文学賞

ノーベル文学賞“3年連続的中!”話題本の著者に直撃 村上春樹さんの受賞は?

毎年、村上春樹さんの受賞があるかどうかで日本中の関心が集まるノーベル文学賞。誰が受賞するのか予測が難しいことでも知られますが、その文学賞の受賞者を“3年連続で的中させた”と話題になっている本があります。「え!あの人がノーベル文学賞?」と多くの人が驚いたボブ・ディランさんも“的中”させた1人。どうして“的中”させることができたのか。ことし、村上さんの受賞はあるのか?中心となった著者に直撃しました。

ことしは2年分! 注目集まる文学賞

ことしのノーベル賞で、特に注目を集める「文学賞」。日本人では、昭和43年に川端康成さん、平成6年に大江健三郎さんが受賞していますが、去年は、選考を行うスウェーデン・アカデミーのセクハラなどのスキャンダルで発表が見送られました。このため、賞が復活することしは、2年分の受賞者が発表されます。

“3年連続で的中” ひそかに話題の本とは?

その発表を前にひそかに話題になっているのが、2014年に出版されたこちらの本。日本人の研究者などが世界中にいる作家の中から選んだ27か国の38人を「ノーベル文学賞にもっとも近い」作家として紹介しています。出版された年の受賞者は外したものの、翌年から3年連続で本で紹介された38人の中の作家が実際の受賞者に選ばれ、関係者を驚かせました。

まず2015年は、旧ソビエトの実態を描いたベラルーシの女性作家、スベトラーナ・アレクシェービッチさん。続いて2016年は、ベトナム戦争に反対する歌が人気を集めたボブ・ディランさん。「え!ボブ・ディランが文学賞?」と驚いた方も多かったですよね。そして2017年、長崎生まれのカズオ・イシグロさん。イシグロさんは、世界的な人気作家で納得という声もある一方、62歳という若さでの受賞に少し予想外という声もあったそうです。

受賞者“的中” その理由は意外にも…

このように次々と受賞者を“的中”させていったこの本。いったいどのようにして“的中”させることができたのか。ノーベル賞の取材を担当する記者としては気になります。そこで、その中心的役割を担った早稲田大学文学学術院の都甲幸治教授に直撃してきました。すると返ってきたのは意外な答え。「作家選びでは、メディアが報道する受賞者予想は参考にしましたけど、受賞者を当てるための特別な作業はしませんでしたよ」というのです。

では、なぜこれだけ受賞者を当てることができたんですか?、とその理由を尋ねると「最も重視したのは研究者たちの思い」なんだそうです。38人の作家を選んで紹介しているのは、都甲さんたちが声をかけて集まった日本各地の研究者ら23人。都甲さんは「アレクシェービッチさんにせよ、ディランさんにせよ、当時は当たると思っていませんでした。でも皆、とにかくいい書き手を紹介したいという思いで取り上げたんです。何の計算もせずアメリカ文学からアフリカ文学まで世界各地の文学を網羅する研究者が『心から日本の人たちに紹介したい』と思っている作家を選ぶという方針が受賞者の“的中”につながったのかなと思います」と話してくれました。

そして「海外の文学作品はその国に生きている人たちの感覚を凝縮したもので、外国を深く体験させてくれます。ノーベル賞だからといって苦手意識を持たずに、ぜひ多くの人に読んでもらえるとうれしい」と文学への思いを熱く語ってくれました。

毎年注目の村上春樹さん ことしの受賞は?

そんな都甲さんの思いを受け止めつつ、でも記者として気になるのは、毎年期待が高まる村上春樹さんの受賞があるのかどうか。都甲たちが選んだ38人の作家の中には、村上さんも含まれています。ではことしの受賞は?とズバリ、尋ねてみました。

都甲さんによりますと、2年分の受賞者が発表されることしは、ヨーロッパやアジアなど異なる地域の2人が受賞する可能性があるのだそうです。

「去年のスキャンダルはとてもひどいものだったので、汚名返上のため誰もが知っている有名な作家を選ぶのではないでしょうか。その意味で、村上春樹さんが受賞する可能性はあると個人的には思っています」と都甲さん。

では、その可能性とはどのくらい?と思い、「何%ぐらい可能性はありますか」と再び尋ねてみると・・・。「10%ぐらい」(都甲さん)なんだそう。あれ、意外に低いなと思ったのですが、都甲さんいわく「10人に1人の可能性であたるということなので、かなり高いですよ」ということでした。

多くの人が注目する村上さんですが、都甲さんによると、もうひとり注目しておくべき日本の作家がいるそうなんです。実は、この本が出版されたのは5年前の2014年で、その後に急速に期待が高まってきた方だそうです。

その作家とは、多和田葉子さん。1993年に芥川賞を受賞し、去年は、アメリカで最も権威のある文学賞「全米図書賞」も受賞しました。いま世界的に知名度が高まっているそうです。川端康成さん、大江健三郎さんに続く3人目の受賞となるか、ことしもノーベル文学賞から目が離せません。

国際部

紙野 武広(かみの たけひろ)

平成24年入局。
釧路局、沖縄局を経て国際部。
アメリカ、アジア地域を担当。
軍事・安全保障などを取材。