アメリカの選択を読み解く ④経済

異例尽くしだった2020年のアメリカ大統領選挙。
民主党のバイデン前副大統領が、史上最多の8100万票を獲得して当選を確実にした。一方のトランプ大統領も、共和党の候補者としては史上最多の7400万票を獲得。当選した前回4年前の選挙よりも、およそ1100万票を上積みした。

有権者の選択をどう読み解くのか。アメリカは今後どこへ向かうのか。各分野の専門家に分析と展望を聞いた。
第4回は、経済政策や日米の経済関係に詳しい、コロンビア大学国際関係・公共政策大学院の伊藤隆敏教授だ。

コロンビア大学国際関係・公共政策大学院 伊藤隆敏教授

Q.今回の投票で何を最も重視したか有権者に尋ねたところ、「経済」と答えた人の割合が最も多かった。

現職の大統領が2期目の再選に失敗するのは非常にまれなことで、トランプ大統領はよっぽどまずいことをしたということになる。
1つには、やはり新型コロナ対策を誤ったこと。さらに、減税などの経済政策が大企業や富裕層を優遇したものだった。
バイデン氏が増税を明言して選挙を戦い、勝ったというのは、非常に珍しいことだと思う。

Q.2016年の選挙でトランプ大統領が勝利した背景には、経済格差の広がりがあったとの指摘も多い。今回も労働者層を守ると訴えていたが、何が違ったのか。

中国との貿易戦争で傷ついたのは、所得が低い人たちや中国に輸出できなくなった農家の人たちだった。医療保険制度、いわゆる『オバマケア』を廃止しようともした。
トランプ大統領が言っていることとやっていることの間に大きなかい離があり、それに気付いた国民も多かったということだろう。

Q.バイデン氏は「ビルド・バック・ベター」=「より良い再建を」というスローガンを掲げ、国内産業や研究開発に大規模な投資をして雇用を生み出すとしている。経済政策のどこに注目するか?

新政権の経済政策では、新型コロナウイルスへの対応が重要な鍵になる。まずそこに集中するだろう。
来年いっぱいでそれが終わるのか、2022年や2023年までかかるのか。早く収束の道筋がつけば次の課題に取り組めるし、手間取っていると経済政策の評価は下がってくるだろう。

小規模な事業者をどうセーフティーネットで支えるかが重要だ。
ニューノーマル(コロナ後の新しい生活様式)に移行する中で、職業を変えようという人も出るだろう。「ビルド・バック・ベター」の政策では、教育や技能の再トレーニングも重視されるのではないか。

Q.アメリカの財政状況も非常に厳しい状況だが?

科学的根拠をもって、どのエリアを営業再開し、どの人に所得補償を出すか検討して予算を使う仕組みづくりが大事だと思う。

今はFRB=連邦準備制度理事会がゼロ金利政策をとり、大量に国債を買うことによって、事実上、財政政策を支えている。
景気が回復し、いよいよ新しい成長軌道に乗るというときに、政策金利を上げられるかという問題は出てくる。政府予算上の大きな負担にならないか、インフレ率が高くならないか。うまく乗り切ることは不可能ではないが、少し先に難しい局面が来る可能性はあるだろう。

Q.トランプ政権の下で対立が深まった対中政策をどう見るか?

ハイテク技術、軍事技術、あるいは新たな通信規格5Gを絡めた技術情報が抜かれるおそれがあるような中国企業は許さないという姿勢は継続すると思う。

ただ、アメリカの制裁関税は一部が国際ルールに違反すると認定されている。輸入品への追加関税の応酬になってきた状況は、アメリカと中国がお互いに関税を引き下げていくように変わっていくのではないか。
アメリカがいずれは自由貿易体制に戻ってくることが予想されるし、期待している。

Q.日米経済関係の課題は。

日本としてはTPP=環太平洋パートナーシップ協定に復帰してもらいたいが、ただ、バイデン政権の1年目の優先事項には入っていないだろう。

バイデン氏は「同盟国と相談して物事を進める」と言っていて、日本が自由貿易のネットワークのハブになり、アメリカとともに、中国を国際ルールに引きずり込める。日本は安倍政権でアメリカの離脱後11か国でTPPを発効させ、日・EUの経済連携協定も結んだ。自由貿易で日本が主導権をとることは可能であるし、ぜひそうすべきだ。

Q・民主主義の同盟国が協力しつつ中国に国際ルールを守らせる試みは過去にもあったが、必ずしも成功していない。今後中国がルールに向き合わざるをえなくなるだろうか。

イエスでありノー。
イエスというのは、G20などの場で、日米欧やオーストラリアなどが協力し、強く迫れば、中国ものまざるをえない部分が出てくる。例えば発展途上国の債務削減の問題では、中国が二国間で貸し込んでいるものは情報が見えていない。一致団結して中国を国際ルールに引きずり込むことができれば、非常に大きな成果になる。

ノーの部分はというと、例えばASEAN10か国のうちラオスとカンボジアは親中政権。中国に不利になるようなことには反対して、声明文に入らない。中国の影響力というのが一定程度、世界のところどころに残る。そういうところまで含めてルールを迫れるかどうかについては、私は悲観的だ。

(聞き手:国際部記者 梶原佐里)