平和賞

ことしの注目
「COVAXファシリティ」とは

コロナワクチンが世界全体に公平に行き渡るよう取り組んでいます

ことし(2021年)のノーベル平和賞の候補ではないかと注目されているのが「COVAXファシリティ」です。

「WHO=世界保健機関」、「Gaviワクチンアライアンス」、「CEPI=感染症流行対策イノベーション連合」が、新型コロナウイルスのワクチンの公平な分配を目指して、2020年に立ち上げた国際的な枠組みです。

かつて新型インフルエンザなどの感染が広がった際、ワクチンが開発されたにも関わらず、世界に平等に分配されなかった教訓から、速やかにワクチンを開発し、世界に分配することを目指してつくられました。

当初、先進国などが中心となって拠出した資金を、世界で先行していた9種類のワクチン開発に充て、短期間で開発・製造を目指してきました。

完成したワクチンについては、出資した国々に人口の20%分までを購入する権利が認められ、出資しなかった途上国なども人口の20%分までを無償で提供されます。

これまでに93の国と地域が資金を拠出し、この仕組みを通じて1年余りの間に、アストラゼネカや日本でも接種が進められているモデルナなどのワクチンが開発されてきました。

COVAXはことし(2021年)2月、西アフリカのガーナに最初にワクチンを届け、以来9月27日までに143の国と地域に3億回分余りのワクチンを分配してきました。

一方で、分配の開始から半年余りがたち、さまざまな課題も浮き彫りになっています。

当初は、ことし(2021年)上半期の分配計画のほとんどを、インドで製造されるアストラゼネカのワクチンに頼っていましたが、2月以降インドの感染状況が悪化したために供給に大幅な遅れが生じました。

また、COVAXには先進国などがワクチンの寄付を申し出てきましたが、WHOのテドロス事務局長は9月8日の記者会見で、これまでに寄付されたのは約束されていた15%未満にとどまっていることを明らかにしました。

当初は2021年におよそ20億回分のワクチンを分配する計画でしたが、こうした事態を受け、年内に分配できるのは14億2500万回分にとどまる見通しです。

WHOが2020年3月、新型コロナウイルスについてパンデミック=世界的な大流行になっているという認識を示してから、1年半余りがたちます。

世界では2021年9月時点で470万を超える人が犠牲になり、いまも深刻な感染状況の中で多くの命が脅かされていて、先進国と途上国との間でワクチンの分配をめぐる格差も広がっています。

「パンデミックを収束させるには、途上国も含めた世界の人々にワクチンを公平に届けなければならない」

ことし(2021年)のノーベル平和賞にCOVAXが選ばれるなら、そんな強いメッセージが込められているのだと思います。

ヨーロッパ総局 記者

古山彰子(こやま しょうこ)

2011年入局。広島局、国際部を経て2018年から現職。
フランス・パリを拠点に「COVAXファシリティ」を立ち上げ当初から取材。