まるわかりノーベル賞2017

ここからはノーベル賞の自然科学系の3賞について個別の授業を受けてもらいました。まず、医学・生理学賞。先生役は、科学技術振興機構の辻真博さんです。テーマは、ことし大注目の研究、『生命を書き換えるゲノム編集』そして『″うんち″(腸内細菌)が決めるあなたの健康』です。

医学の発展で健康で長生きに!

辻:ノーベル賞のお話の前に、まず福君に知っておいてほしいことがあります。縄文時代から弥生時代には大体30歳だった寿命が、いま日本人の男性ではおよそ81歳、女性が87歳です。1万5000年前から、ずーっと30歳から40歳ぐらいの寿命だったのが、ここ50~60年で一気に倍になっているんです。

医学の発展で、病気が治るようになり、また多くの人がおなかいっぱいご飯が食べられるようになって栄養も改善したためです。これらは科学技術の発展によってできるようになりました。そういった私たちの健康や病気について、すごい発見をしたり、技術を作り出したりした人に対して、ノーベル医学・生理学賞というものが与えられます。

ゲノム編集

まるわかりノーベル賞2017

辻:きょう最初のテーマは、ゲノム(遺伝情報)をいじる技術です。46億年前に地球が誕生してから、地球上には、恐竜が出てきたり、ネズミが出てきたり、サルや人類が出てきたりして、いまに至ります。
私たち人類のご先祖さまは、食料になる役に立つ作物を上手に工夫しながら作り出してきました。1万年前のこのテオシントが、いまどうなっているか、想像つく?

福:トウモロコシとかですか?

まるわかりノーベル賞2017

辻:そうです。テオシントには、よく見ると小さな粒っぽいのがあるけど、現在では、この粒がどばっと増えてさらに黄色くなって、味もおいしくなりました。これは1万年かけて、ご先祖さまが工夫してきた結果です。
どうやって工夫したかというと、例えば1万年前、畑にテオシントがいっぱい生えていました。たくさん生やすと、たまに粒が大きいトウモロコシっぽいものが生えてくる。それからとれた種を植える、その次も粒が大きめのトウモロコシっぽいものがたくさん生えてくる。
さらに途中ですごくあま~いのが生えてきたら、その種を植えて、もっともっと増やしていく。トウモロコシは1年に1回しか育たないので、これを1万回繰り返してきて、最初はヒョロッとしていたのが、いまのぶっとくてあま~いトウモロコシになったんですね。

このように長い年月をかけてやってきたことを、ゲノム(遺伝情報)を操ることで時間をかけずにできたらいいよねと、みんなが思っていました。

まるわかりノーベル賞2017

辻:ところでゲノムって、ヒトには30億ずつ。福君の体の中にもたくさんあります。伸ばすと地球を2周するぐらいの長さのものが体の中にあることになります。

福:え~~!?

辻:ゲノムの中に、例えば福君の性格とか、ルックス、運動神経や健康とかを決める遺伝子があります。トウモロコシの場合は、色や大きさ、おいしさ、粒々の数などの設計図があります。

辻: ゲノム編集では、この長いゲノムの中でここを切りましょうと、まず目印をつけます。で、目印をつけたあとは、ハサミでそれをチョキチョキチョキと切っちゃう。そうして設計図を書き換えることで、もっともっと大きくて粒粒のいっぱいあるトウモロコシを作れるかもしれない。 これは魚のマダイをゲノム編集したものです。

まるわかりノーベル賞2017

福:ちょっとおっきくなってる。

辻:1.5倍ぐらい。ちょっと筋肉質で、すごく身がしまっておいしい。このほかにも、たくさん収穫できるお米だったり、腐りにくいトマトだったり。あとはマグロってすごいスピードで泳ぐから、養殖中にぶつかってケガして死んじゃったりすることもあって、そうならないように、おとなしいマグロをつくったりする研究も行われています。

福:へぇ~。じゃ、僕の体も変えられるってことですか?

辻:この技術を人間に使うには、さまざまな問題があるんだけど、近い将来、福君の体も変えられるようになるかもしれないですね。

まるわかりノーベル賞2017

福:へぇ~。

辻:ところで福君はエイズって聞いたことある?

福:はい。

辻:エイズって血液の細胞の中にエイズウイルスが感染してしまう病気なんだけど、このエイズの患者さんから、注射器でピッと血液を採ってきて、エイズウイルスが増えることができないようにゲノム編集で血液を改良して、もとの患者に戻すとエイズが治った、なんてこともできちゃってます。

福:へぇ~。すごい。

辻:でもこのゲノム編集という技術は、すごく便利だからこそ、ルールが必要です。例えば、自分の子どもを賢くする遺伝子入れますとか、ちょっと運動苦手だから運動能力が高まる遺伝子を入れちゃおうとか、一体どこまでやっていいのかなということです。

福:僕のゲノムというのは、簡単に見られるんですか。

辻:すごく簡単に見られるようなサービスもやっている会社があります。1万円ぐらいお金を出したら、小さなキットが送られてきて、それにツバをペッと入れて送り返すと、2週間ぐらいで「あなたの性格の遺伝子はこうなっています。ルックスの遺伝子はこうなっています」という返事が来ます。

