なお厳しい民主党への視線~“本当のアメリカ”ミシガン州を行く~

アメリカでの新型コロナウイルスの感染拡大は、大統領選挙の野党・民主党の候補者選びが行われていることすら忘れさせてしまうほどの衝撃をもたらしている。

しかし、本選挙まで7か月を切ったことは間違いない。
その本戦を見据え、私は、前回の大統領選挙でトランプ氏の当選を後押ししたラストベルト(さびれた工業地帯)でもある中西部ミシガン州に再び足を運んだ。

あれから3年余りがたち、州の有権者が民主党にどのような評価をしているのか、民主党は巻き返せるのか、探りたいと思ったからだ。
しかし、そこで見えてきたのは、なお厳しい民主党への視線だった。

目次

    有権者たちに聞いてみた

    3月10日、予備選挙の投票日当日。
    州内最大都市のデトロイトに隣接するディアボーンに入った。
    自動車メーカーのフォードの本社や工場が集まる、アメリカの産業史に名を残す街だ。
    ここで街行く人に、民主党のどの候補者に投票したのかを尋ねてみた。

    スーパーから出てきた高齢の男性に「投票に行きましたか?」と聞くと「あ、選挙はきょうだったかね。教えてくれてありがとう」という回答だった。
    聞くと、民主党の支持者だというのに、投票日を忘れていたのだ。

    投票に行ってきたばかりだという中年の男性にも話を聞くことができた。
    投票したのはバイデン氏だと教えてくれた。
    でも、さえない表情のままこう言った。
    「候補者は多いけど、もう少し質のいい選択肢が欲しかったね」。

    結局、その夜ミシガン州では、バイデン氏が勝利を決めた。
    3月3日のスーパーチューズデーの前後から、撤退した候補者たちの支持を次々に取り込んだことが勝利の理由だった。

    30年ぶりの新工場

    州の経済はどうなっているのか。

    今、デトロイトの東部に、真っ白な巨大な箱形の建物が完成しようとしている。

    自動車メーカーのフィアット・クライスラーが建設中の工場だ。
    ミシガン州では実に30年ぶりとなる新しい“組み立て工場”だという。
    自動車の組み立て工場は、溶接や塗装、ドアやエンジンの取り付けなど製造業の工場の中でも群を抜いて人手が必要だ。
    ことし後半に生産を開始する新工場では、4000人規模の新たな雇用が計画されている。

    周辺の食料品店のオーナーに話を聞くと「すでに建設に関わるたくさんの人たちが集まってきているよ。売り上げも上がってきているよ」と、上機嫌に語った。
    地元では久々に明るい話題だ。
    トランプ大統領はこうした変化について「民主党のオバマ政権時代にはできなかったことだ」と繰り返し語っている。

    労働者の政党が変わった

    近くにある小さな町工場にも行ってみた。
    車両関連の鉄製品を製造する従業員10人の会社だ。

    ここで30年にわたり経営を担ってきた社長のマット・シリーさんは、私たち取材班を工場の中に連れて行き、うれしそうにこう語った。
    「以前はこの機械もあの機械も止まっていたが、再び動き出した。機械の音が音楽のように聞こえるよ」。

    しかし、民主党の予備選挙のことを尋ねると表情が曇った。
    シリーさんの会社は、2000年代に入り、仕事の受注がどんどん減り、従業員は一時3人まで減ったという。
    シリーさんは、民主党を含む歴代の大統領がNAFTA=北米自由貿易協定を強化したことが、大手企業の工場の流出につながり、州の経済が衰退したと説明した。
    このため、NAFTAの見直しを推し進めたトランプ大統領の実行力を評価し、民主党には手厳しいことばを浴びせた。

    「長年、民主党が労働者のための党だったけど、NAFTAを推し進めたことで反労働者の党になった。代わりになる受け皿が必要だったとき、トランプ大統領が助けてくれた。今は共和党が労働者階級を支える党だ。民主党には実行力のある候補者がいない。バイデン氏は過去の遺産だ」。

    従業員も、民主党の予備選挙にはあまり関心がなさそうだった。

    新型コロナがミシガン州を襲う

    長い選挙戦では、何が起きるか分からない。
    アメリカは今、想定外とも言える新型コロナウイルスの大流行に襲われている。
    感染者と死者の数が毎日増え続け、国民の間に恐怖感が渦巻いている。

    私がミシガン州に滞在した3月8日から12日は、国の非常事態宣言が出る前で、州内の雰囲気も緊張した様子は感じられなかった。

    ところが、4月に入った今、ミシガン州の状況は一変している。
    全米の中でもニューヨーク州、ニュージャージー州、カリフォルニア州に次いで感染者が多い州となり、ホイットマー知事は州の医療体制がひっ迫しているとして異例の支援を呼びかけている。
    人やモノはストップし、GM、フォード、クライスラーの大手3社も州内のほぼすべての工場を止めている。
    下請け企業などでレイオフが相次ぐおそれもある。

    感染の防止ができず、経済的な打撃が長引けば、現職の大統領に不利に働く可能性もある。
    対する民主党は、候補者が誰に決まるかが最大の焦点だが、このミシガン州を含めたラストベルトで有権者にどんな政策を訴えるのか。

    労働者の支持を取り戻すことができるのか。
    審判の日が、1日1日と近づいている。

    【“本当のアメリカ” ミシガン州を行く①】を読む
    【“本当のアメリカ” ミシガン州を行く②】を読む
    【“本当のアメリカ” ミシガン州を行く③】を読む
    【“本当のアメリカ” ミシガン州を行く④】を読む
    【トランプの果たせていない約束~“本当のアメリカ”ミシガン州を行く~】を読む

    顔写真:吉武 洋輔

    ワシントン支局記者

    吉武 洋輔

    2004年入局。
    名古屋局を経て経済部。
    金融や自動車業界などを担当。
    2019年夏からワシントン支局。

    -->