まるわかりノーベル賞2017

ノーベル化学賞の予習講座の先生は、科学技術振興機構の古川雅士さん。テーマは、『地球を救う!?人工光合成』と『光で記憶や睡眠をコントロール』です。

化学反応って?

古川:ノーベル化学賞の″化学″という言葉。福君、化学反応は、聞いたことありますね。

福:はい。

まるわかりノーベル賞2017

古川:例えばロウソクが燃えているのも、ロウソクの物質が空気中の酸素と化学反応して、二酸化炭素と水が生成されます。これは化学反応の例ですね。これが、どんなところで起こっているか。例えば、工場で何か新しいものをつくる、薬の原料をつくることにも化学反応が必要です。一方で、生物の中で起こっていることもさまざまな化学反応の積み重ねですね。例えば、人が言葉を発するのも、手を動かすのも、あるいは植物が成長するのも化学反応の結果です。だから、化学というのは非常に幅の広いものを対象としているんです。

人工光合成

まるわかりノーベル賞2017

古川:最初のテーマには「地球を救う!? 人工光合成」というタイトルをつけてみました。

木の葉っぱにある緑色のもの何でしょう?

福:葉緑体。

古川:そうですね。その葉緑体をつくる源となっているのが光合成という化学反応です。太陽から降り注ぐ光と水、空気中の二酸化炭素を植物に与えてやると、化学反応でどんなものが出てくるか。一つは酸素で、もうひとつは炭水化物です。こうした化学反応を人工的にやりましょうということです。

福:人工的に。

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古川:未来館にある展示で、人工光合成につながる原理を見てもらいます。

福:はい。

古川:茶色いプレートみたいのがありますね。光が当たると、ブクブクッっていう泡が見えると思います。

福:あっ、出てきた。

まるわかりノーベル賞2017

古川:これが水を水素と酸素に分解している反応です。泡は、水素ですね。

福:どうして水素とこういう感じで分けられるんですか。

古川:それは、反応を起こす”触媒”っていう物質を使っているんです。ここで使われている触媒は、酸化チタンという物質です。
この現象を見つけたのは日本人研究者の藤嶋昭先生という人で、1972年、いまから45年前のことでした。
福君、人工光合成が実現したらどんなことが起こりそうかな。どんなことを想像しますか。

福:二酸化炭素が減って酸素が増える。木は呼吸もするから、二酸化炭素を出しちゃうけど。人工光合成だと二酸化炭素が減っていくから、人間にとってはいいことですよね。

古川:まさに、その二酸化炭素が減るというのがこの研究で一つ注目されているポイントです。地球温暖化は、二酸化炭素が関係しているんじゃないかと言われていますね。地球温暖化を食い止めることができる技術として、使えるんじゃないかなと、考えられているんですね。
そして、今後も研究が進んでいって、この人工光合成の反応で、二酸化炭素をいいものに変換することができれば、ということです。

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福:いいものに。

古川:例えば、医薬品などの原料をつくるために利用できるかもしれません。また、さっきは水素が出てくる話をしたけれども、水素で動く燃料電池の自動車が、ガソリンで動いている自動車に代わる存在として注目されていますよね。水素を新しいエネルギー源として利用できるかもしれません。環境問題とかエネルギー問題を解決する切り札になるかも!と、注目されているんですね。

福:人工光合成を大きな規模でやるとしたら、どれぐらいの大きさが必要ですか。

古川:まだいろんな試算がされているところだけど、よくある工場のスケール、大きな面積が必要です。さっきの展示物で見たのは、ビーカーの中で起こってる反応ですね。これを大きな面積で実現しないといけないとなると、いろんな乗り越えなきゃいけないハードルがありますね。

例えば、植物の光合成は、太陽から100というエネルギーが降り注いできたとしたら、大体1%のエネルギーを一連の反応に使っていると言われているんですね。

人工光合成の最先端の研究では、数%のオーダーで、水と二酸化炭素から変換できるというところまでわかってきたんだけれど、工業的に使うためには、もう一桁は、上げていかないといけないとされているんです。
そこまでいってこそ、世の中に使ってもらえるような技術になると言われています。

オプトジェネティクス

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古川:次は外から光を当てて体の中の働きを調べる、あるいはコントロールするというオプトジェネティクスです。この研究は、脳科学研究から進展しました。例えば、脳の中で、どういう記憶のメカニズムが起きているか、睡眠はどういうメカニズムかということを知りたい。それをきちんと知って、何かに応用しようとして研究が進みました。この研究は、まだ動物を使った実験というのが主流なんだけれど、いろんな研究者がこの手法でいろんな新しい発見をしています。

まず、脳の働きを説明しましょう。人間の脳というのは、ちょっとトゲトゲになったようなたくさんの神経細胞が集まったものです。成人男性の人の脳の重さはどれぐらいかわかるかな?

福:500グラムぐらい。

古川:その3倍弱ぐらい。人によって差があるけど、およそ1.4キログラム。

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福:そんなに?

古川:バスケットボール2個より重いくらい。意外に重いですね。

福:そんなに重い。

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古川:重さは感じないけど、さまざまなものがここに詰まっています。
では、脳の活動はどうやって起こっているか。どういうことが主体になっているかわかる?

