文学賞

なぜ川端康成が選ばれたの?

個人の評価に加えて別の理由も

川端康成が受賞したのは1968年。アカデミーが発表した授賞理由は、「日本人の心の精髄を優れた感受性で表現する、その物語の巧みさ」というものでした。

『雪国』や『伊豆の踊子』などの作品で知られる川端康成の日本的な表現が、アカデミーに高く評価されたんです。

その一方で、授賞には、川端個人を評価するのとは別の側面もあったようなんです。

授賞から50年がたったおととし(2019年)、当時の選考資料が初めて公開されたんですが、そこには「日本文学の真の代表者として、彼に賞を与えることは正当である」と書かれていました。

どうやら当時のアカデミーは、日本の作家に賞を与えようと考える中で、川端の評価を高めていったようなんです。

賞の歴史に詳しいスウェーデンの専門家に話を聞くと、この時代のアカデミーは、受賞者が西洋の作家に偏りすぎているという批判にさらされていたんだそうです。

それまでの西洋中心の考え方から抜け出す姿勢を示す意味でも、日本文学という、当時はまだまだ知られていなかった文学を評価しようという動きが高まっていた面もあったんです。

まだ世界では珍しかった日本の文学に、光をあてたのね。

ちなみに、1960年代には川端康成以外にも、小説家の谷崎潤一郎と三島由紀夫、詩人の西脇順三郎の3人もたびたび候補になっていて、谷崎と三島は最終候補に残ったこともありました。

さらに、去年(2020年)には、シルクロードを題材にした歴史小説などで知られる井上靖が、1969年の選考で初めて候補となっていたことも明らかになりました。

科学文化部

河合 哲朗(かわい てつろう)

平成22年入局。前橋局・千葉局を経て、平成27年から科学文化部で文化取材を担当。文芸・文学史のほか、音楽や映画などのポップカルチャー、囲碁・将棋まで幅広く取材中。