医学・生理学賞

2020年ノーベル医学・生理学賞に
「C型肝炎ウイルス」の研究者3人

2020年のノーベル医学・生理学賞の受賞者に、アメリカのNIH=国立衛生研究所などの研究者3人が選ばれました。

スウェーデンのストックホルムにあるノーベル賞の選考委員会は、日本時間の10月5日午後6時半すぎ、2020年のノーベル医学・生理学賞の受賞者を発表しました。

受賞が決まったのは、
▽アメリカのNIH=国立衛生研究所のハーベイ・オルター氏、
▽カナダのアルバータ大学のマイケル・ホートン氏、
▽アメリカ、ロックフェラー大学のチャールズ・ライス氏の合わせて3人です。

3人は、C型肝炎ウイルスの発見によって多くの慢性肝炎の原因を明らかにし、輸血などの際の検査ができるようにしたほか、多くの人の命を救う治療薬の開発に道をひらいたことが評価されました。

3人の功績とは? 日本ウイルス学会理事長が解説

日本ウイルス学会の理事長で大阪大学の松浦善治教授は、ノーベル医学・生理学賞の受賞が決まった3人の功績について、それぞれ次のように解説しています。

「ハーベイ・オルター氏は、C型肝炎のウイルスの存在を最初に証明した人だ。当時は、A型肝炎でもB型肝炎でもない肝炎と言うことで『ノンエー・ノンビー』と呼ばれていたが、そのウイルスが存在することを証明した」

「マイケル・ホートン氏は、C型肝炎ウイルスの遺伝子を取り出すことに初めて成功し、診断につながる技術を作った研究者だ。この技術によって輸血の際にウイルスが混入するのを防ぐことができるようになり、輸血が原因のC型肝炎が大幅に減ることにつながった」

「チャールズ・ライス氏は、人工的に増やすことが難しかったC型肝炎ウイルスを複製する仕組みを作ることに成功し、抗ウイルス剤の開発に大きく寄与した」

その上で、「いずれもすばらしい業績を上げた人たちで受賞は当然だ。特に私自身、マイケル・ホートン氏と共同研究をしたことがあり、人柄も含めてよく知っている。3人とも長年の研究が報われたということで、よかったと感じている」とたたえました。

C型肝炎を患った経験者「素晴らしい研究成果」

日本肝臓病患者団体協議会の前の代表幹事で、自身もC型肝炎を患った経験がある渡辺孝さん(81)は、「素晴らしい研究成果で受賞は遅いくらいだと思います。患者団体としてはとてもうれしいです。私自身は昭和30年代に輸血によりC型肝炎ウイルスに感染しましたが、以前は薬の副作用が強く、大変苦しい思いをしました。最近は国内でC型肝炎ウイルスに感染する人は稀ですが、今回の受賞をきっかけに、新たな感染者がゼロになって私と同じように苦しむ人が出ないようさらに研究や対策が進んで欲しいです」と話しています。

C型肝炎とは

C型肝炎はC型肝炎ウイルスによって起こる肝臓の病気で、1度、感染するとおよそ70%の人が感染した状態が続く持続感染になるとされています。

国立国際医療研究センター肝炎情報センターのウェブサイトによりますと、肝臓は、ウイルスによって慢性肝炎になっても自覚症状がほとんどない場合もあるということで、気がつかないまま放置してしまうと、20年から30年かけて肝硬変や肝がんへと病気が進んでいくということです。

C型肝炎のウイルスは、汚染された注射器の使い回しなどで血液を介して感染します。

国内ではおよそ100万人が感染していると考えられていて、慢性肝炎や肝硬変、肝がんの患者のおよそ60%がこのウイルスに感染しているとされています。

以前は、インターフェロンという注射を打つ治療が行われていましたが、副作用が多く効果も十分とはいえない状況でしたが、ウイルスが増殖する仕組みが解明されたことで新たな薬が開発され、国内では2014年からインターフェロンを使わない治療が始まったということです。

現在は、国内でもこうしたウイルスの増殖を抑える薬を組み合わせて使う治療が主流となっていて、適切な時期に治療を受けることで95%以上の人でウイルスを体内から無くすことができるようになっています。