差別の象徴か、歴史の遺産か~白熱する南部連合めぐる議論~

アメリカでは人種差別への抗議の声が各地で上がり続けている。
中でも、今大きな議論になっているのが「南部連合」のシンボルをめぐる問題だ。
「南部連合」は、1861年にアメリカ南部の州が合衆国からの独立を宣言してつくった国家で、南北戦争当時、奴隷制の存続を主張していた。この「南部連合」の軍人の銅像や記念碑、旗などが、今も各地に残されている。
それらの撤去の動きが広がっており、与野党の攻防も激化している。

目次

    亡きフロイド氏のために

    白人警察官にひざで首を押さえつけられて死亡した黒人男性ジョージ・フロイドさんの叔父、セルウィン・ジョーンズさん(54)。
    おいの死の悲しみを胸に、みずからもアメリカ社会の変化を求めて、今も毎週、抗議デモに参加している。

    われわれのインタビューに応じたジョーンズさんは、人種差別の撲滅への決意を力強く語った。
    「おいの死をむだにするわけにはいきません。われわれの手で世界を変えなければいけないのです」

    ジョーンズさんが求めたのは地元、中西部サウスダコタ州の警察のロゴに使われていた南部連合の旗の撤去だ。
    「私はディープサウスと呼ばれるアメリカ最南部地域で生まれましたが、そこでは南部連合の旗が白人至上主義団体によって掲げられていました。この旗は差別と憎しみの象徴なのです」

    ジョーンズさんたちは、ロゴの変更を求めるおよそ5000人の署名を集め、6月、地元の自治体に提出。
    こうした声を受け、地元警察は7月6日、ロゴから南部連合の旗を撤去した。

    消える将軍や兵士の像

    「南部連合」の軍人の銅像や記念碑などは、今でも南部の多くの州などで見られる。しかし、奴隷制や人種差別を思い起こさせるとして批判が広がり、奴隷制を守るために武器を取った軍人の銅像に、厳しい目が向けられている。

    南部連合の首都だったバージニア州リッチモンドには、市内に数多くの南部連合の軍人たちの銅像が建っている。
    7月8日、そのうちの1つの像に幕が下りた。

    南部連合の兵士の銅像がクレーンによってつり上げられ、土台から離れると、その瞬間を見届けようと集まった大勢の市民から歓声が沸き起こった。集まっていたのは、親子連れからお年寄り、さらに白人から黒人まで、実に幅広い年齢層と人種だ。
    撤去された像の近くに住み、長年にわたって像の撤去を求めてきたという白人女性は、「黒人や有色人種に対する、われわれの歴史の失敗を認める大きなステップで、歴史的な瞬間です」と話すと、涙があふれる目を手で押さえた。
    撤去の様子をじっと見つめていた黒人男性は「この像は奴隷制を肯定するものであり、撤去されたことで、ようやくわれわれは自由になれるのです」と話してくれた。

    これまで、南部連合の存在を問題視してこなかった人たちの間にも意識の変化が生まれている。

    リッチモンド北部にある、南部連合の将軍の銅像の近くに住むボブ・バルスターさん(75)もその1人だ。
    自身が住む歴史地区の代表として、歴史的価値のある建物の保護活動などを行ってきた。バルスターさんの目には長年、将軍の銅像は「公共スペースの芸術作品」としか映っていなかったという。
    だが、全米で続く人種差別への抗議デモのニュースを目にして、像の持つ意味を考えるようになったと話す。

    「銅像のすぐ隣には小学校があり、たくさんの黒人の子どもたちも通っています。その子たちは学校の玄関を出るたびに、南部連合の将軍の記念碑を目にするのです。そういう視点をもっと早く持つべきでした」

    南部連合・ヒル将軍の銅像

    バルスターさんは6月、住民と銅像をめぐる対応を協議し、全会一致で撤去を決定。地元の自治体に撤去を要望した。

    さらに、バージニア州の高校では、南北戦争で南軍を率いたリー将軍に由来する「ロバート・リー高校」が、改名されることが決まった。新しい学校名は、7月に亡くなった、公民権運動の闘士として知られるジョン・ルイス下院議員にちなんで「ジョン・ルイス高校」だ。

