ノーベル賞って、なんでえらいの?
日本にまつわる人がとると、日本中がお祝いムードになるノーベル賞。そもそも、なんでノーベル賞ってえらいの?
世界で初めての「国際賞」だから
ノーベル賞は、ダイナマイトを発明したアルフレッド・ノーベルの遺言に基づいて作られた賞です。
ノーベルの死後、1900年にノーベル財団が設立され、その翌年から授賞が始まりました。
実に120年近い歴史のある賞です。
遺言によって、物理学賞、化学賞、医学・生理学賞、文学賞、平和賞の5つが、そして後に経済学賞が加わり、あわせて6つの分野について「人類に最も大きな貢献をした人」に毎年、賞が贈られます。
日本人も、これまでに経済学賞以外の5つの分野で受賞しています。
ノーベルは遺言に「賞を与えるにあたっては、候補者の国籍は一切考慮されてはならず、最もふさわしい人が受賞しなければならない」と記しています。
これは、当時としては先進的な考え方でした。
ノーベル賞は、世界で初めての「国際賞」だったのです。
ノーベルが生まれたのは1833年、亡くなったのが1896年ですから、日本でいえば幕末から明治時代までの間を生きた人物です。
その間だけでも、アヘン戦争やクリミア戦争、普仏戦争などがあり、ヨーロッパの列強は各地で戦争に明け暮れていた時代です。
ノーベル賞の歴史に詳しい北尾利夫さんは「当時は、国王などが、自分の国の国民に対して賞を与えることはありましたが、外国人に賞を与えるというようなことはとても考えられない時代でした。“国際平和”という考え方も広がっていないような時期に、国籍を問わずに、仮に外国人であっても賞を与えるというのは、まさに、時代に先駆けた画期的で先進的な考えでした」と話しています。
秘密はノーベルの生い立ちに
戦争が多かった時代に、画期的な構想を思いついたノーベル。背景には、ノーベル自身の生い立ちがあると言われています。
ノーベルはストックホルムで生まれた「スウェーデン人」ですが、9歳のころにロシアに移住し、そこで外国人家庭教師から多くを学びました。その後、ドイツやフランス、アメリカなどでも学んでいます。
また、30代になってダイナマイトを発明して以降は、世界中で事業を展開、各地を走り回って販売網の拡大に奔走し、国籍や民族などにとらわれない、世界的な視野を身につけたといいます。
北尾さんは「ノーベルはスウェーデン語、ロシア語、英語、フランス語、イタリア語を話すことができました。毎日のように外国人と接していたノーベルにとっては『どの国の人』などという考えはなく、賞を与えるにあたって『国籍を問わない』としたのは、ごく自然なことだったと言えるのではないでしょうか」と話しています。
「遺産運用」で受賞者に賞金
ノーベル賞の授賞式は、ノーベルの命日である12月10日に行われます。
会場は、平和賞を除く5つの部門がスウェーデンのストックホルムにあるコンサートホール、平和賞がノルウェーのオスロ市庁舎です。
受賞者に贈られるのは、メダル、賞状、そして日本円で1〜2億円ほどと言われる賞金です。
この賞金はノーベル財団から贈られます。
ちなみに1901年の第1回の時の賞金額は、スウェーデンの通貨でおよそ15万クローナでした。
これは大学教授の年収20年分に相当すると言われています。
今の価値に照らし合わせて、年収を1000万円としたら、2億円くらいでしょうか。
賞金の基となる財源は、ノーベルの「遺産」を原資とした運用益で賄われています。
ノーベルが残した遺産は3300万クローナ、現在の価値にして250億円ほどですが、その9割を基金の設立と運用にあてることになりました。
ノーベルの遺言では「安全な有価証券に投資された資本をもって基金とし、これから生ずる金利は毎年、その前年に人類に最も大きな貢献をなした人に賞の形で配分する」とされていたので、当初は国債などの安全性の高いもので運用されていました。
しかし運用実績が振るわず、資産が目減りしたり賞金額の減少したりすることもありました。
最も賞金が少なくなった時期は1919年で、発足当時の実質価値の28%まで落ち込んだといいます。
後になって規定を改め、現在では株式投資やヘッジファンドなどで運用をするようになっています。
北尾さんは「賞金額自体も変わりますし、もちろんスウェーデン以外の国の受賞者にとってみれば、為替レートによってもらえる金額は変動します。長い歴史の中で、運用方針を柔軟に変化させていくことで、賞金額はおおむね創設された当時の実質価値を維持していると言えるのではないでしょうか」と話しています。
また、賞金の多さについては、近年では、グーグルやフェイスブックの創業者などが設立した財団が贈る「ブレイクスルー賞」があり、こちらの賞金は300万ドル、3億円ほどに上ります。
この「ブレイクスルー賞」については、ノーベル医学・生理学賞を受賞した大隅良典さんが2016年に、京都大学の森和俊さんが2017年にそれぞれ受賞し、日本でも話題になりました。
この点について、北尾さんは「金額という点だけで見ると、ノーベル賞だけが飛び抜けている賞ではなくなってきたかもしれません。ただ、異なる分野への広がり、毎年行われること、120年の歴史など総合的に考えれば、今もノーベル賞が間違いなく世界一の国際賞です」と話しています。
ネットワーク報道部
高橋 大地(たかはし だいち)
平成16年入局。宇都宮局、科学文化部、岡山局などを経て、現在はネットワーク報道部に所属。ひきこもり、映画、文化財などの分野を取材。園子温作品とベイスターズ、ボードゲームをこよなく愛する。