプリだ」とうたっています。
    ツイッターとよく似た機能を持ち、ことし7月時点で利用者は280万人に上るとしています。利用者の多くは、トランプ大統領を支持する保守派の人たちです。

    パーラーを利用する人たちのお目当ての1つは、トランプ大統領の元側近たちです。

    いわゆるロシア疑惑をめぐって偽証などの罪に問われ、禁錮3年4か月の判決を受け、その後、刑が免除された元政治顧問、ロジャー・ストーン氏。

    そして、トランプ政権で安全保障担当の大統領補佐官を務めたマイケル・フリン氏も、パーラーを活用してみずからの主張を展開しています。

    さらに、パーラーは、過激な極右団体「プラウドボーイズ」のメンバーらが、支持拡大のために活用していることでも知られます。

    今月、行われた大統領候補者による最初の討論会。

    トランプ大統領は、「白人至上主義を非難しないのか?」と司会者に問われると、
    「The Proud Boys, stand back, and stand by.」
    (プラウドボーイズよ、後ろに下がって、待機せよ)と述べ、
    物議を醸しました。

    大統領のこの発言のあとこの団体のリーダーは、「プライドボーイズ!後ろに下がり、準備します!」と投稿。
    トランプ大統領の後ろ盾を得られたとばかりの反応を示しました。

    今月中旬、そのプラウドボーイズとQアノンがともに参加する集会が、サンフランシスコで開かれるという情報がパーラーなどSNS上で出回りました。

    当日、NHKの取材班が会場とされる広場を訪れると、反ファシズムを掲げる「アンティファ」とみられるグループなど数百人が続々と集まり、集会の開催に抗議の声を上げ始めました。

    そして、集会を開こうとしたとみられる男性が会場の近くで、集まっていた人たちから殴る蹴るの暴行を受け、警察官に保護されるという一幕も。

    集会は異様な雰囲気となり、15分で打ち切られました。

    対極どうしにある集団が、SNSを介して相手方の情報を察知し、それが衝突へとつながった可能性があります。

    SNS各社の対応への不信感も

    一方で、規制強化をはかる大手SNSの対応に疑問を呈する声もあがっています。

    10月14日、終盤の選挙情勢にも影響を与える可能性のある記事が、タブロイド紙の「ニューヨーク・ポスト」に掲載されました。

    民主党の大統領候補、バイデン氏の次男がウクライナの会社の役員に就任し多額の報酬を得ていたとされることに関連し、次男の仲介でバイデン氏がこの会社の幹部と会っていたというのです。

    この新聞社は、メールのデータが入ったハードディスクのコピーをトランプ大統領の顧問弁護士のジュリアーニ氏から入手したとしています。

    これについてフェイスブックは、誤った情報の拡散や選挙への外国の干渉を防ぐ社内の規定に基づいて、「ファクトチェックが終わるまで記事が表示される回数を減らす」と発表。

    また、ツイッターも、ハッキングで入手した個人情報の拡散を防ぐ規定などに基づいて、この記事のリンクを投稿できなくする措置をとりました。

    一方、トランプ大統領は「とんでもないことだ」と強く反発。さらに与党・共和党も「ソーシャルメディアによる選挙介入だ」として、ツイッターの幹部を議会に召喚する考えを表明しました。

    SNSの対応への批判が強まるなか、ツイッターは当初の措置を変更。当該の記事について、注意喚起の警告をつけたうえで共有できるようにするなど、対応が二転三転しました。

    SNSと政治の関係に詳しい専門家は、SNS各社の対応にも問題があったと指摘します。

    ノースカロライナ大学チャペルヒル校 ダニエル・クレイス准教授 「ツイッターやフェイスブックは、この記事の投稿を規制する根拠が不明確だっただけでなく、その後、判断を覆した際の説明も不十分だった。一方で、このタブロイド紙が報道機関として十分に情報源の検証を行っていなかったのも事実だ。デマであれば、投票行動に直接、影響するため、SNS各社は断固とした対応をとらなければならない」

    新型コロナ禍で、選挙運動が制約され、SNSが“主戦場”ともなっている今回のアメリカ大統領選挙。SNS各社は、事実に基づかない情報が拡散したり、暴力を増幅させたりしないか、より厳正な対応を求められています。

    一方で、どこまで規制し、どこまで自由を認めるべきなのか、そのはざまで、難しい決断も迫られてもいます。

    11月3日の大統領選挙では、選挙結果をめぐる対立などから、市民のあいだで衝突が起きて、社会が混乱に陥るのではないか、という懸念も出ています。SNSが、公正な大統領選挙の実現のためにきちんと責任を果たせるのか。

    世界が注視しています。

    (ロサンゼルス支局・及川順、菅谷史緒
     国際部・濱本こずえ)