福:どういうものが主体?

古川:うん。例えば言葉を発するとか、手を動かすだとか。どうやって脳は指令を出すのかな?

福:一番偉いというか指令元がいて、そこから…。

古川:その指令元の脳から、どういう指令が伝わるかということなんだけれど、答えは、電気が関係しているんですね。

福:へぇ~。

古川:さっき言った神経細胞の中を電気が伝わって、脊髄に伝わって手を動かすとか、言葉をしゃべるとか、そういうことを行っています。電気が実は我々の頭の中でうごめいているんです。

福:こうやっているのが電気ということですよね。

古川:そうです。電気の信号が伝わっているわけですね。

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福:寝ている間は、何もない?

古川:寝ている間もあります。

福:呼吸をしているからですね。じゃ、ずーっと電気が回っているんですね。

古川:ちょっと不思議な感じがするけれど、日頃私たちが接している電気と比べてすごく弱い電気ですが、体の中では、そんな現象が起こっています。

これまでの脳の研究では、脳のある部分を電気的に刺激すると、どんな反応が起きて、身体の活動がどう制限されるかや、どんな行為が起こるだろうということを研究していました。それで、脳のどの部分がどのように働くかを調べようとしていたのです。

これと似たような現象、光で応答する物質というのを神経細胞に発現させて、そこに光を当てて、化学物質を出たり入ったりさせることで、細胞と細胞の間を伝わる電気信号をコントロールできると言うことを、12~13年前にアメリカ人研究者が見つけたんです。

この光で応答する物質をもっている″クラミドモナス″という微生物の一種を顕微鏡で見てみましょう。薄緑の丸い玉ありますね。それがクラミドモナスです。

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福:はい。見えます。

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古川:そもそも2002年にこのクラミドモナスが持つタンパク質が光に応答して構造を変化させることが発見されたのだけれども、発見したドイツ人研究者は、今日(こんにち)のオプトジェネティクスとは違った分野の研究者とされています。

この発見があったあとに、タンパク質を神経細胞に発現させて光を当ててやれば、この細胞の働きをコントロールすることができるんじゃないかというふうにアメリカ人研究者がひらめいた。これが今日(こんにち)のオプトジェネティクスの発展のきっかけです。

光の種類によって、神経細胞の活動をさせたり、活動を抑えたり、いろんな制御ができるということで、日本国内のグループでも活発に研究が行われています。

マウスの睡眠を制御

古川:例えば、これは名古屋大学の研究グループの実験です。普通に動いているマウスの脳に、ケーブルで光を当てると、やがて活動が止まってしまいます。睡眠状態になったんです。光で睡眠を制御することができるということですね。

映像:名古屋大 山中章弘教授 提供

福:へぇ~。光で。

古川:特定の光で、細胞の活動をある意味停止することができます。光を止めると、ネズミは再び動きだします。オプトジェネティクスは、脳科学研究から大きく発展したけれども、今後、例えばなぜ花粉症が起こるのかなど、いろいろな生命機能を解きあかす道具としても、注目されています。マウスでわかったこと、動物でわかったことを最終的には人の診断とか治療とか予防というところに展開することができれば、私たちの生活も変わっていく可能性がありますね。

記憶もコントロール?

古川:睡眠の例を見てもらったけど、脳にはいろんな機能があって、例えば記憶を司っている脳の部位にこの手法を使うと、記憶をコントロールすることもできるかもしれません。

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福:忘れさせたり、思い出したり。

古川:そうです。いやな記憶を消してあげるとか、そういうことにつながるかもしれないということで、いろんな可能性を秘めています。

福:何人もの人を、一気にこういう光でも制御というか、コントロールできたりするんですか。

古川:そういうことが出来るようになる可能性はあると思います。でも実際には、脳の中に光を当てるためのケーブルを入れなきゃいけないという問題が残っています。いまはこういう線でつながっている状況だけど、例えばワイヤレスでそういうことがコントロールできることになれば、ですね。

福:寝る前にその光を浴びて、パタンってなるのはできるかな。

古川:そういうことができるかもしれないね。

福:ちょっと怖いところもあるかな。

古川:こういう技術を手に入れたときには、必ず倫理的な側面というか、いろんな規制を研究者自身や社会のみんなが考えていかないといけないね。

福君 授業を終えて

まるわかりノーベル賞2017

福:よく考えてみると、いま自分たちが使ってるものをつくった人たちがノーベル賞に輝いているから、ノーベル賞を取った人がつくったものを次に僕たちが使うものなんだなっていう、次に役立つものをどんどんつくっているんだろうなってことを思いました。

やっぱりこれからの未来を決めていくのがノーベル賞ですね。僕たちの中でも理科が得意な人とか、数学が得意な人とか、いろんな人がいると思うけど、そういう人たちでノーベル賞を取るためにじゃないけど、取れるような技術を持ってる人たちを受け継いで、それがどんどん広まっていってほしいです。

そして、やっぱり世界の人たちもすごいけど、日本もすごいなって思いました。世界と日本と全員の化学者とか物理学者とかが協力し合ったら、もっともっとすごいもの、すばらしいものが生まれるんじゃないかなって思いました。