福:へぇ~。すごい。

まるわかりノーベル賞2017

辻:でも、全部がわかるわけじゃありません。たとえば、性格の遺伝子が、いくつあるのかよくわかっていません。ルックスとかも、鼻の高さや目の大きさなど、それぞれを決める遺伝子がたくさんあると考えられていて、まだまだ研究して見つけていかないといけないですね。

福:これから。

辻:そうです。

福:将来的にはヒトも自分で変えられたりとか、そういうこともあり得るかもしれないんですか。

辻:そういうこともできるようになってくるんだろうけど。だからこそ、やっぱりルールみたいなものが必要だね。世の中の赤ちゃんみんなIQ200ですってなると、なんかちょっと怖いよね。

福:それこそ人工知能じゃないけど、それに近いようになってきちゃう。

辻:イケメン遺伝子がみんなに入って、みんな同じ顔の赤ちゃんになりましたなんていうのも、気持ち悪いよね。だから、どこまでこういうことをやって良いのか。みんなで話し合っていかなくちゃいけないね。

日本人の研究者も

辻:実は、ゲノムをスパッと切る、その仕組みのいちばん最初のところを見つけたのは日本人でした。細菌とかウイルスとかわかるよね。細菌とかウイルスはいつもバトルしていて、ウイルスは細菌に侵入してのっとろうとする。でも細菌はウイルスにのっとられないように防御したい。そこで、細菌がCRISPER(ゲノム編集)という仕組みで、侵入してきたウイルスのゲノムを切り刻んでやっつける。

福:自分で自分の編集をしているということですか。自分の体に。

辻:そうです。自分の体の中に入ってきた敵をやっつけるために、自分のからだの中でゲノム編集をやっているんです。その仕組みを見つけたのが、日本のいま九州大学にいる石野良純教授で、20年ぐらい前の大発見です。個人的にはそういう人がノーベル賞をとってくれるとうれしいなと思います。

福:自分で性格変えようって性格を変えるっていうのは、ゲノムは関係ないんですか。

辻:それはね、関係あるかもしれないけれども、性格は、ゲノムだけでなく、どういうお父さんお母さんのもとで育ったかとか、どういうお友達がいるかみたいな、育った環境でも変わってくるよね。単に計算のスピードとか記憶力とかだと、ある程度遺伝子が強く関係しているのかもしれないけど、天才遺伝子を持ってる人がみんな天才になれるかというと、やっぱり勉強しないとだめだよね。環境が大事かなと思います。

うんち

辻:次は、うんちってすごいよっていうお話をしたいと思います。

福:はい。

辻:微生物って聞いたことあるかな?

福:はい

辻:微生物は、ものすごくちっちゃくて、いろんな種類がいます。海の中には魚のほかに、目には見えないんだけれども、実はいっぱい微生物がいます。同じく大気中にも微生物がプカプカ浮かんでいます。土の中にもいます。そして、人間とか動物の体にもいっぱいいます。

福:おなかの中も。

辻:そうです。体の全体に微生物がすんでいます。顔にもいるし、口の中にもいるし、肺や肝臓にもいるし、腸の中にもいっぱいいます。その中で、いちばんわかりやすいうんちの話をします。うんちは、なんでできていますかというと、大体80%は水分です。

福:大半が水分。

辻:それで残りは何かというと、食べかすとか消化できなかったもんでしょと思ったら、実はそれは3分の1しかない。あんまり実感ないかもしれないんだけど、残りは腸内細菌とか、腸の中の古い細胞が新陳代謝でいらなくなったものなんです。

まるわかりノーベル賞2017

辻:腸内細菌って、福君のおなかの中には、正確には数えられないんだけど1000兆個はいます。ピンとこないかなと思うけど。

福:わかんないです。

辻:重さでいうと1キログラムぐらい。おなかの中に腸内細菌という1キロのダンベルがずっと入って、日々生活していますという感じかな。

福:体重の約1キロ。すごいですね。

辻:うんちの腸内細菌というと、ちょっと便秘だなとか、最近おなかが緩いなとか、ヨーグルトを食べるとお腹が元気になるらしいというのは聞いたことがあると思います。
最近は研究がすごく進んできて、もっとおもしろいいろんなことがわかってきました。2013年ぐらいに発表された研究なんだけれども、例えばノリとかワカメ。福君もよく食べると思うんだけど、あれを消化できるのは日本人だけです。

福:へぇ~~!? そうなんだ。

辻:例えば外国の人がノリとかワカメを食べると、うんちでそのまま出てきちゃいます。スルッと。食べすぎるとおなかこわしちゃいます。なんで、日本人だけなのかを調べていったら、どうも日本人は1200~1300年前の平安時代か、もうちょっと前に、生のノリとか生のワカメをひたすら食べまくっていたらしいんです。食べまくっていたら、最初のご先祖様は、おなかをこわしていたと思うんだけども、だんだんだんだん、海草を分解できる特殊な腸内細菌がお腹の中にすむようになっきて、いまでは日本人はおいしくノリとかワカメを食べられるようになったんです。

