授賞式

「ノーベルウィーク」どんな1週間に?

「人類に最大の貢献をした人」に贈られるノーベル賞。ことしの授賞式がいよいよ12月10日、スウェーデンのストックホルムで開かれます。日本からはリチウムイオン電池の開発に貢献し、化学賞に選ばれた旭化成の名誉フェロー、吉野彰さんが出席します。

ストックホルムへの出発を前に会見する吉野さん夫妻(12月5日成田空港)

授賞式の前後の期間は「ノーベルウィーク」と呼ばれ、式典の会場となるストックホルムでは連日、受賞者を祝福するさまざまな行事が行われます。去年は、医学・生理学賞を京都大学特別教授の本庶佑さんが受賞し、そのストックホルムでの1週間を過ごしました。そのときのようすを振り返りつつ、これから吉野さん夫妻を待ち受ける「ノーベルウィーク」の見どころをご紹介します。
(奈良局:当時科学文化部記者 稲垣雄也)

12月6日 ノーベル博物館で椅子にサイン メダルチョコも

授賞式の4日前となる現地時間の12月6日、ノーベルウィークの皮切りとして、ノーベル博物館のカフェにある椅子の裏に受賞者がサインするという恒例行事が行われます。

歴代の受賞者がサインした椅子はカフェで実際に座席として使われているほか、一部は展示されています。この行事の見どころの1つがサインと合わせて、慣例となっている博物館への記念品の寄贈です。受賞者はそれぞれ思い思いの品を贈ることになっていて、過去には実際に実験に使った器具や研究の経緯などを記した本など、様々な品が寄贈されてきました。去年、本庶さんは座右の銘である「有志竟成」と書かれた直筆の色紙を贈っていますが、ある意味、受賞者の個性が垣間見える瞬間と言えるかもしれません。
今回、吉野さんはどんなものを寄贈するのでしょうか。

また、この博物館ではノーベル賞にまつわるグッズも販売されていて、ノーベル賞のメダルをかたどったチョコレートなどが人気を集めています。ちなみに本庶さんはこのメダルチョコを1500枚も購入したことを明らかにしています。

12月7日 受賞研究の経緯や意義をみずから解説「ノーベルレクチャー」

続いて、翌7日には受賞者による現地で初めての記者会見が、8日には「ノーベルレクチャー」と呼ばれる記念講演が行われます。この講演は受賞者がおよそ45分間にわたってこれまでの研究の経緯や意義などについて話すもので、スウェーデンの国内外から1000人を超える人が詰めかけ毎年、立ち見の人が出るほど人気の行事となっています。

受賞者が準備に時間をかける行事の1つでもあり、去年、本庶さんは講演に使う資料のデザインの作成を専門業者に依頼するなど入念に準備したといいます。ノーベルウィークの行事の中では受賞理由となった研究の中身について受賞者本人が時間をかけて説明する唯一といってもよい機会なのでぜひ注目してみてください。

ノーベルの命日 12月10日 授賞式 そして晩さん会

そして、アルフレッド・ノーベルの命日にあたる12月10日には、いよいよ授賞式と晩さん会が行われます。授賞式は市内のコンサートホールで、晩さん会は市庁舎でそれぞれ行われますが、毎回、注目されるのが出席する際の装いです。

過去の日本人受賞者の場合、男性はえんび服を着用することが多かったのですが、去年、本庶さんは和服を着用して式典に臨み、注目を集めました。
和服の着付けは東京から美容師を招いて行われ、長時間にわたる式典でも着崩れしないよう細かな調整が行われました。
授賞式では1000人以上の参加者が見守る中、国王からメダルと賞状が手渡されます。

その後開かれる晩さん会では受賞者が王族らと会話を楽しむほか、各賞の受賞者の代表が、アルフレッド・ノーベルが遺言で残した賞の順番にしたがってスピーチを行います。(物理学、化学、医学・生理学、文学、平和となっています。遺言には経済学は含まれていませんでした。)
毎年、4時間近くに及ぶ一方、途中で席を立つことができないため去年の出席者からは「トイレにも行けず苦労した」などといった声も聞かれました。

そして、晩さん会が終わるのは現地時間で日付けが変わるころ。(日本時間は8時間ですので、朝ですね。)
式典の感想を聞くため、ホテルの入り口の前で待機していると深夜、受賞者たちがノーベル委員会が用意した専用車で次々と戻ってきます。

この日は授賞式、晩さん会と長時間にわたるスケジュールになりますが、受賞者たちの顔からはすばらしい式典に出席したという興奮の余韻はみられても、疲れはほとんど感じられなかったことが印象に残っています。
これ以降、王室主催の晩さん会などが行われてノーベルウィークはすべての日程を終え、受賞者たちはメダルを携えて帰路につきます。

国を挙げて町全体でノーベル賞受賞者を祝福

去年、現地で取材をして強く感じたのはストックホルムの町全体でノーベルウィークを盛り上げ、受賞者をたたえようという雰囲気でした。ノーベルウィークの期間中、街中に設置された電光掲示板には各賞の受賞者の紹介が流れ、ビルには関連の垂れ幕が掲げられます。我々が街で取材していると日本人と見て取った通行人が「ノーベル賞の取材?日本人ががんの研究で受賞したよね」などと声をかけてくれました。街中でのインタビューに答えてくれた人の中には、毎年、正装に着替えテレビの前で授賞式と晩さん会の様子を見守るという人もいて、関心の高さが伺えました。

また、実際にノーベルウィークの行事はたくさんの地元の人の協力によって成り立っています。ここ30年ほどの間、スウェーデン人の受賞は多くありませんが、人類に貢献した受賞者の偉業を広くたたえるという賞の趣旨が市民全体に浸透し、その市民の思いがノーベルウィークを支えているのだと現地取材を通して感じました。

ことしのノーベルウィークでは授賞式に臨む吉野さんの様子や各受賞者の研究内容などに加え、ぜひ、そうした点にも注目して見てもらえればと思います。

奈良局 記者

稲垣雄也(いながき ゆうや)

平成16年入局。奈良局を経て、平成22年から科学文化部で、主に医療分野を担当。医療事故や感染症のほか、薬や科学論文のデータ改ざんなどの研究不正の問題を取材。令和元年から再び奈良局。