まるわかりノーベル賞2017

ノーベル物理学賞の予習講座を担当してくれたのは、科学技術振興機構の嶋田義皓さんです。テーマは「重力波 時空のゆがみ」そして「不思議な量子」です。

物理学とは

まるわかりノーベル賞2017

嶋田:有名な物理学者。例えば、この人知ってますか。

福:ああ、アインシュタイン。

嶋田:彼の研究分野は物理学です。たぶん物理学と聞くと、宇宙のことだったり。

福:天文学。

嶋田:そうですね。物理学は、身の回りにあるものがどういうふうに動いているか、理由を考えたり、どういうふうに見たらいいかを考えたり、理解したことがどう私たちの暮らしや生活を便利にしたりとか、どういう道具に使ったらいいかというのを考える学問です。そして、物理学は、あるものだけじゃなくて、それを観測するものも非常に重要です。銀河とか惑星とかを見るなら天体望遠鏡があるし、細胞だったり、DNAという世界は、顕微鏡です。だから、物理学は、大きい銀河みたいな話から、すごく小さい原子核みたいな話まで全部扱います。

重力波

まるわかりノーベル賞2017

嶋田:最初は、ものすごく大きい話。「重力波」についてです。
ブラックホールって聞いたことあります?

福:何でも吸い込んじゃう?

嶋田:光も吸い込んじゃう。だから光で見えないし、ということは、望遠鏡じゃ見えないわけですね。

福:はい。

嶋田:じゃあ、どうやったら、これがあるって証明することができるでしょう。

福:周りにあるような吸い込まれそうなものが、吸い込まれていくかとか、周りにあるとされているものを、ちっちゃい惑星とかに観測点を置いて、それをずっと追っかけて…。

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嶋田:ああ、なるほど。それが落ちていくのをながめていく。

福:うん。とか。

望遠鏡でブラックホールを

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嶋田:確かに、そうですね。たぶん本体は見えないけど、この周りは、なんか見える。実は、その方法で物理学者もブラックホールがあることを証明しています。私たちの銀河のお隣にあるM87銀河。この中心にもブラックホールがあると言われていたんですね。実際に、レントゲンみたいなX線で見たり、ラジオとかで使っている電波で見たり、それから普通の光で見たりすると、まあ、何かが出ているよねというので、こういうのは「ジェット」と呼ばれている現象なんだけれど、こういうのがあると、それはとてつもない高エネルギーの天体で、そんなのはブラックホールしかない、という形で証明しています。

アインシュタインの予言

嶋田:この、「ブラックホールを見る」という問題は、実はアインシュタインとも関係が深くて、強い重力があると時空がゆがんで、それが波になって周りに伝わるんじゃないかということを100年前に予言していたんです。
これのことを実は「重力波」と言っています。このブラックホールとか、すごく重い天体の周りの時空がひずむ、このひずみの波のことが重力波で、それを見つければ、またそれもブラックホールがあるんじゃないかという一つの証拠になるだろうということですね。100年前ですから、すばらしい望遠鏡もないし、パソコンもないわけだから、こんなことがあるんじゃないのかな、そしてそれはすごく小さいよ、という予言だったんだけれども、実際、これが100年後のいまになって、観測できたんですね。

ブラックホールによる時空のゆがみをとらえる

嶋田:で、どうやって観測したかですけれど、科学者たちは、「ブラックホール連星」と言って、2個のブラックホールがあって、その周りに重力波が発生して、その空間の歪みが伝わるんじゃないかと考えました。

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嶋田:ブラックホール2つはくっついて1つのとてつもなく大きなブラックホールになります。この周りの渦というのが、先ほど言った空間の歪みです。重力場が目には見えないけれども、それが出ているものだと思ってコンピュータで書いたものです。これがぐるぐる回ったときに、強い波が出てくる。すごく遠くにあるんだけど、それがじわじわと、ゆっくりゆっくり気の遠くなるような時間をかけて、宇宙全体に伝わっていくんです。この波は地球にも来ます。これは音でも光でもなくて、空間の歪みなので、地球がわずかに歪みます。

