変わる若者の思考
ワシントン、ニューヨーク、デトロイト。
この1年、アメリカのさまざまな場所で大統領選挙の取材をしてきたが、街行く若者に声をかけたとき、「サンダース氏が好きだ」と答える人に頻繁に出会った。

選挙で民主党のバイデン候補に投票すると回答した人でも「実はサンダース氏のファンだけど」と付け加える人も多かった。
公立大学の無償化や国民皆保険。
経済的な不遇を味わう若者に寄り添う政策を訴え続けてきたバーニー・サンダース氏は、民主党の予備選挙で撤退したあとも、なお若者の間で根強い人気がある。
政権を奪われたあとの民主党で脚光を浴びてきたのは、こうした左派の議員たちだ。ほかにも、有力紙のニューヨーク・タイムズが予備選挙の前に支持を表明したウォーレン氏や、サンダース氏同様“民主社会主義者”を自認する若手ホープのオカシオコルテス氏ら。
バイデン氏は選挙戦で、こうした左派勢力の意見を束ねる形で、最低賃金の引き上げや富裕層への増税、さらには環境規制の強化といった公約を掲げている。
ある調査では、18歳から34歳の若い世代が、社会主義を「好ましい」と答えた割合が半分を超えた(ギャラップ2019年調査 社会主義「好ましい52%」「好ましくない47%」)。
若者たちは、東西冷戦時代の旧ソビエトのような社会主義国家を望んでいるわけでは決してない。
ただ、拡大するばかりの格差への“解”を社会主義ということばに託しているように見える。
抵抗感の強い中高年世代
これに対して、共和党のトランプ大統領やペンス副大統領は、連日のように「バイデン大統領が誕生すればこの国は社会主義国家になる」と主張する。
そのトランプ陣営を支える保守系団体が、反社会主義を訴える集会を開くと聞き、東部ペンシルベニア州の田舎町に足を運んだ。
会場は地元の空港内の一角で、300人ほどが集まっていた。

地元の議員らが5時間にもわたって社会主義批判を繰り返すのだが、中高年の聴衆は、熱心に耳を傾けていた。
会の休憩中「若い人の間で、社会主義の思想が広がっていますが」と尋ねてみた。
77歳男性 「社会主義には絶対に反対。私たちは常に自由。それがこの国の基本だよ」
66歳男性 「子どもたちと社会主義について議論したことがありますが、この思想に賛成していて正直驚きました。彼らは、国に学費の面倒を見てもらえるのがいいと言うんです。でも私は違います。自分のことは自分で面倒を見るべきです」
70歳女性 「社会主義は個人の決定権を奪うものです。キリスト教にも反すると考えています。若い人の多くは社会主義がどれだけ危険なのかを知らないんですよ。どのように国が壊されていくかも知らない。キューバやベネズエラのようになってしまいます」
79歳男性 「若い人たちは大学の無償化を支持しているが、無料にするためには誰かが働いて犠牲になる。資本主義こそが成功する経済の原動力だよ」
資本主義の発展の恩恵を受け、東西冷戦時代の経験や記憶も新しいこの世代の人たちは、社会主義ということばに対する抵抗感が非常に強い。
政府の役割は“小さく”

反社会主義の団体の1つが取材に応じた。
「アメリカンズ・フォー・リミテッド・カンパニー」のリック・マニング代表は“政府の役割は小さく”と強く訴えた。