化学賞

出来たらノーベル賞?! 人工光合成

温暖化の原因の二酸化炭素を人工的に減らしたい!

これが出来ればノーベル化学賞。多くの研究者が口をそろえて紹介してくれるのが「人工光合成」という技術です。

「光合成」は、植物が太陽の光を使って、水と空気中の二酸化炭素から、デンプンの元となるブドウ糖と酸素を作り出すことです。

温暖化の原因ともされる二酸化炭素を減らし、食料としてはもちろん、最近ではバイオエタノールの原料ともなるブドウ糖を作り出せる、それもエネルギーは太陽の光だけという夢のような現象です。しかし、現在、それができるのは主に植物だけです。
(ミドリムシや細菌など一部例外もありますが、もちろん人間にはできません。)

人工光合成は、その名の通り、人為的に光合成を行うことです。

可能になれば温暖化問題、エネルギー問題、それに環境問題と人間が抱える大きな問題がいくつも根本から解決されるかもしれないのです。実現すればノーベル賞間違いなし、と言われるのも分かる気がします。

実際にノーベル化学賞では光合成に関しての研究が何度も受賞してきました。100年あまり前の1915年には、植物の葉緑素の構造の解明への貢献で、1988年には、光合成を行う細菌のたんぱく質の解析で、それぞれドイツの研究者がノーベル化学賞を受賞しています。

実は、日本の研究者も、重要な貢献をいくつもしているのよ。

50年近く前、二酸化チタンに光を当てると水が分解されて水素と酸素が出る現象を発見したのは当時、東京大学の故 本多健一教授と大学院生だった藤嶋昭さんでした。

光合成を連想させるこの現象は「本多・藤嶋効果」と呼ばれ、世界が人工光合成の研究を始めるきっかけとなりました。

2011年には大阪市立大学と岡山大学などのチームが、植物の中で光合成が行われる際に水の分子を分解するたんぱく質の構造を世界で初めて詳細まで解明し、人工光合成の実現につながる発見として大きな注目を集めました。

また、日本では企業の研究機関でも人工光合成の研究が盛んに行われ、成果を上げつつあります。夢の技術が実現する日はそれほど遠くないかもしれません。

科学文化部

黒瀬 総一郎(くろせ そういちろう)

平成19年入局。岡山局、福岡局を経て平成26年から科学文化部。海洋や天文のほか、現在は、サイバーセキュリティーやネット社会の問題を中心に取材