福:へぇ~。

嶋田:なので、重力波を測るということは、地球がどれだけ伸び縮みしたかというのを測ってあげればいいということに、アメリカの物理学者が気づいて、じゃ、それを測定しようというふうになったわけです。

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福:重力波が地球に届いて伸び縮みする。その影響っていうのは特にはないんですか。ちょっと衝撃があったりとか。全体的になんか感じたりとか、全くないんですか。人間は何も感じないんですか。

嶋田:そうなんです。実は、この伸び縮みするって言ってますけど、すっごくちっちゃい量しか伸び縮みしないんですね。例えば、地球の大きさが、今よりももっともっと大きいとしても、髪の毛1本の細さよりも動かないんです。

福:へえ。

アメリカのLIGO

まるわかりノーベル賞2017

嶋田:そのすごくちっちゃい伸び縮みをおととし初めてとらえたのが、アメリカのLIGO(ライゴ)と呼ばれている望遠鏡です。距離が大体4キロ。すごく大きいですね。これがアメリカに2台、ワシントン州ハンフォードに1台と、ルイジアナ州リビングストンにもう1台あります。こういった検出器は実は日本にもあります。この観測には稼働が間に合わなくて、ここで観測された重力波は、日本では検出していないんだけれど、今後、岐阜県の神岡鉱山の中にある「KAGRA(かぐら)」と呼ばれている望遠鏡では、重力波を観測する可能性は十分にあると思います。

とらえた重力波は13億年前のもの!

福:観測された重力波はいつ発生したものですか。

嶋田:これは、いつというのは非常に難しいんですけど、ブラックホール連星、さっきのブラックホールが合体したのは、13億年前だと言われています。

福:13億年前!?

嶋田:はい。それが地球に届いて観測されたのは2015年です。

福:えー!

嶋田:だから、本当に13億年かかって、ブラックホールが合体してから13億年かかって、さっきの波というのが、すごく小さくなって、すごく弱くなって、地球まで届いた。

福:じゃ、地球とそのブラックホールがすごく近かったら、もうガタンガタンに揺れてたかもしれないということですか。

嶋田:そう、そうですね。だから、ブラックホールが地球の近くにあったら、ちょっと人間は生きていけないような重力を感じてますけど、ブラックホールが近ければ、もっと強くて、もっとはっきりした信号を検出できたということです。

宇宙の誕生に迫る

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嶋田:この重力波をとらえる方法で、宇宙の始まりのことがわかるかもしれません。実は、光で見える宇宙は、137億年前に宇宙が誕生してから38万歳のところまでです。でも、実は、この最初の38万年の間にすごいことが起こっています。宇宙は無の状態から、突然、インフレーションという状態に入って、巨大化して、それで、中に星の材料になる物質ができて、38万歳に至るという過程を経ているはずなんですね。宇宙全体の年齢から見たら、38万歳は、赤ちゃんも同然なんですけど、ここを重力波だったら見えるかもしれないと考えられています。LIGOやKAGRAのような重力波望遠鏡は、いま地球上に置いてありますけど、それを人工衛星として打ち上げて、より高精度に測るということも今後行われる予定です。

福:ありがとうございました。

量子の不思議な世界

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嶋田:次は量子です。例えば、身の回りにある水とか、ネオン灯とかダイヤモンドとか、こういうのは、全部、すごく小さなツブツブでできているということを、中学だと3年生ぐらいに理科で習うと思います。量子というのは、この原子とか分子とか電子とかのツブツブの総称です。

福:全部をまとめたものが量子。

嶋田:果物という名前の果物が無いように、量子という名前の粒はありません。総称です。で、このツブツブは、実は「几帳面な性質」と、「ちょっとあいまいな性質」と、2つ、二重人格なんです。その両方を、これも100年ぐらい前からずっと研究されてきているんですけれども、近年、これをうまく使うと、人間にとって便利な道具がつくれるんじゃないかという動きが進んでいます。

福:はあ。

嶋田:几帳面な性質は、例えば、電子が原子核の回りをぐるぐる回る軌道などが決まっているということです。

几帳面な量子 光格子時計

嶋田:この几帳面さを利用して日本人が開発したものがあります。この写真、何だかわかりますか?