    一方で、こうした動きには反発の声も上がっている。

    南部フロリダ州に住むランディー・ウィテカーさん(59)は、南部連合のあらゆるシンボルを取り除こうとする動きに懸念を強めている。
    シンボルはあえて残すべきだと考えるグループの代表を務めるウィテカーさんは、「人種差別や奴隷制度があったことは歴史として忘れてはならない」と考えている。

    「良いか悪いかは別にして、それは歴史です。残さなければならないし、そこから学ばなければなりません。歴史が無いと人は間違った教えに屈してしまいます。それが心配です」

    米政界でも高まる議論

    与野党の攻防も激しくなっている。攻勢を強めているのが野党・民主党だ。
    連邦議会内にある南部連合の初代大統領、ジェファーソン・デイビスをはじめ、10体余りの南部連合の政治家や軍人の像の撤去を主張している。

    さらに、大統領候補のバイデン氏の副大統領候補にも名前が挙がっているウォーレン上院議員は、アメリカ軍の基地や軍用機から南部連合に由来する名前を一切取り除くことを義務づけた国防権限法案の修正案を提出した。
    ウォーレン氏は議会で演説し、「合衆国を裏切り、奴隷制度を守るために武器を取った人々に敬意を表するのをやめるときが来たのです。人種差別を終わらせ、私たちの経済と社会のあらゆる面で白人至上主義を解体します」と法案の意義を強調した。

    これに真っ向から反対しているのがトランプ大統領だ。
    トランプ大統領は7月3日、4人の歴代大統領の巨大な顔が彫られたサウスダコタ州のラシュモア山を訪問。
    南部連合を否定する民主党の行為は、アメリカの歴史を否定するものだと述べ、民主党への対決姿勢を鮮明にした。

    「左派の文化革命がアメリカをひっくり返そうとしている。彼らは、私たちの国家の遺産であるすべての像、シンボル、記憶を破壊するつもりだ。私はそうはさせない」

    大統領選挙の争点にも?

    南部の保守層の間では、南部連合の歴史を「誇り」と捉える意識も根強い。
    6月、キニピアック大学が発表した全米の世論調査でも、南部連合の銅像の撤去に賛成だと答えた人が52%、反対が44%と、国民の間でも意見は割れている。

    新型コロナウイルスや抗議デモへの対応は十分ではないなどと批判を浴びているトランプ大統領。
    秋の大統領選挙に向けた世論調査では、支持率でバイデン氏に苦戦を強いられていて、トランプ大統領としては、共和党支持者と保守的な無党派層の支持がこれ以上離れることを何としても防ぐためにも、徹底してこの問題で指導力を発揮したい考えだ。
    南部連合の将軍にちなんだ軍の基地の名前を変える法案が可決すれば、大統領として拒否権を行使する構えだ。
    さらに今後、大統領選挙の集会の会場に銅像を飾ることまで検討されているとメディアは伝えている。

    一方の民主党のバイデン氏は、南部連合のシンボルを守るトランプ大統領との違いを強調している。

    「トランプ大統領は、アメリカに対して反逆した南部連合の旗と将軍の像を擁護することによって、アメリカ人の遺産を守っていると主張している。私はトランプ大統領とは違うアメリカの姿を見ている」

    バイデン氏は、みずからの集会に南部連合の旗を持ち込むことを禁止したほか、南部連合の像は公共の場から撤去し、博物館などに収蔵するのがふさわしいと主張している。

    南部連合のシンボルは差別の象徴か、それとも守るべき歴史の遺産か。
    南北戦争の終結から150年余りを経て、今、アメリカのあらゆる人種や年齢、職業の国民がこの重い問いに向き合っていると強く感じる。
    11月の大統領選挙は、有権者の過去との向き合い方も問われる選挙になりそうだ。

    ワシントン支局記者

    太田 佑介

    2004年入局。横浜局をへて国際部。
    ジャカルタ支局駐在中、南シナ海問題やテロ事件を取材。
    2018年からワシントン支局に駐在し、主に国務省を担当。