福:知らなかった。

辻:逆に、外国の人も特殊な腸内細菌を持っていたりします。日本人が海外旅行でおなかこわしましたというのをよく聞くと思うんだけど、まさにそれです。

福:その国に合ったものがある。

辻:そうそう。外国のいろんな食べ物とかについた微生物と出会うと、日本人の腸内細菌はびっくりしちゃっておなかこわしちゃうんですね。

まるわかりノーベル賞2017

辻:もう一つ、気分転換に白板に絵を描こうと思いますけれども、″デブ菌″(肥満菌)というのがいるんじゃないかと言われています。

やせている人と太っている人から、それぞれうんちをとって、それをネズミに与えるとどうなったかという研究があります。

やせている人のうんちを与えられたネズミは相変わらずのサイズでしたけれど、太った人のうんちを与えたネズミは、ものすごい肥満ネズミになりました。

福:へぇ~。

まるわかりノーベル賞2017

辻:何が違ったかなというと、どうも太っている人の腸内細菌には肥満菌が入っているのではないかと。だから肥満菌を与えられたネズミでは、肥満菌が大活躍して太るということが、研究ではわかってきています。

福:その人その人で違う。

辻:腸内細菌で、もう一つ大きいのは、病気が治るという話です。2013年ごろ、オランダで、腸の病気で、ほっといたら死んじゃうという患者さんたちがいました。お医者さんが、いろんな昔の実験とかを調べていって、もしかしたら健康な人のうんちを病気の人のお腹の中に入れたら治るんじゃないと思ってやってみたら、なんと、治りました。

福:やってみたら治った。

辻:もちろん、ちょんと安全性を確認したりとか、しっかり準備してからだけども、それでもエイヤ!でやったんです。そしたら、ほっといたら死んじゃうかもしれない人が、ほぼみんな治ったんですね。
では、どうやってうんちをからだに入れるんですかというと、食べてくださいというわけにはいかないんで、食塩水と混ぜて、濾紙などでこして、黄色い液みたいにするんです。それをお尻に管を入れて腸の中に流し込みます。そうすると、腸の中の腸内細菌が入れ替わって、そして病気が治ったということなんですね。それだけじゃなくて、糖尿病とか、アトピーとか、肝臓の病気とか、いろんな病気が、このうんちの液を入れりゃ治るんじゃないって話になってきています。ただ、うんちの治療って、問題がいっぱいあります。例えば福君のうんちは、福君は健康だと思うけど、実は気付いてないだけで、何か病気の兆候があるかもしれないんですね。治したい病気は治っても、ほかの病気になっちゃうかもしれないんです。

辻:あと、たくさんの患者さんを治すには、大量のうんちが必要です。超健康なうんちの持ち主に、治療に使うから、1日100回うんこしてくださいといっても無理ですよね。

福:無理ですね。

辻:もう一つは、知らない人のうんちが体に入ってくるのは、気持ち的にイヤだよねっていうのもあります。だから、たとえば、お薬にするといいんじゃない?ということで、ここは日本人がすごく頑張って研究しています。うんちの中には1000種類ぐらい、いろんな種類の腸内細菌がいて、まだどの腸内細菌がよいやつで、どれが悪いやつかわかりません。日本人はそれを分類するのがすごく上手なんですね。善玉菌とか聞いたことあるかな。

福:うん、聞いたことある。

辻:善玉菌、悪玉菌は、昔の日本人が研究を頑張って、決めました。1000種類をより分けてより分けて、、、そしたら、おなかの病気を治す細菌が17種類いました。ただ、17種類とわかったら、それだけをふやして、例えばカプセルの中に入れて、飲み薬にしちゃうこともできますね。この分野では、日本の研究者がすごく頑張っています。

まるわかりノーベル賞2017

福:うんちじゃなくて、飲尿健康法って聞いてたんですけど、意味があるのか、ないのかって。

辻:調べたことがあるんだけど、すごく意味があるよ、といった研究はまだないみたいで、よくわかんないですね。

福:昔からやられているけど、そこまで絶大な効果が出ていない。

辻:もしかしたら飲尿健康法をすると、すごく体がよくなるというふうに思い込むと、毎朝すがすがしい気持ちで目が覚めて生活できる気がする、それで元気になるという話になっているかもしれない。
そこも含めて、まだ研究としてはよくわかっていないです。もしかしたら10年後、20年後には、うんちじゃなくて、おしっこを飲んで、あるいはおしっこに含まれる身体によい物質を見つけてそれをお薬にして、なんて話が出てくるのかもしれないとは思います。

辻:最後ちょっと別の話になっちゃうけど、福君、毎日家に帰ると、ごはん食べて、お風呂に入って寝ると思うんだけど、例えば、寝ることと病気との関係とかも、すごくいろいろとわかってきています。

そういった研究は、もしかしたらノーベル賞をとるかもしれないな、というふうに思っています。そんな感じで、日々の生活にすごく密着したものを解き明かしていくというのが、このノーベル医学・生理学賞が関係する研究分野で、これからもどんどんおもしろくなっていく分野だと思っています。

福:ありがとうございました。