OPEN THE SCHOOL! ~学校再開で攻防、いったいなぜ?~

アメリカでは今、子どもたちの学びが政治問題化している。

新型コロナウイルスの感染が収まらない中、感染対策を徹底しながら新学期が始まった。しかし、新学期早々、感染が確認された学校もあり、対面授業への不安はある。

対面授業で学校を再開させるべきだと意欲を示すトランプ大統領。これに対して、オンライン授業も1つの手段だとして慎重な姿勢を見せている民主党のバイデン氏。
この対立の先にあるのは11月の大統領選挙。学校再開をめぐる攻防を、ひもときたい。

目次

    トランプ大統領は対面授業 その理由は

    「学校を再開せよ!」

    トランプ大統領が8月上旬に投稿したツイッター。文面はすべて大文字で書かれていて、なみなみならぬ意気込みが伝わってくる。
    特に夏以降、トランプ大統領はことあるごとに「学校の再開」について発言している。

    アメリカでは、新型コロナウイルスの感染が拡大した春以降、ほぼすべての学校はオンラインでの授業に切り替えられた。オンライン授業は感染防止対策をしながら学業を続けられるメリットがある一方、すべての家庭でネット環境の整備が追いついていないなど、教育格差を広げる懸念も指摘される。
    このため、トランプ大統領は、オンライン授業が続くと子どもが教育を受ける権利が奪われると主張。また、家庭での学習は、働いている親の負担にもなるため、本格的な経済再開にも影響すると考えている可能性がある。

    トランプ大統領は、感染が深刻な地域では再開延期の可能性を示したものの、再開したらすべて対面授業にするべきだと主張。全面再開しない学校に対しては、補助金をカットするとまで述べ、圧力ともとれる発言もした。

    なぜ、トランプ大統領は、そこまで学校の再開を推し進めようとしているのだろうか?

    学校再開が再選の後押しに?

    実は、世論調査機関ピュー・リサーチセンターが8月に発表した調査では、全面再開に賛成なのは、19%だった。
    この調査は、およそ1万人を対象にしたもので、全面再開、オンラインでの再開、対面とオンラインを組み合わせる方式のどれを支持するかを聞いている。一見、全面再開の支持は低いように見える。

    先ほどの調査を支持別に見てみたい。

    まずは、共和党。
    学校の全面再開に賛成なのは36%。オンラインでの再開を支持するのは13%だった。
    共和党支持者は、対面での授業がないと子どもたちの学業がおろそかになることを恐れていると答えている。

    一方の民主党支持者はどうか。
    全面再開に賛成なのは、僅か6%。オンライン授業を支持するのは41%だった。
    多くの民主党支持者が、感染拡大のリスクを懸念していると答えている。

    双方の支持者を比べると、優先していることが全く違うのが分かる。
    共和党の支持者の多くは、早期の学校再開を望んでいる。だからこそ、トランプ大統領は再開させたいのだろう。

    慎重なバイデン氏 その理由は

    民主党のバイデン氏は、再開には慎重だ。
    「感染が広がる地域で、教員や生徒を学校に戻すのはただただ危険だ」と述べ、地域の事情に応じて再開するべきだと主張している。

    その背景にあるのは「怒る教職員」の存在だ。

    8月3日、全米各地で教職員による抗議デモが行われた。
    教職員たちは、学校では十分な対策がなされておらず、感染拡大のリスクがあると指摘。学校再開するには早いと、抗議の声を上げた。

    このうち、中西部ウィスコンシン州では、教職員らが州庁舎に向けて車で行進。車には、「児童・生徒の安全を守れ」と書かれたプラカードを貼り、学校再開の時期を遅らせて、感染防止対策を進めることを訴えた。教職員の労働組合は、学校再開には、消毒液やマスクの確保、教員の増員を求めている。
    ニューヨーク州の教職員組合は、再開した場合、ストライキを行う可能性も示唆していて、再開にはすべての教職員と生徒の検査を求めている。

    教職員の組合は、民主党の支持基盤。
    そのため、民主党は具体的な動きを迫られているのだ。

    さらに、CDC=疾病対策センターのガイドラインをめぐっても、攻防が繰り広げられた。
    当初のガイドラインは、「厳しく、コストもかかる」などとトランプ大統領に批判された。その後、ガイドラインを修正。これに対して、不信感を抱いた民主党側は、「CDCはトランプ大統領の圧力のもとにある」などと、CDCとホワイトハウスのやり取りの公表を求めた。

    混乱広がる

    学校を全面的に再開するべきか、否か。
    本来は、その判断は州や自治体に委ねられている。
    しかし、トランプ大統領と民主党との対立によって混乱しているのは、教育現場だ。

    例えば、全米でも感染が深刻な南部テキサス州の教育委員会は、原則、毎日、対面授業を行うよう指示した。
    西部カリフォルニア州ロサンゼルスでは、すべてオンライン授業にすることを決めた。

    感染への不安も残る。学校を再開したところで感染例が出ているのだ。
    中西部インディアナ州の学校では、再開初日に生徒1人の陽性が明らかになった。別の高校でもスタッフ1人が感染した。
    南部ジョージア州では、ある高校の廊下で、マスクをつけていない生徒がひしめき合う様子を写した写真がツイッターに投稿されると、拡散。「親として、ぞっとする。落ち着くまで自分の子どもは学校に行かせない」などといった批判の声も上がっている。

    さらに、学校再開と感染リスクの間で、複雑な気持ちを抱いているのは仕事を持つ親だ。
    ワシントン・ポスト紙などが7月に行った調査では、1185人の保護者のうち、5割は、オンライン授業が続けば、仕事の継続が難しくなると答えている。特に低学年の子どもを持つ親だと、その割合が6割以上にもなる。
    こうした混乱を、バイデン氏は「トランプ大統領のせいだ」と厳しく批判し、教職員・保護者・子どもを守る姿勢を全面に打ち出している。

    それでも、トランプ大統領の方針は変わらない。
    8月に開かれた共和党の全国党大会の演説の中でも、学校の再開について繰り返し言及した。

    今後、もし学校再開後に感染が深刻な事態となった場合、有権者にとっては重要な争点となり、議論が活発になることも考えられる。政治の前に、子どもや保護者が安心して教育を受けられるようにすることが、何よりも優先されるべきだと思う。

    岡野 杏有子

    国際部記者

    岡野 杏有子

    2010年入局。
    前橋局、岡山局を経て、大阪局。
    2018年から国際部。
    前回の中間選挙では、オバマケアをめぐる動きを取材。
    社会保障関連の分野に関心がある。