福:時計?

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嶋田:これ、時計なんですよね。例えば、時計になんで量子の几帳面さが使えるかというと、時計って、中でカチカチカチカチ、例えば振り子だったらふるえますよね。あれがきちんとふるえているのが時計が狂わない重要な現象なんですけれども、量子は几帳面に軌道が決まっているので、カチカチというのを軌道の間でやれば、それはバシッと決まってくる。それをうまく利用して、実はこの真ん中に、さっき言っていた原子が入っているんですけど、それがカチカチカチカチ鳴ることで、非常に精度が高い300億年に1秒しか狂わないというような時計をつくり出すことができるんです。

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嶋田:これを開発したのは日本人で、香取秀俊先生という方です。実際に、これも模式図でミクロの世界なので見えないですけど、さっき言っていた原子というのが本当に見えたとしたら、こういう卵を買ってきたときのカップみたいなのに原子を1個ずつ収めて、こいつがカチカチカチカチ動くので、それを時計にしましょうよという世界ですね。

福:原子って手でとれるんですか。

嶋田:手ではとれないですね。

福:目で見えます?

嶋田:目では、1個は厳しいけど、たくさん集まれば。もちろんここにある机とかこういうものも原子からできているので、そういう意味では見えるけど、顕微鏡では見えません。

福:1個に分けて顕微鏡で見るとかは難しい?

嶋田:特別な、針で触るような顕微鏡があるんですけど、そういうのでやると、実は見えるというか、写真が撮れます。
300億年に1秒しか狂わないというような時計ができて、これ、なんでこんな精度が要るのって思うかもしれないけど、例えば、カーナビについているGPS。あれはいま、例えばメートルぐらいの誤差で決まっています。それを1センチの誤差とか、1ミリの誤差で決めたいときには、こういった精度の時計が実は必要です。この時計は、将来的には人工衛星に載せて、たくさんのGPS衛星どうしの時計を合わせるのに使われるはずです。

福:なんでこんなのがつくれるんですか。

嶋田:この装置をつくるための技術では、もうすでに3つか4つぐらいのノーベル賞が出ています。例えば、この原子をとてつもない温度で冷やす技術、それから、このカチカチをとてつもない精度で測る技術、そういったものは、全部ここに入っています。その歴史の上に時計があります。

福:じゃ、ノーベル賞の塊みたいなものですね。

あいまいな性質

嶋田:量子には、あいまいな性質もあります。福君は野球部だそうですが、ポジション、どこですか。

福:ピッチャーです。

嶋田:ピッチャーは、普通の世界だと、1回に1種類の球しか投げられませんね。最初に決めたら、シュートならシュートしか投げられない。カーブならカーブしか投げられない。だけど、量子の世界では、なんと、1回でどんな球種でも全てを投げることができます。

福:ええっ。

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嶋田:これは、私たちが暮らしている身の回りの世界にはない性質なので、イメージするしかないんですけど、1回でシュートもフォークもカーブもスライダーも全部投げられる。

福:えっ、1個の球でですか。

嶋田:そうです。1個の球。1個の例えば電子、1個の原子も。ヒュッと投げるというのは、いろんな変化球。ストレートも含んでいるんですけど、全部を一度に投げるというのと同じになるんですね(笑)。

福:わかんない。

嶋田:そうなんです。これは物理学者もわからないけれど、こういうものだと思いなさいというのが、量子力学の教科書に書いてある。日常で絶対経験しないから、みんなこれはわからないのだけど、そういう性質があるというのは実験でわかっています。

超速!量子コンピューター

嶋田:このあいまいで、いろんなことが同時にできるという性質をうまく使って、例えば、1人のバッターを打ち取りたいときに、いろいろ変化球を投げて試すんじゃなしに、一度に1個の球を投げて、全部の球種をやれば、それができる。そんな世界なんですね。例えば、30人ピッチャーがいて、それらがいろんな球種を一度に投げるのと同じで、こういうことが一度にできるというようなすごいコンピューターが開発できると言われています。

福:エコ?

