出来たらノーベル賞?!
安全なアンモニアづくり
肥料のもとのアンモニアは結構作り方が危ないの
「アンモニア」というときつい臭いがするというイメージですが、実は私たちの生活には欠かせない重要な化合物です。
肥料から火薬までこのアンモニアを活用して作られてきました。今も、私たちの食料生産を支えているのはアンモニアだと言っても過言ではありません。
アンモニアの材料となるのは私たちが呼吸している空気の中にたくさん含まれている窒素です。
しかし、窒素はそのままではほかの物質と反応しないため、アンモニアなどの形にしないと利用することができません。
工業界では空気中の窒素からアンモニアを作り出すことは長年の夢でした。
それを実現したのがドイツ出身の2人の化学者、フリッツ・ハーバーとカール・ボッシュです。
「窒素ガス」と「水素ガス」を数百度、数百気圧という高温高圧の状態にすることで、アンモニアを大量生産することに成功したのです。
この方法は「ハーバー・ボッシュ法」と呼ばれ、1918年にハーバーにノーベル化学賞が贈られました。また、ボッシュも1931年にノーベル化学賞を受賞しています。
この発明は私たちの生活を一変させました。
化学肥料として世界の食料生産が飛躍的に向上しましたし、また残念なことに、火薬の原料として第一次世界大戦への道を開いたという人もいます。
いずれにしても画期的な発明でした。
ただ、課題も残っています。数百度、数百気圧という高温高圧の状態です。危険な作業が避けられず、コストもかかります。また二酸化炭素の排出も問題です。
そこで今、期待されているのが低温低圧、さらに言えば常温常圧でのアンモニア合成です。
自然界を見渡してみると、マメ科の植物の根にいる細菌は空気中の窒素をアンモニアの状態にすることができます。
かつて田園地帯でよく見られたレンゲ畑はマメ科のレンゲを冬場の田んぼに植えることで根の細菌が肥料になるアンモニアを作り出してくれていたんです。
安全にアンモニアを作れる細菌と同じことを、人工的にできればすごいよね。
高温高圧にせずに、この細菌と同じように効率的にアンモニアを作り出すことができれば、ノーベル賞級と言われ、世界中で研究が進められています。
日本でも、2019年4月に東京大学のグループがマメ科の根につく細菌の酵素をヒントにした方法でアンモニアを作ることに成功したと発表して、大きな注目を集めました。
科学文化部
鈴木 有(すずき ある)
平成22年入局。初任地の鹿児島放送局では、島嶼部の人口減少問題や種子島のロケット取材などを経験。平成27年から科学・文化部で文部科学省を担当。科学、宇宙分野を取材したのち、現在はサイバー分野を担当しています。