化学賞

吉野彰さんが会見
2019年ノーベル化学賞受賞

吉野彰さんは東京・千代田区の旭化成 本社で記者会見を開き、はじめに関係者から花束を笑顔で受け取りました。

そして「私自身、興奮しています。見事に2019年のノーベル化学賞の受賞が決まったことを報告します。2019年は、リチウムイオン電池と環境問題について受賞の対象に選んだことはうれしく思い、若い研究者の励みになると思います。ありがとうございました」と喜びを語りました。

「妻は腰を抜かすほど驚き」

吉野さんは、「先ほど電話で妻に連絡しました。時間が無かったので、決まったということだけ伝えました。妻は腰を抜かすほど驚いていました」と話していました。

「順番きたら絶対とりますとは言っていた」

「ノーベル化学賞は、リチウムイオン電池のようなデバイス系はなかなか順番が回ってこないと思っていたが、もし、順番がきたら絶対にとりますとは言っていました。まさかまさかでございます。前々から発表の直前には電話がくると聞いていたがストックホルムの方が私のことは知らないと思っていたがきちんと調べていたようだ」とにこやかに話していました。

「今は戸惑いのほうが強い」

「きのうは物理学賞の発表をインターネットのライブストリーミングで見ていて、『あすは自分の名前が呼ばれればよいな』と思っていました。突然の話で今はうれしさよりは戸惑いのほうが強いです」と話しました。

「新たな発電システム使っていかなければ」

「リチウム電池というのは電気を蓄えるのがいちばんの機能で、普及すると変動の激しい発電技術が普及しやすくなる。研究者としては、今後は再生可能エネルギーと組み合わせることで、新たな発電システムを使っていかなければならない」と今後の展望を語りました。

グッドイナフさんについて「私は息子のような位置づけ」

吉野さんは記者会見の中で、共同受賞者のアメリカ・テキサス大学教授のジョン・グッドイナフさんについて、「90歳をこえてもいまもテキサス大学で最先端の研究をしている。年に1回はテキサスで会っていて、彼にとって私は息子のような位置づけでかわいがってもらっています」と話していました。

「売れない時期 首絞められるような苦しみ」

「開発したリチウムイオン電池が3年間、全く売れない時期があった。精神的にも肉体的にもきつく、真綿で首を絞められるような苦しみだった。しかし、正直私自身は幸せです。リチウムイオン電池はIT革命という変革とともに育ってきた。今後はリチウムイオン電池が環境問題に対しても適切なソリューションを提供できるかどうかが大切です」とこれまでの苦労と今後の展望を語りました。

「携帯という便利なツールに役立った」

「リチウムイオン電池がでて、広く使われたのがガラケーだが私は携帯電話をもつことに拒否感があり、最近までは持ち歩いていなかったが、携帯という便利なツールには間違いなくリチウムイオン電池が役に立った」と笑顔で話していました。また子どもたちに向けたメッセージとして「子どものころに誰かにきっかけを与えられて将来を決める時期が必ずくる。私は小学3年か4年だったが、子どもたちに明るい話題で日本が大騒ぎすることがその一つのきっかけになってもらえればなと思います」と話していました。

「今の大学の状況を危惧」

吉野さんは記者会見の中で、日本の大学の研究力の低下が指摘されていることについて、「私自身も今の大学の状況を危惧している。完全に目標に向かって進める役に立つ研究と、大学の先生が好奇心、真理の探究に向かって進める基礎研究の両輪が必要だ。特に基礎研究にはとんでもないことが見つかる可能性がある。今の日本はきつい言い方をすれば真ん中あたりをうろうろしていて中途半端な感じだ」と話していました。

「今までと違う発想の可能性 わくわくしている」

「実感がわかず、いちばんいやだったのがノーベル財団と結んだ電話インタビューで、世界中に私の英語が広まることでした。この記者会見場にきてほっとしました」と話し、会場の笑いを誘いました。

またリチウムイオン電池の今後について聞かれると、「電気自動車への応用などにさらに進んでいき、飛行機を飛ばす話しまででているが、新しい用途や新しい分野に広げるときには技術改良が必要だがリチウムイオン電池はまだまだわかっていないことが多い。原点に戻って知る必要がありそこから今までとは違う発想がでてくる可能性もあるので、わくわくしている」と話していました。

「柔軟性と執念深さは絶対に必要」

吉野さんは、化学に興味をもったきっかけについて「小学3年、4年生の時の担任の先生が化学の先生で、その先生にすすめられた本に、ローソクがなぜ燃えるのかや、なぜ炎が黄色なのかなどについて書いてあり、化学はおもしろいと思ったのがきっかけです」と話しました。

また成功した理由について聞かれると「柔軟性と執念深さの2つは絶対に必要だ。それともう1つは、本当に必要とされる未来がくるかどうかを見通すことであり、未来をよみながら研究をすすめることが大切だ。間違いなくそこにゴールがあると思えば、少々の苦労があってもやりとげられる」と会見の最後まで笑顔で話していました。