嶋田:エコかもしれないですね。そうですね。だって、たくさんの数を試すの大変だから、これ、1回試せばいいだけですからね。こういう量子コンピューターはすごい性能かもしれなくて、いま、いろんな企業で実際につくられようとしています。Googleがつくっていたり、IBMという会社がつくっている。それからマイクロソフトもつくろうとしています。実際に販売されている量子コンピューターもあって、これは巨大な冷蔵庫ぐらいですね。この部屋に入るぐらいの大きさなんですけど。

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福:これ、コンピューターなんですか。

嶋田:そうです。これ、冷蔵庫に見えますけど、コンピューターなんですね。中には計算のためのチップが入っていて、これでいろんな計算をします。ちょっといま、家に置くのは難しいですけども、将来的に小さくなれば、家に置いて、量子コンピューターでの計算ができるようになるかもしれないです。もしこういうすごいコンピューターができたら、何かに使ってみたいですか。

福:使ってみたいですね。一度に同じことがいくつかできるということですよね。

嶋田:そう。

福:いま、テレビとかでも、こっちでテレビ見ながら、こっちでもう一つのテレビとかいうのがあるじゃないですか。それがもっとたくさんできるということですよね。

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嶋田:そうです。一度にいろんなことが同時にできるというのが売りなので、例えば、薬の研究、薬というのは、1個の分子が違うだけで作用も違ってくるので、どの病気に効くかな、この薬はこの病気に効くかなというのを試さないといけないですよね。それって、10億回とか100億回とかたくさん試さないといけないんですけど、それをこういうのだったら。

福:1度でパッ。

嶋田:そう。1度で試せるんですね。

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嶋田:それで、量子コンピューターがいま一番恐れられているのは、暗号が解けちゃうんじゃないかなということなんです。

福:ああ。

嶋田:いま暗号というのは、数学で習うかもしれないですけど、素因数分解というのが決めていて。

福:ああ、聞いたことあります。

嶋田:巨大な数で計算するんだけれども、通常、例えば、パスワードでもそうだけど、何回か試せば開くというのがあります。今のパソコンだったら性能にもよりますが、ざっくりと計算すると1秒で100億回ぐらいは試せると思いますが、今の暗号は、スーパーコンピューターが100年かかっても解けないような数学の問題を暗号にしているんです。けれど、量子コンピューターだと、そんな計算はへでもなくて、何度でも何度でも試すのを一瞬でできてしまう。もし、量子コンピューターのほうが先にできちゃったら、いま使っているような暗号は、すぐに破られてしまうかもしれません。

福:人工知能に量子が使われちゃったら、それはもうヤバいですよね。

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嶋田:(笑)ヤバいかどうかは、実は使う人の問題。例えば、原子力もそうですけど、発電に使うこともできれば、広島に落とされたような原子爆弾に使うこともできる。こういう量子コンピューターや、それを使った人工知能というのも、使い道が大事で、科学者もこういうのを開発するだけじゃなくて、何に使っていいか、何に使っちゃだめかというのを考えながらやらなければいけないね。

福:しっかり、いいもの悪いもの。

嶋田:そうです。そういう悪いことに使わないでくださいねということで、悪いことに使えないような何か別の手段を考えておく、みたいなことが大事なんじゃないかなと思います。ではこれで授業は終わります。

福:ありがとうございます。

嶋田:ありがとうございました。