山火事で関心高まる

森林が炎に包まれ、一帯の空がオレンジ色に染まるー
アメリカ・カリフォルニア州を中心とした山火事は、過去最悪の規模になっている。
8月、同州のデスバレーでは、速報値で54.4度という世界史上に残る暑さを記録。専門家や地元メディアは、気候変動と山火事の関連を指摘している。

一方、「山火事は森林管理の問題」という立場をとるのがトランプ大統領。
温室効果ガスを2025年までに最大28%削減(2005年比)すると約束していたパリ協定からの離脱表明のほかにも、公約を果たしてきた。
環境保護局の予算を大幅にカットし、自動車の排ガス規制を「コストがかかる」として緩和した。
前のオバマ政権で導入された石油や天然ガスの掘削規制も転換させた。
従来の自動車産業やエネルギー産業の保護を優先する姿勢だ。
際立つ両候補の違い

対するバイデン氏。
気候変動を「人類存亡に関わる脅威(an existential threat)」と捉えて、180度違った政策を打ち出している。
大統領となれば、すぐにパリ協定の離脱を取りやめることを公約。
環境・インフラ政策に4年間で2兆ドル(約210兆円)を投資し、数百万の雇用を生み出すという。
奨励金を出して電気自動車の普及を進め、再生可能エネルギーの技術開発を支援。
温室効果ガスの排出を、2050年までに経済全体で「実質ゼロ」にするとしている。
日本の製造業に影響も
仮にバイデン氏が勝利した場合、日本にどう影響するだろうか。
まず、部品や素材を供給する日本のサプライヤーに対して、再生可能エネルギー転換など、環境対応を求める動きが強まる可能性がある。
企業にしてみれば、コスト増だ。

例えば、アメリカのアップルとマイクロソフトはことし、サプライチェーンや事業全体での温室効果ガスの排出削減目標を発表した。
2030年までに、アップルは「実質ゼロ」に、マイクロソフトは「実質マイナス」を実現するという。
再エネの利用や低炭素素材の使用で排出を最大限減らすと同時に、植林活動などで温室効果ガスを吸収する計画だとしている。
すでにアップルは、取引先に再エネ転換を求めている。
埼玉県嵐山町にある化学メーカーを訪ねた。

このグループは、電子部品の基板向けに回路を保護する緑色のインキを供給している。
アップルの2次サプライヤーにあたる。

会社は、東日本大震災時の計画停電をきっかけに、事業継続のために、貯水池に太陽光パネルを浮かべる「水上太陽光発電」の事業を進めていた。
アップルの方針を知り、同社向け製品を作る工場の電力は、すべて太陽光エネルギーに切り替えたという。
それだけでなく、ことし7月には、さらに2か所発電施設を増やした。アップル以外の会社から要求があっても対応できる状況だ。

太陽ホールディングス 荒神文彦執行役員 「日本企業は公害問題への対応として環境対策を進めてきた経緯があり、一定以上の自負はあったが、それ以上のレベルを求められる時代になっている。アメリカで政権交代が起きれば環境対策の流れはさらに加速すると考えられる。対応できない企業は淘汰(とうた)されていく」
グリーンな“保護主義”!?

もう1つ注目されるのは、「炭素国境調整措置」の行方だ。
バイデン氏の気候変動関連の公約には、「気候変動への義務を果たしていない国からの輸入で、製造時の炭素排出が多い製品には、調整課金もしくは輸入量の制限を課す」という文言が見られる。
どういうことか。
温室効果ガスの削減など厳しい環境対策を求めれば、アメリカ企業のコストは増加する。
そこで、国内のメーカーの国際競争力が損なわれないよう、貿易相手国に対して輸出を制限するような措置を設ける可能性があるのだ。
これは、環境技術分野に多く投資することで景気を下支えする、「グリーン・ディール」を進めるEU=ヨーロッパ連合でも検討されている。
EUでは「炭素国境調整措置」についての意見聴取がすでに行われ、日本鉄鋼連盟は、4月に反対の意見書を提出した。
意見書の中では、国境調整措置は貿易摩擦を引き起こしかねない“保護主義的な”政策で、世界経済を停滞させると指摘。発展途上にあり、鉄鋼生産が増えるアジア地域で、温室効果ガスを削減する新しい技術を広めていくことこそが、先進国の使命だとしている。

トランプ政権が巻き起こした中国との“貿易戦争”では、日本企業も追加の関税を避けるための取り組みなどの対応を迫られた。
今回、バイデン政権が誕生すれば、気候変動対策が加速する可能性がある。
それ自体は歓迎する動きで、日本企業にとってビジネスチャンスも生まれそうだが、形の違う“保護主義的な”政策に影響を受けないか、注視しておく必要がありそうだ。